最悪な出会いをした同い年の従姉妹と同居することになった俺の家に、なぜか幼馴染まで絡んできた

ヤモ

第1話 最悪な出会いをした同い年の従姉妹と同居することになった俺の家に、なぜか幼馴染まで絡んできたんだが

僕は今日から、高校一年生。

篠原 恒一(しのはら・こういち)

いつもの朝を迎えるはず……


――なのに。


「しょっぱなから遅刻かよ!」


目覚ましを止めた記憶はある。

起きた記憶が、ない。

パンをくわえて家を飛び出した時点で、すべてを察した。


「くそっ、初日からこれはないだろ……!」


角を曲がった、その瞬間。


ゴン!


「いてぇ!!」

「ふざけんな! ぶつかってんじゃねぇよ!」


いきなりキレてきた。

いや、こっちも痛いんだけど。

(何だ、この女…)


「いや、こっちも」

「はぁ!? あんたこそ前見て走りなさいよ!」

「なんだとてめぇ!」


(糞!ラノベかよ!)

売り言葉に買い言葉。

朝から最悪だ。

(とにかく走るぞ)


「おめぇのせいで遅刻だぞ!」

「あんたのせいよ!」


……冷静に考えたら、たぶん五分五分だ。

でも今さら引くわけにもいかない。


こいつ、この制服…。

そんなことは、どうでも良い。


それより……


(遅刻だ!)


「ちっ……」

(この女、なんなんだよ)

「何よ……」

(この男、最悪)


その時。

遠くから聞こえた。


鐘の音、一瞬の静止。


「……やばっ!!」


声が重なった。


俺たちは同時に走り出す。

なぜか、同じ方向に。


もうすぐ県立 桜坂高等学校の校門だ…足が……。

(この女のスタミナ凄い…)


ん? 同じ学校に向かう?

やっぱり、制服が……。


「あんた! 何でついてくるのよ!」

「俺の学校もこっちだからだ!」

「はぁ!?」


(こいつ、制服にまだ気づいてない)


校門を駆け抜ける。


(しんどい、はぁ……)


校舎に入って、廊下を曲がって――


「ゲホ!」


同時に立ち止まる。


「はぁ……」

「はぁはぁ……」


「あんたのせいよ!」

「お前の…はぁ……」


目の前の札。


(頭がくらくらする、目の前を見て唖然)


《1年A組》


「……は?」

「……は?」


最悪の沈黙。


「そこ、入口で固まらない! 良い度胸じゃないの! 初日から遅刻ね!」


「すいません…」

「すいません…」


担任の声に押されて、教室に入る。


一斉に視線が集まった。

笑い声も聴こえるが、空気が微妙に重い。


席表を見る。


(俺の席は、と)


――隣。


(えっ!)


ゆっくり、目が合った。


「……あんた」

「……お前」


初日から、人生終わった気がした。


(この女、めちゃくちゃ睨んでるよ)


「はぁ…」

「はぁ…」


(何、ため息ついてんだ! ちきしょう!)


「揃ったわね。私は三上真紀。あなた達の担任よ、よろしくね」

「二名ほど、遅刻がいたけど」


「はぁ…」

「はぁ…」


(まてまて、さっきから同じタイミングでため息つくなこの女!)


「はい! 皆さん、それでは自己紹介にするわよ!」


(でた、僕は苦手なんだよな自己紹介)


「はぁ…」

「はぁ…」


(だから! 何でだよ!)


「はい次!」


(俺か…)


ガタッ。


「市立 南中学校出身、篠原 恒一(しのはら・こういち)です!

趣味は、ゲームとラノベを読むことです!

よろしくお願いします!」


(この女、何睨んでるんだよ)


「はい次!」


ガタッ。


「市立 第二中学校出身です。

篠原 澪(しのはら・みお)です。

よろしくお願いします。

趣味は……ゲームとラノベです……」


(何!? 苗字が一緒…趣味も一緒…凄い偶然だな…)


「何見てんのよ」

「いや、別に…」

(いや、それより何で髪の毛ピンクなの?)


そして、無事自己紹介も終え、学校の説明に入った。

今日は初日なので、これで終わりだ。

鞄を持って帰宅の準備。


「さて、帰るか」


まだ友達も出来ていない、それは明日からだな。


ふと、隣を見ると……


(この女、いや篠原さんが……言いにくいな! 早く帰ろう)


教室を出て校門へ、家に続く道。

僕の家はここから歩いて十五分。

かなり近いほうだ。

それを理由に、この桜坂高等学校に決めたのもある。


(今日は、初日から色々あったな)


ふと隣を見ると、

早歩きで僕を追い抜くあの女…いや…篠原さん。

やっぱり言いにくいな。


「帰りも一緒かよ」


僕も帰り道を急ぐ。


「ん? 帰り道も一緒だな?道でぶつかったから、当然か?」


(まぁ、いい。考えてもしょうがない)


そこからも同じ道を進む。

篠原さんの後ろ姿を見ながら――


「僕の家と近いのかな?

…止まった…僕の家の前で、何故?」


篠原さんは、近づく僕に言った。


「ねぇ、あんた! ストーカーみたいにつけてこないでよ!」


「いや、ここ、僕の家だけど……」


そしてまた。


「……は?」

「……は?」


同時だった。


俺は立ち止まり、目の前の家を見る。

この女も、同じ家を見上げている。


表札――篠原。


(まさか…まてまてまてまて…)


「ちょっと待て」

「待たない」

「私の家なんだけど!」


勢いよく言い切られた。


俺は、ゆっくりと指を差す。


「……いや、俺の家でもある」


一拍。


「…………」

「…………」


沈黙が、痛い。


「……はぁ?」

「……はぁ?」


同時に叫んだ。


「冗談でしょ!!」

「冗談であってほしい!!」


その時。


玄関のドアが、ガチャリと開く。


「おかえりー」


母の、のんきな声。


「……あら?」


視線が、俺とこの女――いや、篠原さんを交互に行き来する。


「もう、仲がいいのね。一緒に帰ってきたの」


僕らは唖然とした。


「……え、何が?」

「……誰と?」


俺たちも、同時に言った。


最悪だ。

これは、最悪の展開だ。


(なんだって、よりによって)


――こうして俺は、

人生で一番相性の悪そうな女と、

同じ家に帰ることになった。


この時は、まだ知らなかった。

その関係が――

ただの同居じゃないことを。


――この日の夜、すべてが説明されることになる。



――1話を読んで頂きありがとうございます。

これからもよろしくお願い致します。

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2025年12月29日 06:00

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