13. 拒絶の咆哮
ピクスの絶叫が、廃都の夜を引き裂いた。
その瞬間。闇の中で、二つの光が灯った。獣の形に裂けた、グラードの瞳孔だ。
彼はゆっくりと立ち上がった。ピクスを助けるためではない。眠りを妨げられたからだ。そして何より、自分の
「……静かにしろ」
低く、地を這うような呟き。だが、それは言葉としての意味を超えていた。『強制の静寂』が、最大出力で叩きつけられたのだ。
ドォンッ!!
見えない巨大なハンマーが、空間そのものを殴りつけたかのような衝撃。ピクスの脳内で響いていたノイズが、物理的な圧力によって無理やり圧し潰される。同時に、ピクス自身の鼓膜も悲鳴を上げた。
「が、はっ……!?」
ピクスは呼吸ができなくなり、地面に這いつくばった。グラードの静寂は、もはや「音を消す」という生易しいものではない。「音を出す存在を許さない」という、世界そのものへの拒絶。そこには、ノマドへの攻撃意識もなければ、ピクスへの配慮もない。ただ「黙れ」という暴力的なエゴだけがある。
『ヒャ、ハ……ッ! すげぇ……!』
虚空から、ノマドの喘ぐような声が漏れた。幻聴ではない。実体としての声だ。グラードの圧力が強すぎて、認識のズレの中に潜んでいたノマド自身が、物理空間へと引きずり出されそうになったのだ。
『怖いねぇ! 全部壊して、全部黙らせる気かい? いいよ、最高だ! その調子で世界を空っぽにしな!』
捨て台詞とともに、不快な気配が霧散していく。ノマドは逃げた。グラードの底知れない「飢え」に触れ、本能的な恐怖と、狂気的な歓喜を抱いて撤退したのだ。
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