ポップで気軽な短編集(異世界編)

佳芳 春花

第1話 世界観の説明書

 皇立ボーダー図書館。そこには一冊の魔本だけが収容されている。


 皇暦3885年12月27日。以前より問題に挙がってい国境間の空上移動は、不法入国等で逮捕者が相次ぐ中。

 この年、飛行能力を有する者たちは、野生の動物を除いて、国同士の許可なく空を飛ぶことを国際同盟で禁じる協定が結ばれた。国から国への空の移動は、管理された空を飛ぶ鉄の箱に変わり。伝統的な魔法使いは箒から降ろされた。

 一部の翼を持つ者たちは暴動を起こしたが、統率された鎮圧軍の前では必死の抵抗も虚しく、その翼は糸も簡単に圧し折られた。

 この出来事は、人々から「空は自由の象徴である」と言う幻想を過去へと変えた。街には狂乱を思わせるヒップホップ等のアップテンポな曲が流行り、何かに追われるように若者たちは流行に没頭していった時代。人々は常に変わり続ける時代の速さを敏感に感じ取っていた。


 そんな中、一つの皇立図書館が新設された。

 首都圏内にある広大な公園の中に重々しく築かれたその図書館は、内向きに結界が張られている。それは外界からの攻撃を想定したものではなく、図書館の中央に位置するオリハルコン製の書見台。そこに開いた状態で設置された3メートル程の分厚いハードカバーの一冊の本に向かって張られていた。

 その本は、本の体裁をとってはいたが無地のノートのように、未完成で空白も多いように見える。ただ、その空白は、何者かの手で常に書き綴られている。


 今ーーこの瞬間も。


 本の製作者は分かっていない。

 研究の末にわかったのは、この本が図書館が出来る前からここにあったことだけ。そして、この世界の何処かで起きたこと、また、起きていることが書かれていると言う情報だけだ。誰のどの視点から書かれたものなのか、それらはまだ研究結果が出ていない。個別の物語のようになっており、それらが切り替わる時は数字とエピソード名が書かれていた。

 ただ、何を基準にこの世界の出来事を選び、書き加えられているのか。それさえ不明の魔本である。

 それでも本として書かれたものを読むことは出来る。

 いつの時代、誰が何の目的で本を作り、ここに置き、何をしようとしているのか。何一つわからないこの本は、しかし、破壊不能の強力な魔法が込められており、研究者は足繁く通い、人々は収容のための体裁として、図書館を作った。

 図書館の中は、この一つの魔本しか置かれていない。その図書館は、一つしか本がないものの、誰もが見ることのできる開かれた博物館のようだった。

 図書館の名前は皇立ボーダー図書館。


 そしてーーこの文章もまた、この本に記録されている一部である。

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