春の図書館の些細な一幕

白昼夢茶々猫

春の図書館のある一幕

 最近見慣れない顔が増えた。なんでだ?

 ……そうか、新入生がやってくるようになったのか。

 あまり人がいないのをいいことに机の上で、でろでろと溶けながら目線だけは本に向けてだらしなく本を読んでいたら、集団の女子生徒が来て、慌てて姿勢を正した。

 誰も自分のことなんて気にしていないというのは理解しているものの、それでもだらしがないやつだと思われるのは嫌だ。だったら最初からきれいな姿勢で読んでいろよってのは、まぁ……その通りなんだが。

 行く部活もなく、放課後に遊びに行く相手もおらず、純粋なる陰キャ男子を極めた俺は、読みかけの本に必死に目を落とすものの、耳の集中までもそうはいかない。

 いや、彼女らの名誉のために言っておこう。彼女らは側にいる人が聞こえる限界まで声を落として話している。

 そう、決してうるさくはない。ただ問題はここが図書室という静寂に愛された場所であるということか。

 椅子をちょっとだけ動かす音、足を組みなおす音、本を引き抜いたときに、端の本がぱたんと倒れる音、これら全てが部屋中に響いてしまうようなそんな場所なのだよ図書室というものは。

 つまるところ、女子生徒たちよ。君たちの声はカウンター近くにいようが、僕の座っている席が、日本十進分類法第九類の棚の前、君たちからみて右手一番奥だろうが、その話している内容は聞こえている。


「ねぇ、この本なんだけど、どこにあるかわかる……?」

「司書さんに聞いた方が早いと思うけど」

「うぅ、私そういうの話しかけるの苦手なんだよ、それに今忙しそうにしてるし」

「じゃあ……」


 ん?

 本の内容なんてそっちのけで、耳の情報にのみ集中していた俺は、興味深いところで女子生徒たちの声が途切れたところで、ほんの少しだけページに埋もれさせていた顔をちらりとあげた。


「あの人に聞いてみない?」


 俺?

 彼女らの視線の先を辿る先に、それを遮る人物はいない。

 あ、やっぱり俺ですか?

 いやぁ。確かに俺は放課後中、学校のある日はほぼ毎日図書室に入り浸っている男で? 確かに図書室中の本を知っているといっても過言ではないけれど?

 といった感じに、陰キャの心は騒ぎ出す。心の中がどんだけパーリータイムであろうと、すんっと凪いだままの顔は教室内で悪目立ちせず、空気のように振舞うためには必須のスキルだ。

 とはいえ、今図書室の中には俺しかいない。

 そのまま本に夢中なふりをして、聞こえてくる足音に耳を澄ましながら、上滑りする文章の上を必死に目で追う。訂正、目で追うふりをする。


「あの、すみません」

「ちょ、ちょっといいですか、すみません」


 案の定女の子達が声をかけてきた。

 内心、ガッツポーズをした。理由? いや、ここだけの話、俺、真面目かつ真剣な顔で友達の作り方って検索かけたことあるんだよ。

 ……ほんとう、ここだけの話。


「この作者の本ってどこにあるかわかりますか?」


 そう言って、スマホの検索結果画面を見せてきた女子生徒。

 奇遇にもそこに映っていたのは俺が今読んでいる作者の本で。

 えっ? 運命じゃん? とかその時俺は多分調子に乗ったことを考えた。


「あー、その本ならこっち」

 当然知っている作者だからすっと、案内できる。あれ俺かっこよくね?

「えっ、早。すごい……!」


 女子生徒たちから感動の目で見られる。俺そんな目で見られたこと同性からすらないよ。うわ、うれしー。


「まぁ、いつも好きで来てるから」

「読書好きなんですか?」

「だいぶ好き」

「え、この作者さんの本とかって読んだり……」

「今ちょうど読んでる」


 ……なぁんて。

 いや、現実がこんな感じだったら俺だってこんな図書室のわざわざすみっこの極みみたいなところで気配消して本読んでないのよ。

 いや、本は本当に好きだから読んでるからそれはいいんだけどさ。

 あー、誰かダチと呼べる奴と放課後マックとかしてぇー。

 もう人の目を気にせず、またどろっと溶けて机にへばりついたまま本に目を落とす。

 行儀的には悪いけど、俺、この姿勢が一番読書に集中できるんだよね。

 そうして読書集中モードに入った俺は気がつかなかった。

 本当に現実に存在する、本を探す女子生徒の求めている本が、俺が読んでいる本と同じ作者であるというミラクルがまさかの起こり、その影響でその女子生徒が俺に声をかけようとしていたことを。

 ……いや、気づけよ、俺。

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春の図書館の些細な一幕 白昼夢茶々猫 @hiruneko22

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