5. 無限の処刑台

 五秒。それが、この世界に残された時間のすべてだった。


「ヒャハハハハ! 戻れ! 何度でも死んで、何度でも戻れぇ!」


 《逆巻きのソルガ》の狂笑が響くたび、世界がガクリと揺れ、巻き戻る。白鎖団の剣がグラードの肉を裂く。グラードが斧を振るい、白鎖団をミンチにする。──ノイズが走り、全員が無傷で元の位置に戻る。

 永遠に続く殺し合い。グラードの足元には、現実改変の負荷に耐えきれなくなった地面がドロドロに融解し、黒い沼のようになっている。


「が、ぁ……っ」


 ピクスは泥の中で悶えていた。足に刺さった矢の痛みだけは、巻き戻っても消えない。脳が焼き切れそうだ。何度も死にかけ、何度も生かされ、痛みだけが蓄積していく。


(グラード……もう、だめだ……)


 巨人の背中を見る。その背中は、ボロボロだった。敵の攻撃ではない。内側からの崩壊だ。終わらないループへの苛立ちと、極限まで高まった静寂への飢えが、グラードの肉体という器を内側から食い破ろうとしている。全身の皮膚がひび割れ、そこから黒い煙のような“虚無”が漏れ出している。


 侵蝕段階・第五段階〈虚寂きょじゃく〉。限界点だ。

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