4. 理由なき蹂躙
一斉に銃口が火を噴いた。十数人の部下が、一斉射撃を加える──はずだった。
──フッ。
世界から、音が消えた。
マズルフラッシュは確かに見えた。硝煙も上がった。だが、爆音がしない。銃弾が発射される破裂音も、空気を切り裂く風切り音も、着弾の音も。すべてが唐突に、スイッチを切られたように消失した。
それだけではない。銃口から飛び出した鉛の弾丸たちが、グラードの数メートル手前で、まるで見えない壁にぶつかったかのように勢いを失ったのだ。運動エネルギーそのものを殺され、ポトリ、ポトリと、雨粒のように地面へ落ちていく。
(──始まった)
ピクスは耳を塞ぎ、目を剥いた。〈余波の静寂〉。グラードの遺物がもたらす、侵蝕の第一段階。まだ世界は大きく歪んでいない。だが、この空間において「抵抗」という概念は、物理法則レベルで否定される。
盗賊たちの顔が驚愕に歪む。口をパクパクと開閉させ、何かを叫んでいるようだが、声は届かない。無音のパニック映画を見ているような、滑稽で不気味な光景。ロウガが必死にライフルを構え直すが、その手は震え、引き金すら重く感じているはずだ。
グラードは一歩踏み出した。斧を振り上げる動作に、予備動作も構えもない。ただ、歩くついでに障害物を払うような、自然な動き。
刃が閃く。
ド、パンッ。
静寂の中で、ロウガの上半身がトマトのように弾け飛んだ。足を狙う? 跪かせる? そんな微細なコントロールは、この暴力には存在しない。あるのは「粉砕」だけだ。
一人、また一人。逃げようと背を向けた者も、剣を抜こうとした者も、平等に肉塊へと変わっていく。断末魔すら許されない。骨が砕け、内臓がぶちまけられる凄惨な光景だけが、無音の中で淡々と処理されていく。
それは戦闘ではなかった。作業だった。
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