原初の魔法使いは眠りたい
灼透
第1章 人形師は願う
第1話 人形師
望まない朝は何度来ただろうか。
もう、何千年嫌いな朝を繰り返しただろうか。
眠っても必ずこの魂は、いつ潰えるのだろう。
「あ、人形師のお姉さん!おはよう!」
「おはよう。早起きだね」
2階の窓を開ければ、子供が私に笑いかける。
朝7時に外に出ているとは、健康だな。
私にそんな気力はない。
きゃっきゃと喜ぶ彼女は、随分とご機嫌なようだ。
手を振り返せば、さらに嬉しそうに笑う。
愛くるしい笑顔だ。
「また遊びに行くね!」
そう言って、彼女は走り去って行った。
走った方向には彼女と同じ瞳をした女性。
おそらく母親だろうな。仲睦まじいことだ。
窓から離れ、浮いている服に着替える。
正確には浮かしている。この世界では大して珍しくもない魔法だ。
肌触りの良い服は着心地がいい。その分勿論値段が張るのだが。
しかし、仕事には適切な環境が必要であり、服も例外ではない。
お貴族様やら、王族様に会う時、お目汚しをしない為にも。
雑に髪をまとめて、朝食を作る。パンがまだ余っていたはず。
かまどに火をつけ、フライパンを乗せる。
魔法を使えばいいだろうと多くの人間が思うだろうが、得意不得意が存在する。
火を扱うのは苦手だ。
フライパンに卵を割る。殻が入らないよう気をつけながら目玉焼きを作る。
焼いたパンに目玉焼き。定番だが、それが美味しい。
いい具合に半熟になった卵が、とろりと口の中で溶ける。
食べ終われば、仕事に取り掛からなければならない。
私は、子供に呼ばれた通り「人形師」。
名の通り、人形を手作りしている。作った人形で人形劇をすることもある。
故に人形師。まあ私が自らそう名乗っていることもあるが。
想像以上に評価が高く、たまに質の良いものを売る商人やお貴族様、公爵令嬢、稀に女王陛下が買う時もある。
その時の報酬は手に余るものだ。
ちいさく鳴る扉の軋む音が、お客様の訪れる音。
「いらっしゃいませ。ドールハウスへようこそ」
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