聖斑のアリアと肉の花――ゾンビ感染症になったと思ったら無毒化された変異株に再感染したので、終末世界をなんとか生き抜こうと思います――

たけすみ

第1話 記録外データ

 注意:データサーバーの録画可能容量を超過しています。データ管理ソフトから指定サーバーに接続し、古いデータをクラウドか他のデータサーバーに移すか、削除を行ってください。


 2061年12月4日(満月)午前9時13分――


 海岸線上に動く人影を検知、波打ち際をゆらめく砕けた倒木と水没して朽ちた電信柱からこぼれたケーブルの上を、明らかに人型と判るものが這うように跨ぎ、画像診断ソフトが白い枠が掛ける。

 画像解像度の都合により顔認証までは不可能、着衣の判別は可能。

 髪色は濃い赤毛ないし赤みががった黒毛、太い毛束上に白髪が数条あり。

 下半身はほぼ剥き出し、上半身から脚の付け根にかけて濡れた長袖のシャツ状のものを纏っている。靴、手袋、帽子等は着用せず。

 体型から判別するにおそらく女性、或いは未成年――。

 溺れて飲み込んだ海水を吐いているのか、水から体が上がるやときおりとどまって、吐瀉している模様――口元を手の甲で拭う挙動から、感染なしの兆候と判断可能。

 生存者確認のマーカー、グリーンが灯る。


 海岸沿いの緑地帯を見つめる一台の土台の水没した水位監視用カメラ。

 配線はなおも内陸部の気象観測機構の施設に地下を通るインフラ回線を通じて繋がっている。

 その映像の録画と送信の電力は監視カメラをカバーする屋根のように取り付けられたソーラーパネルと土台に内蔵された蓄電池から供給されている。

 そのデータは、その閲覧者がいなくなって四半世紀を経てなお、機能し続けていた。

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