小説家の俺が、自分の書いた世界に転生したら、主人公の運命が詰んでいた件 (Ink to steel :Rebirth of the novelist)
第1話――ノートパソコンが爆発して、インクの現実が歪み始めた日
小説家の俺が、自分の書いた世界に転生したら、主人公の運命が詰んでいた件 (Ink to steel :Rebirth of the novelist)
@Tsukishima_amba
第1話――ノートパソコンが爆発して、インクの現実が歪み始めた日
篤原凛(あつはら・りん)は、自分の人生が――
こんなにも情けない形で終わるとは、夢にも思っていなかった。
「……ちょっと待て。なんで俺のノートパソコン、煙出してるんだ?」
三畳ほどの狭い部屋。
徹夜明けの篤原は、ディスコの安物照明みたいにチカチカ点滅する画面を、呆然と見つめていた。
たった今、彼は自作ファンタジー小説の最終章を書き終えたばかりだった。
――『Iron Fate Chronicle』。
冷静沈着で皮肉屋な天才剣士、レオモルド・サハラを主人公に据えた物語。
「はぁ……やっと終わった……。これでようやく――」
次の瞬間。
ドォォォォン!!!
ノートパソコンが、顔面の至近距離で爆発した。
「ぐあっ!? な、なに――!? おい待て! まだセーブして――うわああああ!!」
白い光が、すべてを覆い尽くす。
叫ぶ間もなく、重力は消え、
身体は“何か”に引きずり込まれていった。
そして――
目を開けた時。
そこは、見覚えのない巨大な森の中だった。
「……ここ、どこだ……?」
頭を押さえる篤原。
着ているのは、くたびれたパーカーとジャージ。
火傷も、煙の匂いもない。
ただ、現実とは思えないほど“本物”のファンタジー世界が、そこにあった。
(まさか……俺、死んだ?
パソコン爆発しただけじゃなくて、俺ごと消し飛んだとか?)
(最悪だ……死に方までダサすぎる……)
――シュン。
突如、青い光が目の前に展開される。
ゲームのUIのような、半透明のパネル。
【ナラティブ・システム 起動】
ようこそ、篤原凛。
――“作者”よ。
あなたは今、自身の小説世界に到達しました。
「……ふざけてるのか?」
後ずさる篤原。
だがホログラムは、ぴたりと視線を追ってくる。
「VRじゃない……幻覚?
俺、原稿に呪われた!?」
次の瞬間、光は人の輪郭を形作った。
「――誰だ」
低く、鋭い声。
空気を切り裂くようなその声に、篤原の身体が硬直する。
木々の間から現れたのは、銀髪の男。
剣と翼の紋章が刻まれた黒のロングコート。
深い蒼の瞳は冷たく、警戒心に満ちている。
一歩一歩が、熟練の騎士であることを物語っていた。
――間違えるはずがない。
「……レオモルド……サハラ?」
思わず漏れた呟き。
男は、ぴたりと一メートル手前で足を止め、
篤原を“品定めする商品”のような目で見下ろした。
「なぜ、俺の名を知っている」
冷え切った声。
圧倒的な威圧感。
理知的で、合理主義。
皮肉屋で、容赦がない。
篤原は内心、今にも気絶しそうだった。
(知ってるに決まってるだろ!
俺が作ったんだよ! お前は俺のオリキャラだ!!)
――だが、それを言うわけにはいかない。
「俺はお前を創造した作者だ」なんて言えば、
この男は即座に結論を出す。
こいつは狂人か、もしくは悪魔。
篤原は冷や汗をかきながら、必死に誤魔化した。
「え、えーっと……剣に……名前が……」
「俺の剣に銘はない」
「す、すみません! 見間違いです!!」
レオモルドは目を細めたが、剣を抜くことはなかった。
――助かった。
「名は」
腕を組み、問い詰める。
「そして、なぜ“呪われた森”にいる」
頭をフル回転させる篤原。
プロット修正は得意分野だ。
「ぼ、僕は篤原凛……その、旅人です。迷いました」
「旅人? その格好でか?」
レオモルドはため息をついた。
「ゴブリンの方が、まだ装備が整っている」
「……ですよねぇ」
(うわ、口の悪さまで完璧再現……
俺が書いた通りだ……)
再び、ホログラムが出現する。
【初期ミッション 発動】
目標:
レオモルド・サハラを
“あなたが書いた悲劇的運命”から守れ。
※注意:
作者であることは、決して明かしてはならない。
「…………」
篤原は、自分を殴りたくなった。
(そうだ……俺、こいつを物語の途中で殺したんだ)
王国を守るため、
魔王級存在・ファルベインと相討ち。
最高にカッコよくて、
最高に残酷な死。
――今、こうして生きている彼を目の前にして。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
(……もう、死なせたくない)
「何を見ている」
レオモルドの視線が刺さる。
「……お前の、悪い未来」
無意識に漏れた言葉。
「……は?」
「あ、いや! つ、疲れてそうだなって!」
完全に変な奴を見る目だった。
沈黙の後、レオモルドが言った。
「……奇妙だが、害はなさそうだ。
ついて来い。この世界は、貴様には危険すぎる」
篤原は、思わず笑った。
格好良くも、強くもない。
でも、希望だけは確かにあった。
「……一緒に行っていいのか?」
「放っておけば、五分で死ぬ」
「それ、優しさ?」
「違う。死体がモンスターを呼ぶのが嫌なだけだ」
「口、ほんとに悪いな……レオモルドさん」
「俺は貴様の師ではない」
「はは……」
(ああ……本当に、生きてる……)
こうして――
慌て者だが天才的な“作者”と、
冷酷で誇り高き“剣士”。
二人の旅は始まった。
インクだった物語が、
鋼の現実へと変わる――
まだ、誰にも書かれていない未来へ。
小説家の俺が、自分の書いた世界に転生したら、主人公の運命が詰んでいた件 (Ink to steel :Rebirth of the novelist) @Tsukishima_amba
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