Re:デスマーチからありふれた職業で俺TUEEEくせにこの素晴らしい成り上がり不適合者マンの孫になりたくてスマートフォンとともにレベルアップな件~オンライン教室行ったら本気だす~

くらのふみた

第1話

 その日、俺こと佐藤リムル(34歳・独身・元プログラマー)の人生は、修正不可能なバグのごとく唐突にクラッシュした。

 デスマーチ38日目。深夜のコンビニへ「HP回復ポーション」こと強烈な栄養ドリンクを買いに出た俺は、居眠り運転のトラックという名の強制終了イベントに遭遇したのだ。

 宙を舞い、アスファルトに叩きつけられる刹那、俺の脳裏をよぎったのは走馬灯ではない。

「あ、これで明日の納期、守らなくていいんだ」

 それは、社畜の魂が解放された瞬間の、深い深い安堵だった。


「――残念だったな、死んでしまって」


 再起動(リブート)した俺の視界に広がっていたのは、白一色の空間だった。

 そして目の前には、ファンタジーRPGのパッケージ詐欺くらい露出度の高いドレスを着た美女が、玉座でふんぞり返っている。

 金髪碧眼、神々しいオーラ、そして物理演算を無視したような爆乳。

 いかにもな女神様だが、その美しい顔には「残業代未払いの社長」みたいな邪悪な嘲笑が張り付いていた。

「私は女神アフロディーテ。長いからアフロでいいぞ、下等生物。さて、お前の来世のステータスガチャの結果だが」

 彼女は手元の石板(タブレット端末っぽい)を無造作に放り投げた。

 カシャン、と俺の足元に滑ってくる石板。そこに刻まれていた文字は――


『職業:無職』


「は?」

「プッ、くすくす! 最高だろ? 『異世界救済』の勇者枠じゃなくて、『廃棄処分』の産業廃棄物枠なんだよお前は!」

 女神アフロは腹を抱えて笑った。

「スキルも産業廃棄物だなー。『スマホ』? 『スライム化』? なんだこれ、粘液まみれで電波探せってか? ギャハハ!」

 俺は眉間を押さえた。

 なんだこの女神。顧客満足度とか考えないタイプか。

「……で、俺はどうなるんです?」

「あ? 決まってんだろ。『奈落』行きだ。生存率0.00%の超高難度ダンジョンで、モブらしく魔物の餌になってくれや。じゃあな、ゴミ!」


 パカッ。


 コントのように俺の足元の床が開いた。

 重力が仕事をし始める。

「ちょ、待てよ! 異世界転生って言ったらチートとか、ハーレムとか、テンプレがあるだろ!?」

「予算オーバーでーす! さよならー!」

 手を振る女神。遠ざかる白い天井。

 ――ふざけるな。

 34年間、真面目に生きてきて、最後がゴミ処理扱いかよ。

 俺の中で、何かが切れた。


「……道連れだ、クソ女神ッ!!」

「え」


 俺は今わの際に鍛え上げた『火事場の馬鹿力(社畜)』を発動し、反射的に手を伸ばした。

 狙うは、玉座から身を乗り出して俺を嘲笑っていた、その無防備な足首!

 ガシッ!

「捕まえたぞおおおお!」

「は!? いや、ちょっと!? 離せ! 私の美脚が! ストッキングが伝線するぅぅぅ!?」

「地獄の底まで付き合ってもらうぞ、コンチクショウ!」


 ズリズリズリッ!

 玉座にしがみつく女神アフロだったが、重力と俺の執念には勝てなかった。

「いやあああああ! 落ちる! 落ちるぅぅぅ!?」

「ヒャッハーーー!」


 俺たちは仲良く絡み合ったまま、底なしの暗闇へとダイブした。




 気がつくと、俺は腐った生ゴミのような臭いが充満する洞窟にいた。

 ここが『奈落』か。

 俺の隣では、女神アフロが白目を剥いて気絶している。ドレスはボロボロ、自慢の金髪も泥まみれだ。ざまあみろ。

 さて、状況確認だ。

 目の前には、ビル3階分くらいの大きさがあるベヒモスっぽい魔物が、涎を垂らしてこちらを凝視している。


「グルルルル……」

「……ハードモードすぎるだろ」


 開始早々、詰んだ。

 魔物が剛腕を振り上げる。俺は反射的に目を閉じた。

 ドゴォッ!!

 全身がひき肉になる感覚。痛みすら感じる暇もなく、俺の意識はブラックアウトし――


 ――YOU DIED――


『コンティニューしますか?』


 ……は?


