異世界転生したら魔法界の医療技術の進歩に携わってしまいました。

梅薗匠

これが噂の異世界転生だと思うんですけどあまりにも適当過ぎませんか?

夜勤と緊急

毎日毎日緊急手術……。

日勤は医師にせっつかれ無理やり緊急手術を入れ残業、夜勤は寝れるかと思いきや当直PHSが鳴り響き緊急手術。

至極疲れていた。

看護師が高給取りなんて迷信誰が信じているんだ?信じた結果がこれか????

信じなきゃ良かったよ全く。看護師5年目残業とオンコールと夜勤をやってギリギリ手取り30万円です。

バリバリ働くのが嫌だった美人の同期は早々に医者を捕まえて寿退社、残った私は上には逆らわず下にはパワハラにならないようになんて働き方をしていたら常時残業可能な使い勝手のいいオペ看になりました。


今日ですか?深夜2時、脳神経外科「開頭血腫除去術」の真っ最中です。

よかったよクリッピングじゃなくて。一応目処はたってるし。5時までには終わるだろうから終わったら片付けと朝の準備。

「洗うよ〜、水ちょうだい」

「はい、カテチでいきますか?」

「そうだね、ガツガツ洗うわ」

「わかりました」

医師に言われたモノを渡しながら終わったあとのことばかり考えている。

この患者にも待っている家族がいて手術の成功を願ってるのは分かっているがどうしても。そこに寄り添えるだけの余裕はない。

あくまでも私は仕事として看護師を選んだ。

寄り添う気持ちとか慈愛とかそういうのを持ち合わせていた訳では元々なく、女が生きていく上で安定した給料と社会的信頼を得られる職業をということでまかり間違って看護師になった。

本当に後悔している。

出来ることならキラキラ丸の内OLになりたい。

携帯だけ持ってオシャレなサラダボウルとか昼食に食べたい。

定時で上がってバルでワインを飲みたい。

「ニューロロン」

「はい、ニューロロンです」

おっと、危ない。3-0ニューロロンを見失いかけた。こいつを見失えば私の予定しているタイムスケジュールが大幅に狂う。3-0の針の中でもこいつは紛失率が高いんだ。深夜と3-0ニューロロンの相性は本当に良くない。目がシパシパしていて眠気もピークだというのに少し目を離すとどこかに飛ぶ。

無事硬膜縫合に至ったし、どうせ頭蓋骨は戻さないだろうからこのまま手術終了だな。

この人は一体意識戻るのか。今までの生活に戻れるのか。まぁ、私には関係ないか……。

私の仕事は手術室看護師。全ての患者の手術が滞りなく終えるように医師のサポートをする。

看護師は「療養上の世話」と「診療の補助」が仕事内容だが、手術室看護師は「診療の補助」に全振りの看護師だ。看護師の中でも異端の存在として扱われ技術職と言われるポジションにある。一人前の看護師を育てるのに3年かかるらしいが、オペ看は扱う手術の難易度や施設にもよるが5年働いてやっと一人前として認められる。

特殊部門に位置する手術室看護師はなかなか人材育成が進まない。面倒なのでオペ看と略させて頂くが、オペ看は向き不向きがある。これはどうしようも無い事実だ。まず血や臓器を見ても倒れたり気持ち悪くなったりしないかどうか。つぎに手先が器用かどうか。そして医師の横暴な態度も手術後の「ありがとね」の一言で流せるかどうか。まぁその他色々あるが、普通に病棟看護師になるよりめんどうなので新卒が辞めるか部署異動するかが大体で5人入っても1人から2人残ればいい方なのがオペ看なのである。

挙句にオペ室癖のある看護師も多い。病棟看護師にはならないと固い意志を持ってオペ看になった者が多いため普通の看護師より癖が凄い。

何故か結婚してない美人や圧倒的コミュ障、強火オタク、上げればキリがないが病院所属看護師の癖の部分を集めたらオペ室になるなというレベル。

そんな環境に揉まれ、はや5年。

正直疲れた。ゆっくりしたい。

残業せずに帰りたい。



早朝5時、やっと緊急手術の患者をICU看護師に引き継ぎを終えた。

ここから日勤が来る8時までに片付けと朝の準備を終えなければならない。

「お疲れ様でした〜」

「今日もごめんね〜、またよろしく!」

「もうしばらく大丈夫です〜」

脳神経外科の医師は元気だな。昨日も緊急手術やってたし朝から定時手術だろ。労働基準法どうした。改定されたはずじゃなかったのか。

「疲れたね〜、手分けして準備してさくっと帰ろう」

「そうですね…流石に眠いです」

一緒に夜勤をしていた先輩は緊急を呼ぶことでお馴染みの人。やな予感はしてましたよ。

尊敬はしているが絶対にオンコールも夜勤も被りたくない。

「いやぁ、凛ちゃんはやっぱり緊急呼ぶなぁ〜血腫除去でよかったよ〜」

いやいやいやいやいやいやいやいや、あなたが呼んでいるんです。私は他の人とペアなら平和な方なんです。1回が話題性あるオペなだけでそれが3ヶ月に1回ぐらいなだけで基本平和です。

「そうですかね〜、まぁクリッピングじゃないだけマシだと思いました。とりあえず滅菌持っていってきます」

「クリッピングは冬じゃないからまだでしょ〜」

「そうですね〜時期じゃないですね〜」

本当に眠い。なんでだ。いつもより全然疲れている。この後普通に帰れるのか?まぁ分からんけど大丈夫か。

さっさと仕事片付けて帰ろう。今日は夕方まで寝てればいい。そうしよう。



「お疲れ様でした〜」

「また明後日〜!」

眩しい朝日に目を細めながら先輩と別れ、バス停に向かった。

朝の通勤ラッシュに逆行しながらベンチに腰かけて自分の乗るバスを待つ。やはり眠い。

(皆さん頑張って〜、私はもう十分頑張りました〜。)

「キャーーーー!」

「は?」

叫び声が聞こえ顔をあげ絶句した。

乗るはずのバスが目の前にいる。

なんで、え?




…………なにがおきた?バスが目の前にいた。

なんだこれ、寒い。はぁ?夏だぞ?なんで寒いんだ。足の感覚がない、そういうこと?なるほどね、私の下半身はバスに潰されたか。感覚があるわけが無い。寒いのは血が出過ぎてるから。頭はギリギリ無事なのか?いや、多分無事じゃない。ただハイなだけ。指は動く…けど、多分これは助からないな。そもそも下半身が潰れてるし腸がダメそう。というか多分外に出てないだけで臓器は色々ダメそうだし多分頭もやってる。

「大丈夫か!わかるか!!!!!凛ちゃん!?」

「あっれ、山城先生。さっきぶりですね…」

「意識はあるな!助ける、大丈夫だ」

「いや、多分無理ですよこれ。流石にわかる。私オペ看ですよ?こんな患者オペ室まで来たことない。救急で止まってるってことです」

「そのまま話してなさい、大丈夫、大丈夫だから」

「山城先生!傷病者は!!!!!」

「永野凛!赤タグ、うちのオペ看だ!」

「すぐ運びましょう!」

「大丈夫だ、病院のバスロータリーなんだから救急にすぐ着く。救急の先生たちは歴戦なんだ。それに頭部の損傷は酷くない。大丈夫。」

「せんせい、あたし大丈夫なわけないです。脚の感覚ないしどうかんがえても下半身はぐちゃぐちゃです。腹の中だって無事じゃない、頭がだいじょうぶだからって助かるみこみあんまりない…」

「それだけ分かってるなら助かる。皆君のことを腕のいいオペ看だって褒めてるんだ。助けるよ…

、手術室今日空いてる??急患、オペ看の凛ちゃん。今うちのロータリーで事故にあって初療中!多分うちの科より先に消外と整形辺りが緊急オペやると思うから1列空けて!詳細は後で各科から連絡させるけど多分長丁場になる、頼んだよ!」

「せんせ、いまほめないでくださいよ。あたしもうたてないですおぺかんできない。まるのうちおーえるになるゆめあったのにそれもかなわない。さむい、ねむいですせんせい」

「大丈夫、大丈夫だから。皆頑張るから凛ちゃんも頑張れ」

「先生、これは…!」

「大丈夫だから!消外と整形と…とりあえず外科集めて!!!救命措置優先!救命の先生にはオペ室連絡してあるって伝えて!」

遠くで山城先生の声が聴こえる。眠かったしな。ゆっくり寝るのもいいかもしれない。山城先生に褒められるなんていい夢だな。うちでも屈指の脳外科医に褒められたんだからオペ看冥利に尽きる。大丈夫、助からないよ。生まれ変わったら丸の内の外資系OLになる。だから大丈夫。





「リン、起きて!リン、リーーーン!!」

「なに、眠いんだけど。ってなに!え、足動く。なんで!?」

「リン!何言ってるの!足が動くのは当たり前じゃない、私たち空だって飛べるのに」

「空が飛べる?え??????」

「リンったら、おかしな夢でも見てたんじゃないの?」


え??どういうこと?

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異世界転生したら魔法界の医療技術の進歩に携わってしまいました。 梅薗匠 @takumi_umezono

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