ゆずきといつきとはづき

まぬえる

第1話 柚希・一生・葉月

ウッ……ぷ……ゴポォ……ビチャ


「はぁ……はぁ……うぅう……」


グルゥ……グポ……ビチャビチャ……


「はぁ……はぁ……ふぅ……」


最悪。


「きぶん……良くなってきたかな」


ゴミが足に当たる。


1階に降りる。口をすすぐ。歯を磨く。


顔と髪を洗う。

吐いたものがいつの間にか髪にも付いてる。

歯を磨く。軽く化粧をする。


2階にもどる。着替える。

パジャマの置き場に悩む。椅子に掛ける。


『人間以上』。タツルから借りた本。持つ。


鞄に入れる。1階に降りる。父さんは寝てる。


玄関に向かう。外に出る。青い。暗い青。


自転車。立ち止まった。もう1回トイレに行こうかな。


いいや。自転車にまたがる。

ゆっくり行こう。涼しい。



───────────



「いっくーん?」


脳みそから出られない。


「いっくーん?」


出たくねぇ。


「はよ起きんさい!いっくん!」


「わーった、わーった!起きる!」


ばーちゃん、台所に戻ったかな?


あー、チクショウ。

朝はいつも不機嫌だから、ばーちゃんに不機嫌な話し方しちまう。ごめんよー。


着替えるか。


「おっと、インスタの更新を確認!」


『Hamana』の名前を探す。


「更新されているぅ」


こいつは……浜名さん家の猫か。


「キャワイ〜、羨ましいなーこいつ。俺も来世は浜名さんに飼われてーな」


精神の充電完了。スマホの充電もばっちし。


「できとるでー、ジュースいる?」


「頼むわー」


歯を磨きながらそう言う。ぐちゅぐちゅぷー。


朝食はホットケーキ。甘党という訳では無いが、うちの朝食ではよく出てくる。


『ジュース』というのはばーちゃんが作ってくれる、青汁とバナナと牛乳をミキサーにかけたものだ。

こいつは俺の幸福な朝には欠かせない。あと、ばーちゃん曰く快便になるらしい。


「今日は塾じゃけぇな」


「わーっとる。あ、昼飯代くれん?」


「入口に置いとる」


「気が利くね〜奥さん。ありがと。ご飯もありがと、美味しかった。行ってくるわー」


「気ぃつけてね。最近、事故多いけん」


「おっけー」


玄関に行くと、お金と一緒にハンカチ、ポケットティッシュ、水筒が置かれてた。


玄関を出て、自転車を出す。


もうすっかり明るい。急がねば。



───────────



アラーム音。


上半身を起こす。


きっちり6時。よしっ!


シャツとスカート、ブレザー着て……1階に降りる。


「おはよ!」


「おはよう、ゆず、早いね〜。」


「ママには勝てないよ」


「後でパパ起こしてきてー」


「はーい」


寝癖直して、顔を洗って、ファンデして、バレない程度に唇ほんのり赤くして……完成!今日のビジュ良し。


「パパー、起きなよ〜」


「……うるさ〜い」


「あ、暴言吐かれた〜。ママ呼んじゃうよ〜」


「はいはい、降参。起きるよ」


どうしよっかな〜。ちょっと勉強しよ!

自分の部屋に戻って、ベッドと寝間着を片付ける。


英単語覚えたり、昨日の恒等式のプリントを解いたりしていると……


「ゆずー、降りておいでー」


「はーい!」


「朝ごはん何ー?」


「卵焼き作りました〜」


「まじ!?最高なんじゃけど!」


私の大好物は卵焼き。そして、母の苦手な料理も卵焼き。

小学生の時、どこかのレストランで食べてから大好物になって、それから母は私のために猛練習してくれた。


「母さん、がんばりました〜。弁当に入っとるよ」


「ナイス、ママー」


朝ごはんを食べ終え、スマホを取り出す。

ニュースを追い、推しの情報確認をし、インスタの確認をする。


「パパー、そういえば次いつ研究室見してくれるん?」


「そうじゃなー。まぁまた言うわー」


「はー、前もそんな感じやったやん」


「ごめんごめん……」


「その先はないのかよ」


父は大学の教授で、生化学の研究をしている。

中学生の時に研究室を初めてみせてもらってから何度も頼んでるのに、それ以来「忙しい」とか言って見せてくれない。


「ゆずは生物系に行くん?」


「んー、悩んでる。理系ってことは決まってるんだけどねー」


「間違っても数学科なんて行くなよー。あそこはおっそろしいんだからな。」


「まぁまぁ、ゆずが決めることだから」


父は大学の頃、数学科から生物系の学科に移った。それから数学科はトラウマらしい。


「知らないだろー、数学科の恐ろしさ。俺が大学生だった時の最初の授業でな、突然黒板に円書いて、その中に点を打ったと思ったら、『さて、今日やるのは、この点が円の中に含まれることの証明です』ってさ」


「何それ?」


「ってなるだろ。みんなポカンとしてたよ。見りゃわかるだろって」


「えぐー」


「じゃけ、数学科行く時はよく考えなさいよ?」


「はーい」


「そろそろ時間よ」


「じゃあ、行くか、柚希」


「ママ、いってきまーす」


「行ってらっしゃい」


早朝の青い世界に飛び出した。色とりどりの一日はいつも少し寂しげな青から始まる。


そう考えると少し感慨深い。


お父さんの車に乗ると、涼しい風が遮断される。

このときはいつも自転車通学にちょっとだけ憧れる。


「ゆずき、そういえばもうすぐ模試あるんだってな」


「うん、そうだよ」


「前より成績上がってたら、どうにか研究室見せれるようにしてあげるわ」


「ほんと!?言ったな〜?」


「ああ、言ったよ」


お父さんはキメ顔で少し微笑み、私を見る。

私のお父さんはちょっとキザなとこがある。


「お父さん最高!」


そんなお父さんが大好きだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゆずきといつきとはづき まぬえる @Geeeeeeeeeeek

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