ブレード・アヴェンジャー2300

zakuro

第1話 西暦2300年での再会

西暦2300年

夜の都市は、上に伸びるほど静かだった。


ヘルメス・コステロは高層ビルの外壁に取り付けられた整備用バルコニーに立ち、眼下の光の海を見下ろしていた。

車は音もなく走り、広告ホログラムが空気を染めている。どれも彼には新しく、同時にどうでもよかった。


黒いコートの内側、腰の位置に、日本刀の柄がある。

時代遅れの武器。だが、これ以外を使う理由はなかった。


耳元の小型端末が短く震える。


「……本当に来るんですか?」


通信相手は、今回唯一関わった近未来人――都市管理局の下請けエンジニア、リオだった。

ヘルメスは答えず、空を見上げる。


「このビル、立ち入り制限かかってます。警備ドローンも多い。正直、割に合わないですよ」


「君は下がれ」


それだけ言うと、通信は切れた。


彼は歩き出す。

バルコニーから屋内へ。自動ドアは反応しなかったが、力を込めると静かに歪んで開いた。


中は無人だった。

二百階以上あるオフィスフロアはすべて空き区画で、床に積もる微細な埃が、長い時間を物語っている。


エレベーターは使わない。

非常階段を選ぶのは、昔からの癖だ。


一段ずつ、足音を殺して上る。

呼吸は乱れない。心拍も変わらない。

それが普通になったのは、いつからだったか。


最上階。

屋上へ続く扉の前で、彼は足を止めた。


向こう側に、気配がある。


鍵はかかっていたが、壊す必要はなかった。

扉は内側から開いた。


「……やっぱり生きてたか」


男が立っていた。

背は高く、銀色の義肢が月光を反射している。顔には深い傷。だが、その目だけは、ヘルメスが知っているままだった。


「マックス・ジョー」


名前を呼ぶと、男は笑った。


「懐かしい呼び方だ。今は“マックス”だけでいい」


二人の間に、風が吹き抜ける。

屋上の縁に設置された安全フェンスが低く唸った。


「ここまで追ってくるとはな。時代も国も、全部捨てて」


「まだ終わっていない」


ヘルメスは一歩、前に出る。

マックスは動かない。


「数百年だぞ? 」

「知っている」


「普通は忘れる」

「忘れなかった」


短いやり取り。

それ以上の言葉は、必要なかった。


マックスの視線が、ヘルメスの腰に落ちる。


「まだ、それか」

「これしかない」


しばらくの沈黙。

都市の音が、遠くで脈打っている。


マックスは肩をすくめた。


「今夜はやらねぇ。ここは目立ちすぎる」

「逃げるのか」


「準備がいる。お互いにな」


彼は踵を返し、屋上の反対側へ歩き出した。

そこには個人用の飛行ユニットが待機している。


離陸前、マックスは振り返った。


「次は終わらせようや、ヘルメス」


ヘルメスは答えなかった。

ただ、コートの内側に手を伸ばし、刀の柄に触れる。


飛行ユニットが夜空へ消える。

残された屋上で、風だけが吹いていた。


ヘルメスは空を見上げる。

月は高く、変わらない。


「……ようやく、だ」


誰に向けた言葉でもなく、彼はそう呟いた。

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