硝煙のワルキューレ〜女傭兵部隊、異世界にて戦乙女となる〜

甘井絹子

序章

EP1:硝煙の天使達

某国某所の廃教会にて、飛び交う弾丸と罵詈雑言。

鼻をくすぐる硝煙の匂い.....あるいは鮮やかな血の匂いが漂う中、は廃教会の椅子に隠れながら銃撃戦を繰り返していた。


「で、どうする?もうすぐクリスマスだからアイツらに鉛玉でもプレゼントする?」


「するも何も、もうしてるじゃん」


「あ、それもそうね」


銃撃を雨の如く浴びせようとする敵に対し、軽口を叩きながらそう言葉を交わす女傭兵、もといアンとボニー。

そんな二人を尻目に、彼女達の一人でそばかすが特徴的な女傭兵は敵に向け、何かを投げ入れていた。


その瞬間、銃撃から身を守るために椅子の裏に隠れていた彼女達とは裏腹に、何かによって爆発に巻き込まれた男たちは悲鳴を上げていて、その様子を見たアンとボニーは一言


「ヒュー!!お熱いねぇ!!」


「爆発オチなんてサイテー」


と口々に言っていたため、そのお手製の爆発物を投げた当の本人は、二人に対してレベッカは悪態を突くようにこう言った。


「何よ!!私はただクリスマスプレゼントを贈っただけなのに!!」


「にしては派手すぎない?」


レベッカの作った爆発物によって吹っ飛ばされたことにより、派手に伸びている男達を見つめながらそう言うアン。

しかし、当のレベッカ本人はそのことに対して何とも思ってなかったのか、逆ギレするようにこう言った。


「クリスマスだから良いの!!」


口喧嘩もどきをしつつ、彼女達は自らの銃に弾丸を装填すると、防御の姿勢から一転して今度は敵である男達に対し、攻撃を仕掛け始めていた。

いわゆる、形勢逆転という状況である。


首を絞め、腹と顔を殴り、急所に対して銃とナイフでトドメを刺す。

それはまるで、映画のワンシーンのように。


「アン!!ボニー!!レベッカ!!戦場では呼吸とファックくたばれの言葉以外は以外は口から吐き出すなって言ってるだろうが!!」


「隊長!!言ってることが無茶苦茶ッス!!」


「無駄口を叩くな!!死にたいのか!!」


「どうせ死ぬのなら、ドル札の風呂で溺死したいッス!!」


そういう会話を繰り広げつつ、銃弾が無数に飛ぶ中で敵を排除するオードリーとエマ。

その姿は、さながら洋画のようなノリであった。


彼女達は特別傭兵部隊『ワルキューレ』。

いわゆるフリーの傭兵部隊であるためか、依頼人の金次第で世界各地で派手に暴れては、勝利を勝ち取る戦乙女としてその業界ではその名を知られていた。


最も、その実態は戦乙女という聖なる異名とは裏腹なものであったが。


「さっき殺した奴で最後.....かな?」


「やれやれ、これで騒がしいクリスマスは終わりッスね」


最後の一人を殺した後、その死体を眺めながらそう言うアンとエマ。

二人の言う通り、廃教会が静かになる頃には床に男達の死体が転がっており、それぞれ死体を踏まないように歩いていた。


「もぅ!!せっかく即席で作った爆弾のテストが出来ると思ったのにぃ!!」


「レベッカ、アンタいつの間にまた爆弾を作ってたのね」


「良いじゃん別に!!」


レベッカがそう言葉を吐き捨てた後、呆れて何も言えない顔になるボニー。


結局、その爆弾は廃教会を吹き飛ばすに使用した後、仕事を終えた彼女達は依頼人から金を受け取ると、そのまま某国を脱出。

そして、日付が変わる頃にA国に戻ったその瞬間、すぐに仕事終わりの酒盛りを始めていた。


「隊長、あの男がエロい目でこっちを見てるけど....処してもいい?」


「ダメだ、やるならせめて半殺しでやれ」


行きつけの酒場にて、酒の勢いに任せてそう言うボニーに対し、ウイスキー入りのグラスを揺らした後、そう答えるオードリー。


業界内でその名が知れ渡っているとは言え、傍目から見れば彼女達はただの女性。

故に、男からナメられることは多々あったものの、常に実力でねじ伏せてきた彼女達の敵ではなかった。


「....何で殺るのはダメで半殺しは良いんスか?」


「そんなもの、そっちの方が奴らに屈辱を与えられるからに決まってるだろう?」


「「「確かに!!」」」


オードリーがそう言った瞬間、納得したような声を上げるアン達。

するとちょうどその時、彼女達の近くに一人の女性が来たかと思えば


「隣、座ってもいいかしら?」


アン達の隣の席に座ったため、傭兵として強者と戦ってきた彼女達は、女性から微量ながらも何かを感じていた。


そんな彼女達を気にすることなく、女性はオードリーの方を向くとこう言った。


「あなたが特別傭兵部隊『ワルキューレ』の隊長さんね?」


その言葉を聞いた瞬間、彼女達の間で一気に緊張感が走った後、隠し持ってきた銃を取り出そうとしたが、オードリーはアン達のその行為を止めさせると、彼女に向けてこう言った。


「そう言うあなたは.....何者だ」


オードリーがそう言った瞬間、女はニコッと笑ったかと思えば、その顔に聖母のような笑みを浮かべながらこんなことを言った。


「私?私はベレニケ。いわゆる別世界の女神ってやつよ」


そう言った後、彼女が指を鳴らすと.....その空間の時が止まったため、アン達は思わず目を見開いていた。

何故なら、時が止まること自体がありえないことだったからである。


呆然としている五人に対し、自称女神のベレニケは謎の光に包み込まれると、聖母のような姿になっていたため、エマは聖母マリア様ッスか?とボヤいていた。


「では改めて....私の名はベレニケ。剣と魔法の世界こと、ミスルガルドを治める創世の女神です」


そう語る彼女の顔には嘘偽りは一つも無かったため、アン達はこれから起こるであろう事が面倒な事であることを察したのか、分かりやすく嫌そうな顔をしていた。


これは、傭兵部隊である彼女たちが異世界に転移し、やがて戦乙女として語り継がれていく物語である。


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硝煙のワルキューレ〜女傭兵部隊、異世界にて戦乙女となる〜 甘井絹子 @AmaiKinuko

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