夏、墓参り、俺。幼馴染はたぶんゾンビ【2000文字】
有梨束
侑が、帰ってきた。
去年死んだ幼馴染が生き返った。
いや、正確に言うと墓の中から蘇って、出てきた。
ガキの頃の遊び場だった山の上に墓が並んでいる。
その1つ、『侑』が眠っていたはずの墓の下の地面にがっつり穴が空いている。
目の前には砂まみれの侑が、立っている。
「うちの村って、土葬だったんか…」
「ツッコむとこ、そこじゃねえ…」
「とりあえず、服着ろよ。あ、ゾンビって素っ裸でもセーフか?」
「アウトだろ」
帰省のためにリュックに入れていた俺のTシャツと短パンを渡す。
侑は気まずそうにしながら、それを素直に着ていく。
「お前、ほんとは生きてたん?」
「ちゃんと死んだわ、余所のトラックに轢かれて」
「だよ、なぁ…」
生返事をしながら、侑のことを凝視する。
どこからどう見ても、俺が知っている侑だ。
よくよく見ると、去年の高校生の侑のままな気もする。
「千暁こそ、何しに来たん?」
「何しにって…」
「俺の通夜にも葬儀にも来なかったやん、薄情者ぉ〜」
「それは…。いけるかよ、お前が死んだって認めるようなもんじゃんか…」
「死んでんだって」
「だったら大人しく墓の下に居ろよ」
「それはそう」
着替え終わった侑が不服そうにTシャツの襟を摘んだ。
「なんかデカい」
「お前と違って成長したんだわ」
「千暁の方がデカいとか、ムカつく」
こういうところは何も変わっていない。
少しだけ俺より背が低い侑。
少しだけ俺との間に距離を空ける侑。
目に映る侑の変わらなさに、ほんの少し寒気がした。
砂まみれなのが気になるのか、侑は犬みたいに首を振った。
「…で、ゾンビ生活でも始めるんか?」
「俺って、ゾンビなのかな」
「まあ、血色は悪いな」
「俺が噛み付いたら、千暁もゾンビになるんかな?」
「やるか?」
「断れよ」
侑は、あからさまに嫌そうな顔をした。
はああ、と侑は頭を掻いたあと、その場に座り込んだ。
俺も倣って、隣に座った。
「千暁は結局大学にしたの?」
「ああ、A大にした」
「ふーん。大学楽しい?」
「バイトと授業で忙しくてあんまり」
「俺も生きてたら、千暁と同じ大学だったかな」
「侑は俺と同じとこ嫌がってたじゃん」
「こんなことになるなら、一緒でよかったよ」
「…」
侑はまっすぐ目の前の景色を見ている。
こっちを見ない。
俺は侑の横顔を見た。
「俺が、千暁のこと好きだったって言ったら、どうする?」
「…知ってた」
「なんで」
侑は膝に顔を埋めたかと思うと、視線だけようやくこっちを向いた。
その目を見ながら、俺は真面目に言う。
「なんとなくわかってた。いつからか、俺の近くに来なくなったし」
「はーーー、なんだそれぇ…」
「幼馴染の勘、舐めんなよ」
「…それはそう〜」
侑は完全に膝に顔を埋めた。
くぐもった声がした。
「…俺、死ぬって思った時、『もう一回千暁に会いたい』って思ったんだよ」
「…うん」
「なのにお前通夜も葬式も墓にも来ないし」
「…悪い」
「なのに、今更来るし」
「…ようやく、俺も受け入れてきたとこなんだよ」
「そりゃ化けて出るだろ」
「それは、そうだな」
ここから、俺らが育った場所が見える。
あそこで、ずっと侑と一緒にいた。
上京したって、バラバラの道に進んだって、帰省のたびにこうやってなんとなく顔を合わせて、近況報告して、同じだけ歳を食って、酒を酌み交わして、そしてこの村じーちゃん達みたいに面倒臭えジジイになっていくんだと思っていた。
去年と変わらない侑を見る。
「千暁、好きだったよ」
「うん。ごめん、俺は同じ気持ちにはなれない」
「知ってる。だから言わなかったんだよ。…幼馴染舐めんな」
「それはそう」
俺の返事に侑は盛大にため息を吐いて、大の字になって横になった。
「はあーあ、疲れた。眠い」
「ここで寝るなよ」
「うん、墓に戻る」
侑は俺を見上げて、眩しそうに目を細めた。
「千暁、もっと墓参り来いよ」
「そうする」
「来ないとまた化けて出てくるから」
「安らかに眠れよ」
「短命でも長寿でもいいからさ、生きてる間はなるべく来てよ」
「そこは長生きしなよって言うとこ」
「やだね、俺はもう死んじゃったんだから」
侑はケタケタ笑うと、立ち上がって、フラフラと墓の方へ歩いていく。
俺はその後ろをついていく。
「あ、彼女は連れて来んなよ。フッツーウに嫌だから」
「ゾンビって、人のこと呪えるんかな」
「意地でも祟ってやる」
笑った侑を見て、俺の気持ちがようやく落ち着いた気がする。
「じゃあ、もう一眠りするよ。よいしょっ」
「そんな、自ら穴に戻っていく感じなん…?」
「千暁、上から土かけといて」
「マジかよ…」
侑は墓の下の穴にすっぽり収まると、ヒョイっと手を挙げた。
「じゃあね」
「侑、会えてよかった」
侑は一度目を見開くと、ガキの頃みたいにニカッと笑った。
「知ってる」
そう言うと、ゆっくり瞼が閉じていって、侑は再び眠りについた。
今日のことは、夢だったのかもしれない。
俺が見たかった幻影なのかもしれない。
それでもいい。
俺は墓を後にして、山を下った。
「あ、服返してもらうの忘れた」
了
夏、墓参り、俺。幼馴染はたぶんゾンビ【2000文字】 有梨束 @arinashi00000
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます