第12話 騎士よ駆けろ

「それで、どういう状況だ?」


ライスター様は杖が自分から逸れたのを見て胸を撫で下ろす。

小さい杖にそこまで怯えなくても良いだろう。


「魔族が小さな女の子に化けて、このご夫婦を。私も食われるところでした」


「平気だったのか?」


「多少の魔法は使えます故、自分の身は守りました」


そう、多少の魔法は使える、ということにしておこう。

そのほうが後々楽だろう。


「ちなみにですが、ライスター様は何故こちらへ?シヴァルツ伯爵様は?」


「ああ、伯爵様は近くにいる。ここから光が見えたから様子を見に来た。夕食をどこで摂ろうか迷っていたところだ」


「す、すみませんそんな時に」


「構わない、様子を見るよう促したのは伯爵様だ」


彼の方は随分と優しい伯爵様らしい。領民はさぞ幸せに暮らしているのだろう。


「それで、このご遺体はどうしたらいい?」


「そうですね…本来なら憲兵に受け渡して、しっかりと葬儀を行わせてあげたいところですが」


この夫婦は魔族に心臓を、魂を食われてしまっている。

魔族に魂を食われれば、転生することは叶わない。ただ、魔族の進化の糧として消化されてしまう。故にこのご夫婦の遺体は、後少しで消えてしまう。


そして、彼らが存在したという事実も消える。


「…ライスター様、旦那さんの方を運んでくれますか?」


「分かった」


彼は私がお願いすると、旦那さんの方のご遺体を優しく抱えた。

そして、騎士ご自慢の身体能力で、2階の窓から飛び降りる。


「伯爵様、申し訳ございません。このご遺体を_」


「私も行こう、連れて行ってくれ」


「かしこまりました。少々お待ちください、まだ中に人形師が」


「この家に人形師が?」


「こんばんはシヴァルツ伯爵様」


ライスター様が言った通り、シヴァルツ伯爵が夜道で待っていた。

状況を説明する時間は正直かなり惜しい。こんな街中で見送って良いものか。


「ライスター様、魔道具はお持ちですか?」


「うん?ああ、持っているが」


「我々全員を王都の少し外れまで飛ばすことはできますか?」


「できるが…」


ライスター様は、自身の主人を見る。彼は騎士であり従者。

主人の許可なしには動くことはできない。


「構わないさ。アリオン、彼女のいう通りに」


「承知いたしました。お二人とも、私の肩に」


私とシヴァルツ伯爵は、ライスター様の肩に触れる。

彼は触れたのを確認すると、詠唱を始めた。


「騎乗の誓約 馬の章

野山を越える路線 火山を駆ける車輪

光の如き流星を追いかけよ

龍の如き流水を追いかけよ

滞りは我が道の荊

循環せよ 逡巡せよ

我は汝に 願い賭けん」

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原初の魔法使いは眠りたい 灼透 @misuzu_asagi_yazuki

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