 次に目を開けると、俺はまた洞窟の入り口に立っていた。

 隣には気絶したアフロ。目の前にはベヒモス。

 デジャヴ? いや、記憶がある。俺はさっき、死んだはずだ。

 俺は震える手でポケットを探った。

 そこには、生前愛用していたスマートフォン。画面が割れているが、電源は入る。

 インストールされているアプリは一つだけ。『異世界攻略Wiki(検索)』。


「これ……『死に戻り』か?」


 俺は状況を理解した。

 どうやら俺は、死ぬたびに直前のセーブポイントに戻る能力を持っているらしい。

 そしてこのスマホ。

 俺は『ベヒモス 攻略』と入力して検索ボタンを押した。


『検索結果:ベヒモス(奈落種)』

『弱点:眉間の第三の目。ただし物理無効バリア常時展開。魔法攻撃のみ有効。耐性:火・水・雷。弱点属性:聖』


「魔法なんて持ってねえよ!」

 俺が叫ぶと同時に、ベヒモスが襲いかかってくる。

 魔法? ないなら魔法以外でどうにかするしかない。

 物理が無効なら、物理じゃなければいいのか?

 俺は自分のスキル欄を思い出す。『スライム化』。

 

「……やるしかねえ!」


 俺は突進してくるベヒモスの懐に飛び込みながら、念じた。

 ――なれ! スライムに!

 身体の輪郭が崩壊する。骨が溶け、筋肉が液状化する。

 ドロリとした青い粘液の塊になった俺は、物理攻撃を完全に透過させ、ベヒモスの巨体に張り付いた。

「喰らえ、『捕食』ッ!!」

 ズズズ、ズズズズズ……!

 俺の体が、巨大な魔物を包み込み、溶かし、吸収していく。

 圧倒的な質量差など関係ない。これは物理現象ではなく、スキルの強制力だ。

 断末魔すら上げられず、奈落の主は俺の胃袋(?)へと消えた。


『レベルが上がりました。レベル1 → レベル999(カンスト)』

『スキル『剛力』『魔力絶大』『物理耐性』『全属性魔法』を獲得しました』

『称号『奈落の覇者』を獲得しました』


 ……経験値効率、バグってない?

 どうやらこの奈落の魔物は、経験値がインフレ設定されていたらしい。それをレベル1で倒してしまったせいで、一撃カンストしてしまった。

 俺は人型に戻り(服はスライム生成で作った)、自分の手を見つめる。

 力が溢れてくる。今の俺なら、指先一つで山を消せる気がする。


「う……うう……ここは……?」

 足元でアフロが目を覚ました。

「私の天界は!? 高級エステの予約はどうなったの!?」

 現状を理解できていない駄女神を冷ややかな目で見下ろしつつ、俺はスマホで『奈落 出口』を検索した。

 最下層の『深淵の魔王』を倒せば、地上への転移ゲートが開くらしい。


「行くぞ、アフロ」

「はあ!? 誰に口を聞いている! 私は女神ぞ!? あと私をおんぶしなさい! 歩きたくない!」

「……置いてくぞ」

「乗ります! 乗せてください!」


 俺は文句垂れる女神を背負い、奈落のダンジョンを駆け抜けた。

 道中に現れるドラゴンは、デコピンの風圧(ワンパン)で粉砕。

 即死トラップの数々は、『絶対防御』の盾で完全無効化。

 隠し通路はスマホの『マップ機能』で全バレ。

 もはや冒険ではない。ただの作業(タスク処理)だ。


 そして最下層。

 ラスボスである『深淵の魔王』が口上を述べようとした瞬間、俺は面倒くさかったので遠距離から魔法『聖なる光(エクスカリバー・ビーム)』をぶっ放して消し飛ばした。


「……弱い。弱すぎる」

「あんたが規格外なだけよ! 何なのそのデタラメな強さは!」


 アフロが背中で叫ぶ中、俺たちの目の前に地上への光のゲートが現れた。

 こうして、俺こと佐藤リムル(職業:無職改め魔王の孫)の、異世界成り上がり生活が幕を開けた。

 地上に出た俺たちを待っていたのは、中世ファンタジーな景観と――

 

「……学校?」


 巨大な城壁に囲まれた学園都市、『王立魔王学院』だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年12月28日 23:58
2025年12月29日 23:58
2025年12月30日 23:58

Re:デスマーチからありふれた職業で俺TUEEEくせにこの素晴らしい成り上がり不適合者マンの孫になりたくてスマートフォンとともにレベルアップな件~オンライン教室行ったら本気だす~ くらのふみた @humita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画