だから私はマッチングアプリをやめた

@a_0830

過去

 2017年、やっと半袖で外に出られるようになった日のこと。

 高校生の私は、あまりにも雑に処女を捨てた。

 タイムマシンがあるのなら、迷わずその日の私を引き止めるだろう。

 残念ながら現代の技術ではそれは出来ない。だから今の私はただひたすらに後悔することしかできないのだ。


 昔から友達に囲まれて育った私。

 人並みに恋愛に興味はあったけれど、少女漫画で見るような背の高い美少年はどこにもいなかった。

 何より今は友達と遊んでいる方が楽しいと思っていた学生時代。

 私だって、いつかは普通に恋愛して、彼氏が出来て、結婚して、子供を産んで……

 それがごく当たり前のことだと思っていた。

 まだ私はどこか他人事で、むしろ必死こいて恋人を作ろうと足掻いている人間を少し見下していた気もする。

 それが、数年後の自分の姿とも知らずに。

 

 中学校を卒業し、いつの間にか高校生活も終盤に差し掛かっていた。

 いつものようにファミレスで友達と語り合う日常のワンシーン。

 だが今日はひとつ違う事があった。

「私、卒業したんだ」

 この子の言う卒業が、私たちのよく知る卒業とは違うことは彼女の表情から容易に想像がついた。

 少し照れたように、そして誇らしげな笑みを浮かべて彼氏との初体験を語った。

 私は内心焦っていた。彼氏の作り方なんて学校でも教えてくれなかったし、親にだって聞けるわけがない。

 そんな私の焦りを察したかのように出会いの場を教えてくれた彼女。

 私はその時、初めてマッチングアプリというものを知った。

 その頃の純粋無垢な私にはアプリの怖さなど知る由もなく深みにハマっていくのに時間はかからなかった。

 ″JKブランド″という肩書きを背負った私は強かった。

 ただ今言えることは、あの時近づいてきた男は私という一人の人間ではなく、その肩書きだけに釣られて近づいてきただけだ。それを当時の私は気づけないでいた。

 まるで無双状態の私は、どんどんと沼に溺れて、ついに2017年の初夏。

 理想の男性像とは程遠い平凡な男性に貴重な処女を捧げてしまった。

 十七年間生きてきた中で経験したことのない痛みと不快感に見舞われたが、それ以上に今目の前の男性が私だけを見てくれていることに幸福を感じた。

 初めての彼氏より先に経験人数が一人増えたその日、新しい世界への不安と恐怖、そして後悔で涙を流した。

 今思えば、この時に歯車が狂ったのだと思う。あの時の涙は自分の体、そして未来の自分からの警告だったことになぜ気づけなかったのだろうか。

 今更後悔しても遅いけれど、この日のことを私は何度でも後悔している。

 自分の体からのサインに目を背け、ネット上で知り合った素性もわからないような男性と経験を重ねていった。

 でも決して快楽を求めて色んな人と寝たわけではない。

 その瞬間だけは相手が自分のことだけを見てくれていることに、幸せを感じていた。

 家族仲も良好、友達にも恵まれているはずなのに、その両者には生み出せないこの幸福感に没頭していた。

 彼氏を作ることを諦めたわけじゃないけれど、仮にも女子高生に手を出す男がろくな人間ではないことだけは当時のバカで未熟な私にも良くわかっていた。

 そして彼らが本気の恋愛を求めていないことにも段々と気づいていった。

 でもいつだって気づいた頃にはもう手遅れであることはセオリーで、当時の私はまさにセオリー通りに物事を進めていたように思う。

 いつだって私は本気で恋愛をしていたけれど相手の男性はみんな遊びで、気づいているはずなのに何度も何度も恋をしてその度に心に傷が増えていった。

 高校を卒業する頃、すでに私の経験人数は両手に収まらなくなった。

 様々な経験をして心身ともに少しばかり大人になった私は、いよいよ焦りを感じ、真っ当な恋愛をしようと努力はしたがマッチングアプリをやめることはできず、無駄に肥えた目で、俗にいうヤリモクと呼ばれる種類の男性を弾いていくことだけで精一杯だった。

 そんな時に出会ったのが、後にも先にも唯一無二の存在の彼だった。

 私の前に彗星の如く現れた彼は、私の荒んだ心を癒やす天使か、はたまた私を今でも苦しめ続ける悪魔なのか、未だにわからずにいる。

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