宝蓮帰譚

絲槻四三

まがい龍と珠の呪い

灰竜

目の前に信じがたい光景が広がっていた。


──幻だ。

──違う。

──幻だ。

──違う。

──現実だ。

──違う。

──幻だ。

──違う。違う。違う………!!

「………嘘だ…」

見つけた時には死んでいた。

可哀想になるほど、青白くて冷たい。

生気のない幼馴染の姿を、網膜に灼きつくほど覚えている。


それがまた、目の先で確かに動く幼馴染の姿を確認した。

俺は咄嗟に茂みの中に身を隠す。

人違いかもしれない。でも、彼女だ。遠い昔から覚えている面影が目先の彼女の姿と重なった。

山の中腹で見回りをしていた最中だった。

待ち望んでいた瞬間。

全身が打ち震える。

止まっていた息がようやく吹き返した心地がする。

思いがけず長らく捜していた彼女が現れて、期待と混乱で、どうしていいのか暴走しそうになる心を鎮めるのに努める。

そのまま気配を消して、様子を見守った。

彼女の肩を揺れ、顔には笑みを湛え、蒸気が上がりそうなほど頰を赤くしている。

目は溌剌とした眼差しで光が宿り、肌も青白くなんかなく、冷えた外気に触れて白い息が吐かれている。

どうやら走ってそこまで駆けてきたようだった。


視界が滲む。

乾いた音がぽつぽつと聞こえた。

涙だ。

知らない間に零れ落ちた涙が枯れ葉に当たっていた。

泣きたくないのに、彼女を見ようとすればするほど、とめどなく溢れてくる。

袖で目元を拭いながら視線を戻すと、先ほどまでいなかった誰かと話しているのが見えた。

彼女の横に立ち、白い猫の特徴を持つ短髪の青年と談笑している。

生前と変わらない。

彼女の笑い声が届いたのは微かだったが、陽だまりに包まれたように暖かくなる。

遠い昔の声が蘇る。


──ああ……そこにいたんだね。

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宝蓮帰譚 絲槻四三 @shizukiyomi

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