05 ヴィランとの共感
コウキ以外のサブキャラクターを創造し、彼らと対話することは、自分自身の人間関係を見直すきっかけとなる。特に、職場でのコウキと先輩社員たちとの会話は感慨深いものがあり、支え合いの大切さを再認識することとなった。
そして、コウキにとっての最大の試練の壁、物語の要となる敵キャラクターの創造は、私に新たな視点を与えてくれた。
現実世界では処罰の対象となる、秩序を乱す行為。それが解禁されるのである。つまり、物語の世界で私は、犯罪に手を染めることが可能になるのだ。どんな横暴も、過激な暴挙すらも、何をしても良心の呵責に苛まれる心配もない。とはいえ、最終的には、悪の対極である善の存在に阻まれ、処罰されてしまう運命にあるのは言うまでもないが……。
興奮しながら、バットマンのジョーカーのような、手当たり次第に破壊を行うヴィランを創造しようとしたが、待てよ、と思い留まった。
勧善懲悪における善の存在とは異なる。スーパーヒーローの能力に憧れを抱いてはいるが、コウキは正義の味方ではないのだ。
凶悪なヴィランに襲われている一般市民を偶然見かけたらどうするのか。
私は、彼を小心者のヘタレと設定した。アンノウンと称する異能世界の最上位である、飛行能力。これもそう設定した。この飛行能力を武器に、果たして彼はヴィランに立ち向かうのだろうか。
私ならしない。飛行能力とは、逃避能力に特化したもの。つまり、戦闘向きではないのだ。
懸念が生じる。ジョーカーのようなヴィランが相手だと、熱い展開にならないのではないか。
そこで私は、異能ものに定番の科学研究組織を考案し、マキという女科学者を創造した。彼女はプライドが高く、傲慢である。目的の為なら手段を選ばない、冷酷無比な側面を持つ。
武器は、大空を縦横無尽に舞う、飛行するガジェットがいい。コウキを執拗に追い回し、追い詰めていけばいい。
さらに駄目押しで、彼女に強力な下僕を付けよう。戦闘用に改造された最強サイボーグがコウキに襲いかかるのだ。
だが、またしても疑念が広がる。この状況下ですら、彼は戦わないのではないか。コウキは飛行能力を駆使して、逃げ回ってしまうのではないだろうか。
私はひたすら悪知恵を働かせた。彼を絶対に逃がさない、いや逃げられない、確実に窮地に追い込む秘策を考え抜いた。
そしてさらに、コウキにダークヒーローとしての側面を与え、果たして怪物は誰なのか、略して、怪物は誰だ、というテーマを設定した。
椅子の背もたれに身を預け、天上を仰ぐ。思わず、にんまりと笑みがこぼれる。
敵キャラ、および裏社会の設定は自由度が高いゆえに、妄想が捗る。これで私も悪党の仲間入りだな。そう思うと、マフィアのボスになったような高揚感が全身に満ちてくる。
マキと共に冷笑を浮かばせ、ドス黒い感情を解放する。これは想像以上に、面白い展開になりそうだ。
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