3. 砂鐘の予言
砂嵐を避け、二人が逃げ込んだのは
司祭は、入ってきたグラードを見ても驚かなかった。まるで、世界の終わりが訪れることを最初から知っていたかのように、穏やかに微笑んだ。
「ようこそ、静寂の王よ。そして、その影を歩く者よ」
グラードは司祭を無視し、壁際で座り込んだ。今の彼にとって、静かにしている人間は風景と同じだ。
司祭は、震えるピクスに水差しを差し出した。
「恐れることはない。ここは時と因果の終着点。全ての運命が一度立ち止まる場所だ」
「あんた……何者だ? グラードを知ってるのか?」
ピクスが問うと、司祭は女神像を見上げた。
「私は観測する者だ。……少年よ。お前は気づいているはずだ。あの男は、もう人間ではない。世界そのものが『静寂』を望み、あの男という器を選んだのだ」
司祭の声は、不思議とグラードの静寂に消されずに響いた。
「あの男は最後に、必ず『静寂』を選ぶだろう。自らの命を含めた、完全なる沈黙を。それは誰にも止められない」
「じゃあ、俺はどうすればいいんだよ! 俺も一緒に消えるのか!?」
ピクスが叫ぶ。司祭は、哀れむような、それでいて希望を託すような目でピクスを見た。
「あの男が静寂を選ぶ時……お前だけは、『意味』を選ぶことができる」
「意味……?」
「そうだ。あの男が何のために戦い、何を残して消えたのか。その答えを決める権利は、神ではなく、最後まであの男の背中を見ていたお前だけにある」
司祭の言葉は予言のように重く、ピクスの胸に沈んだ。グラードは眠っている。その寝顔は、かつてないほど苦しげで、悪夢にうなされているようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます