希望の炎

ワッフルEX

光のなき暗闇で

「君はどう思っているの?」


そう声をかけた。だけど『それ』は反応しなかった


いや、それは違った。きっと『それ』は自分が存在していることに気づいていないんだ


けど、繋がっている場所はあり、この一方的な問答もどこかの誰かには届いている


だから、わたしは言葉を続ける。たとえ返事が来なかろうと、来るわけがなかろうと、わたしは語る。自己満足ではない、君のために


「君のやろうとしたことは、きっと善意からくる素晴らしい行動なのかもね。けど、結果はこれ」


そう言いはするけれど、特定の場所に指を指したりはしない。だって、その結果が何も映らない暗闇なのだから


世界の全ては光の反射によって写し出される。そのため、ただ1つの光すらなければ、この世は『存在しないも同義となる』


そして、今わたしがいるこの世界が実際にそうなった世界。そして、語りかける『それ』とは、その元凶に繋がる最後の温もりのようなもの


「まあ、わたしは説教をしに来たってわけじゃない。本当に偶然、この世界場所を見つけただけ。これからするのはアドバイス」


わたしは1本のマッチを取り出して、その火をつける。そして、その世界に存在する唯一の光が周囲を優しく照らし出した


でも、照らし出された世界はとても綺麗とは言えない風景だった。枯れた大地に炭と化した木々、植物も動物も人間も関係なく、生命の気配がしなかった


「わたしは、この炎が好き。優しく灯る唯一の優しい光…なんだか希望みたいでしょ?」


立ったまま話すのは疲れるため、わたしは地面に腰を下ろす。残念ながら、この付近には椅子の代わりになりそうな物体は存在しないらしい


スカートが灰で汚れてしまうけど、もともとボロボロに使い潰していた物だし、愛着もないから問題ない


「それじゃあ話し始めるけど、君は貧乏な人間にとっての『希望』と満ち足りた人間にとっての『希望』…どっちがより綺麗だと思う?」


もちろん答えは返ってこない。当たり前だ、話しかけている存在はすでに消えた存在の残熱なのだから


わたしは問いを続ける


「全てを失った人間が見上げる星空と、全てを手に入れた人間が見上げる星空…どっちが『希望』に満ちているとおもう?」


回答は返ってこない。けど、わたしは回答なんて求めていない。なぜなら、これは質問自体が1つの答えだから、この疑問が思考の片隅に残るのならそれでいい


「『理想』と『希望』は別物なんだよ。『奇跡』と『希望』は別物なんだよ。希望の炎は絶望の暗闇の中で灯るからこそ希望なの」


「そうだね」とわたしは続けて言葉を紡ぐ。そして例えを出し始める


それは、満天の星空。これは希望じゃない…満ちているから希望の生まれる理由がない


それは、光なき空。これは絶望だ、だから希望の灯る1等星が生まれる理由となる


暖かい麦畑の上で見上げる太陽。これは平和であり、そこから先に希望が生まれる理由はない


荒れ果てた麦畑で死にゆく者が手を伸ばす星。それは希望だ、ありえない未来に愚かにも手を伸ばしている


そう…希望を求めるような状況には絶望が必要なのだ。たとえどんなに小さな絶望だとしても


そんな希望がわたしは大好きだ。絶望を乗り越える奇跡のような物語を『希望』紡いでくれる。だからわたしは、多く世界に炎を落とす


逆にわたしは平和が嫌いだ。そこに美しい希望の物語はなく、あるのは無限に続く無意味な停滞のみ


そんな世界に炎を落とす。それが全てを燃やし世界を絶望に陥れ、そして希望の炎が生まれるのを待つ


わたしはハッピーエンドが好き。だけど、最初から最後までハッピーの物語は嫌い。ちゃんと曇って、ちゃんと晴れてハッピーエンドを迎えてほしい


これをひどいと言ってくるやつもいるだろう。けど、誰もがそれを『理解』できてしまうだろう


『悪』は希望に必要なこと

『理不尽』は希望に必要なこと

『厄災』は希望に必要なこと

『苦悩』は希望に必要なこと

『暗闇』は光に必要なこと


だから、わたしは彼らを許している。わたしは彼らを好ましく思っている。善と同じぐらい悪も大事な歯車なのだから


「みんなが希望を手に入れたら、その瞬間にそれは存在しなくなる。そういう意味で考えると、君は先のことを考えればいい間違いを犯したと思うよ」


そう…今1本のマッチが醸し出している優しい光は、それがもたらした灰塵による暗闇のおかげ。だからわたしは悪を嫌いと思わない。むしろ、感謝する


「夜は明けるからこそ綺麗なの。それが、もし明けない夜だとしたら次に昇る太陽は、きっと希望に満ちているのかな。なんだか、それを見てみたくなった」


夜明けや黎明は見ていて気持ちがいい。脱稿終えての徹夜明けの太陽ほど清々しいものはない。疲労とか眠気とか一周回って気持ちよくなる…閑話休題


わたしはマッチを線香花火のようにもって、クルクルと円を描くように動かす。特に意味はないし、普通に危険なので良い子も悪い子も真似しないように


「そうだ、アドバイスするんだったね。まあ正直、わたしはこれを間違いだと思えない。でも、一言だけ…やりすぎ」


これは1つの終幕だ。それは、希望も絶望も介入する余地はない。もし、もしわたしがこの世界を見つけず炎を灯さなかったら、このまま本当に沈んでいた


原陽と永夜は…確かこの世界出身だったけど、その繋がりを焼ききるほどには、あの灼熱は強すぎた


「人類が滅びる災害程度なら問題ない厄災だったけど、君は星や宇宙や理すら燃やしつくした。色々な場所を見てきたけど、こんなの初めて」


だから、君に惹かれた

だから、こうして語りかけている


詩人卿が英雄を生み出しまくる理由をなんとなく理解した。きっと彼女も、わたしが今感じている『惹かれ』と同じものを思っていたのだろう


「一度の失敗で自他ともに全てを失った…そんな相手にこそ、きっとこれ希望が必要なんだろうね」


普段のわたしならここでマッチの炎を灯して、その炎がどうやって美しく役目を終えるかを確認するんだけど、今回は別…1つの線香花火を温もりの近くに置く


「でも、気に入った相手には嫌がらせをしたくなるものだからね」


これは、最近旅先でもらった、ちょっと特殊な花火。だけど、これを置いた理由は、その熱を確かめるため


やるべきことは、これでおしまい。一方的に語りかけることも、もうなくなった


「わたしはもう行くよ。インドア顔のアウトドアだから、これでもアクティブなんだ…そう言えば名乗ってなかったね」


わたしは立ち上がり、スカートの灰を払ってから近くに置いておいた魔法の杖に腰を下ろしてゆっくりと浮かび上がる


そして、わたしは名をなのってから、手に持っていたこの世界で唯一の熱源を消した


「マッチ、わたしはマッチ。覚えていてね、君を見かけたら…絶対に声をかけるから。じゃあね」


そして、わたしはその世界を後にした


ここからは知り合いから聞いた話し。あの世界は、無事に黎明を迎えて新たな命が芽吹いたらしい


けど、新たな太陽が昇ったときには、すでにわたしが置いた花火はなくなっていたらしい


ふふっ、彼なのか彼女なのかは分からないけど、再開が楽しみ

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