6. 絶対静寂
「仕上げだ! おい白鎖団! あの小僧を狙え!」
ソルガが叫んだ。歪んだ空間の向こうから、白鎖団の兵士たちが一斉にピクスへ狙いを定める。グラードを精神的に追い詰めるための、卑劣な一手。
「死ね、災厄の餌よ!」
数十本の矢と、魔術の弾丸がピクスへと放たれる。逃げ場はない。足は動かない。ピクスは反射的に目を閉じ、名を呼んだ。
「グラードッ──!」
その悲鳴が、巨人の鼓膜を打った。グラードがゆっくりと振り向く。その瞳に、理性はなかった。獣の光すらなかった。あるのは、底なしの暗い
うるさい。邪魔だ。俺の通り道を、俺の静寂を、これ以上汚すな。
グラードは、斧を捨てた。そして、ひび割れた両手を広げ、世界そのものを鷲掴みにするように虚空を握りしめた。
「──消えろ」
音が消えたのではない。存在が消えた。
ブツンッ。世界中の電源が落ちたような、唐突な暗転。
ピクスに迫っていた矢が、空中で灰になって崩れ落ちた。白鎖団の兵士たちが、悲鳴を上げる間もなく、輪郭を失って砂へと還る。彼らは殺されたのではない。「最初からいなかったこと」にされたのだ。
「な、あ……!?」
ソルガが目を見開く。彼の『
「ま、待て……! 俺の時間は……俺の因果は……!」
「うるさい」
グラードが一歩踏み出す。その足音だけで、ソルガの遺物が砕け散った。時の檻が壊れる。因果の逆流が止まる。
ソルガは何かを叫ぼうとして、口を開けたまま、ゆっくりと炭化していった。絶対的な“停止”の前に、過去への逃避は許されなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます