転生したら卵だった件~生まれるまでスキルガチャ引き放題らしいので、ひたすらリセマラします!~

月代零

転生したら卵だった件

 目を覚ますと、俺は真っ暗な空間にいた。


 ここは一体どこだろう。俺はどうしてしまったのだろうと思っていたら、頭の中に声がした。透明感のある、女性の声だった。


『ここは、卵の中です』


 卵? どういうことだ?

 喋ろうとしたが、口の感覚がない。しかし、俺の意思は声の主に通じたようで、返事があった。


『残念ですが、あなたは不慮の事故により、命を落としました。そして、この卵に転生したのです』


 あれか、ラノベや漫画によくある異世界転生ってやつか。

 じゃあ、これから何に生まれ変わるか、選べる感じ?


『いいえ、この卵に宿った時点で、どの生き物に生まれるかは決まっています』


 そっか、転生特典で選べるわけじゃないのか。残念。

 じゃあ、何に生まれるんだろう? 卵だし、人間ではないのかな。ファンタジー世界なら、神獣的な何かかな? それとも、魔物だったら嫌だなあ。


『それは、生まれるまでのお楽しみです。――ですが、この世界はあなたが元いた世界とは、仕組みが異なります。何も持たずに生まれたのでは、苦労するでしょう。ですので、ランダムでスキルを付与させていただきます。どうぞ、こちらを』


 そして、目の前に“START”と光る文字が現れた。


『それを押してください』


 そう言われても、手の感覚がない。もしかして、俺はまだ身体も完成していない、卵の中身ということだろうか。


 なんとかして表示された文字を押そうとしたら、触れた感覚があった。手がないのにおかしな話だが、とにかくそんな感じがした。そして、文字が虹色に光って、空間いっぱいに踊る。そして、目の前に赤、黄色、白、青、黒、金色や銀色、たくさんの卵が広がって、その中の一つが大きくなって、ぱかっと割れた。すると、


「鑑定:レベル1」

 と、文字が表示された。


『それが、あなたに与えられるスキルになります』


 声が言った。

 詳細はわかんないけど、見るからにしょぼくない?


 でも、あれか。役立たずと言われたけど、使い方次第で成り上がるみたいな。そういう展開もお約束だしな。

 そう思った時、


「結果を確定しますか?

 ➡はい

  いいえ」


 と、文字が光った。

 ん? これ、いいえを選んだらどうなるんだ?


『もう一度引くことができます』


 声が疑問に答えてくれる。

 え、マジで?


『生まれるまでの間、何回でも引き直すことが可能です』


 そうなの? 有償石が必要とかは?


『代償はありません。納得されるまで、引き直していただいて構いません』


 なるほど。じゃあ、強そうなスキルが出るまでリセマラしよう!

 俺は嬉々として、「いいえ」を選んだ。


  🥚


 それから、色々なスキルを引き当てた。「剣術:レベル1」みたいなのから、「魔力倍増」とか「百発百中」とか、使えそうなのもあった。

 でも、超レアなのだと、どんなスキルがあるんだろう?


『それはわたしにもわかりません。ですので、あまり欲を出さない方がいいかと思いますよ。どんな力を持って生まれようと、その先はあなた次第なのですから』


 うーん、レアが何かわからないガチャかあ……。クソ仕様じゃね?

 でも、生まれるまで引き放題なら、他にどんなものが出るか、試してみてもいいだろう。


 そう思って、俺はリセマラを続けた。


  🥚


 そうこうするうちに、身体ができてきたのがわかる。暗いし狭いからはっきりとはわからないけど、角や牙、身体は鱗に覆われている気がする。でも、まだ納得のいくスキルは出ていない。


 もぞもぞと身体を動かすと、真っ暗だった空間にぴしりとひびが走って、白い光が入ってきた。眩しい。

 まずい。もう生まれてしまう。


「結果を確定しますか?

 ➡はい

  いいえ」


 目の前に、文字が表示されている。俺は焦る。


 そうだ。何回でも回せると、声は言っていた。だから、まだんだ。


 俺はまだ、外には出ない。最強のスキルを手に入れて、大活躍してみせるんだ。


 そう思って、「いいえ」を選んだ。光る卵が舞って、ガチャの演出が始まる。出たのはまた微妙なスキル。俺はまた「いいえ」を選ぶ。


 よし、もう一度だ。


 色とりどりの卵が、視界に踊る。けれど、それがだんだんとぼやけて、よく見えなくなってきた。なんだか力も抜ける。

 どうしたんだろうと思っていたら、やがて視界が真っ暗になって、俺の意識は途切れた。


 🥚


「ああ、そんな……!」


 彼らの前には、両腕で抱えるくらいの、大きな卵があった。それは、薄闇を照らす灯のようにほの白く光っていて、殻はひび割れて中の雛が今にも孵ろうとしていた。


 ところが、殻を割ろうとする雛の動きは、段々と弱々しくなって、やがてぴくりとも動かなくなった。灯っていた脈動のような光も、命が失われるのと同時にすうっと消えていき、闇に溶けていく。後には本来の殻の表面の白さが、微かに闇に浮かぶのみとなった。


 空気が狂おしく震える。卵を抱いていた母竜が発した、嘆きの声だった。空を細く切り裂くような、深い深い悲しみが伝わってくる。


 神域とされる山の奥、そこに棲む白銀の鱗を持つ竜は、世界を見守る聖竜と云われていた。聖竜は長い時を生きるが、その生涯に数度だけ卵を産む。そして、その卵が孵化する確率は決して高くはない。人々は、卵が無事に孵るようにと、昼夜祈りを捧げていた。


「族長、もう魔王の軍勢が……!」


 側近が、早口で状況を伝えてくる。神域を守る一族の若き族長は、表情を変えずに明けてくる空を見遣る。彼方には、蠢く影。聖竜を滅ぼそうとする、魔王の軍勢だった。


「もう、この世界は……」


 一族の人間は項垂れ、口々に嘆きの声を上げる。

 今、人類は魔王の侵略によって、甚大な被害を受けていた。しかし、世界が闇に閉ざされし時、勇者が覚醒し、聖竜の翼に乗って闇を打ち滅ぼすという伝説がある。世界は勇者の到来を、待ちわびていた。


 けれど、聖竜も長い時を生きて、衰えていた。卵が孵り、次代の聖竜が生まれることも悲願とされていたのだが、やっと生まれた卵からは、雛は孵らなかった。勇者も、未だ現れない。

 人々の心は絶望に呑まれ、自ら魔物を生み出そうとする。しかし、彼は顔を上げて、凛と声を張った。


「まだだ。まだ俺たちは負けない。生きてさえいれば、希望はある」


 そして、聖竜の側に寄ると、その首を優しく撫でる。


「疲れただろう、聖竜よ。今はゆっくり休まれよ」


 男は言うと、剣を掲げた。その切っ先が、上り始めた朝日を受けて輝く。


「武器を取れ! 戦え! 俺たちの里を、聖竜を、誰にも蹂躙させはしない!」


 彼の声に、ぽつぽつと里の人々も立ち上がる。自分たちは勇者ではない、ちっぽけな一人の人間だ。でも、だからといって諦めるわけにはいかない。自分たちの居場所が壊されるのを、黙って見ているわけにはいかない。


 彼らは戦う。希望を信じて。その命ある限り。



 了

 


  

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転生したら卵だった件~生まれるまでスキルガチャ引き放題らしいので、ひたすらリセマラします!~ 月代零 @ReiTsukishiro

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