第4話 深化と変化
マガスには、不思議に感じていることがひとつあった。
自身の周辺で、食器など金属製のものが震えたり、時には動くことさえあるのだ。魔法で雷撃を試行錯誤している時に多い。特に、魔力が枯渇気味、集中が切れた、など雑な感じの時に顕著に見られる。
何とも腑に落ちなくてムズムズする。
一方、マガスは雷撃時の発光から、光を操ることを考えていた。でもどうやっても、雷撃と切り離して発光させることができない。
ある日、マガスの魔法探求の調子があまり良くなかった。しかもこんな時は金属がカタカタとなりがちで、その音が気持ちを逆撫でする。するとヴィルが無邪気に声をかけてきた。
「ねえねえ、私のバチッてヤツも光ってるんだよ」
ヴィルが、地下倉庫にマガスを連れてきて実演する。
「ほらほらよく見てて」
バチッとやったら確かに光る。そして、光った時になんとも変な感覚がある。
「んー、もう一度やってみて」
「え? あ、うん」
ヴィルがもう一度バチッと実演する。マガスが自分で雷撃をする時は気付かなかったが、光る時に別の雷圧が起きてるし他にも何かを感じる。
(何だ、これ……)
思わず考え込んでいたら、ヴィルが申し訳なさそうに口を開いた。
「あ、ごめんね……何だか元気なさそうだから、こんな遊びみたいなものでも見たら気晴らしになるかと思って……」
慌てるようにマガスがヴィルに依頼する。
「いや! 凄く良い! 何度か繰り返して見せて!」
「えぇ? あぁ、うん……」
ヴィルは何だかよくわからないが、言われるままにバチバチと何度か繰り返す。手元をじっと見つめられていて、何だか落ち着かないまま続ける。
「そうだ! これだよ!」
マガスが何かに気付いたように喜び、いきなりヴィルに抱き着く。
「うひゃ!?」
驚くヴィルをよそにマガスは気付いた。今まで操作していた雷圧や雷流とは全く違う、何か別の流れがある。それを感じ取ることができたのだ。
(いやっ、いつまでこのまま!? ねえっ! 私の背中のほうで拳ぐってしてない!? あのっ!)
*****
マガスは、更に突き詰めようと試行錯誤した。
雷圧や雷流とは別に何かの流れがある。この流れが金属の動きに関連しているようだ。
金属が動くと言えば……そう、磁石だ。
なぜ気付かなかったのか、この流れは磁石と関係するものだ。磁石の強さに応じた流れがある。濃淡のある線とでも言えば良いだろうか。これを磁線と呼ぶことにしよう。
どうやら自分には磁線を操作し感じ取ることもできるようだ。自分の中に残っていた違和感はこれだったのだ。雷と同様に磁石も特に研究されることがなく、方位磁石くらいにしか使われていなかった。まさか魔法で同じことができるとは、思ってもみなかった。
すると、雷圧と磁線を組み合わせれば光を操作できるのか?
そういう観点からあれこれとやっていると、どうも雷圧と磁線が全然違う方向に進んでいる感じがする。ただ、でたらめではなく布の縦糸と横糸が奥行きをもっている、とでも言えば良いのだろうか。規則性はなんとなくわかるものの、魔法で同じ作用をするのが難しい。
真似て何度も何度も雷圧と磁線の操作を繰り返していたら、最終的に光を出すところまでようやく行き着いた。いや、正確には稀に光ることがある、と言うべき状況だ。一瞬光るだけ、しかできない。しかも恐ろしく疲弊するし、光るタイミングなのに光らないことのほうが圧倒的に多い。
照らす目的なら、雷撃での閃光のほうがまだ効率的だし、実用性では松明にも及ばない。規則的でありながら不可思議な動きには修練が必要な上に、光の用途が何も思いつかない。残念ながら、光を使ってみることは諦めることにした。
*****
少しずつ周辺が騒がしくなってくる。
未知の魔法に加え、年頃の少年少女という組み合わせが世俗的な刺激を強める。天真爛漫な町娘と身寄りも記憶もない少年のロマンス、と肯定的に見守る姿勢の人が多いが、悪意を込めた見方をする人もゼロではない。
時折、未知の魔法に興味を示す来訪者もいる。少しずつヴィルの出力も上がってきているので、予期せず派手なことが起きるとも限らない。
そこで基本方針として、成長期が過ぎれば失われるかもしれない実用性の乏しい魔法、で通すことにした。
小さな雷なので加熱で少量火薬を爆発させてるのと同じで少しお得かも、そもそも雷自体が災害なので利用価値が見出せない、冬によくあるバチバチを魔法で出せても使い道が無い、こういった感じにして原則として人前では使わないようにした。
もちろん、各種の練習も表立ってやらず町の外で行うことにする。磁線については認知している人が居ないようなので、無用に騒ぎを広げないためにも二人の間で秘匿した。もっとも、ヴィルは磁線については、磁石みたいなものという程度の理解のようだが。
幸いにもマガスは郊外での農作業が多くなってきたので、各種の試行錯誤を秘匿するのは難しくなかった。理屈っぽいとよく言われるマガスだが、勤労少年としてのイメージのためか、農業従事者や職人気質の人達からは受けが良かった。加えて、鍛冶屋の工房の人達がかなり好意的で、色々よくしてくれた。
それでも、二人で練習等をする場所を定期的に変えるようにした。
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