シャリオドールのクリスマス後日譚&番外編☆

奈倉柊

第1話 Epilogue1.(広瀬✕森川)

 店を出ると、冬の夜の清冽な空気が気持ち良かった。

 相原くんが最初に、じゃあお疲れっした、と言って玩具みたいな自転車に乗ってさっさと帰って行き、そのあと北澤が中途半端に、俺ちょっとあれなんで、とか何とか言って駅じゃない方向にふらふら歩いて行って、俺と森川は二人になった。

 あのさあ、と森川が言った。「斉藤くんが休憩室に呼びに来た時、僕なんで大丈夫ですよって言ってたけど、よく考えたらあれ、全然大丈夫じゃないよね」

「直後のスピーチでもうあれだったしね。まあ、だだ漏れの斉藤くんに知られたってことは、隠し通すのは無理だと思っといた方がいい」

 森川が、そうだよね、と言って、大袈裟にため息を吐いたわりに平気そうな顔をしているのが可笑しかった。

「どこか寄る? それとも帰る?」

 そう訊かれて、今日は帰る、と答えた。明日からも忙しいだろうし、と。

 本音を言うと、あまり先を急ぎたくなかった。これまでずっと触れたい抱きたい俺のものにしたい、と思い続けてきたはずの俺は今、既に満たされ切って溢れていた。俺のキスに驚いて固まった森川が、ふっと力を抜いて俺に全部をゆだねてきた、あの瞬間の余韻で。

 歩き始めると森川が急に手をつないできた。振り払って、恋人繋ぎにしてやった。

 楽しくて顔がにやつくのが解った。隣を見ると森川も緩い感じに笑ってて、俺の視線に気づいてこっちを見るとその笑いが何となく、バツの悪そうな苦笑いに変わった。

 ずっと待たせて悪かった、と言って、森川は前を向いた。

 ずっと待ってた甲斐はあったよ、と俺は答えた。

 森川は息だけで笑った。

 それからしばらく、二人とも黙って歩いた。

「関係ないけど、鏑木くんが彼女と食事に来た時、何でお姉さんだと思った?」

 それぞれの家に向かう分岐点が見えてきた時、ふと俺は訊いてみた。森川は意外な顔もせず、名前がしおんだったから、と答えた。

「シオンもルカも、どっちも聖書に出て来る名前だからさ。なんかそういう、ミッション系の家庭の姉弟なのかなと思って」

 ふうん、と答えた。何でそんなことを知ってるんだろう、と思いはしたものの、それ以上の会話はしなかった。今はつないだ手の温かさに集中したかったから。

 あと少し。

 別れ際、深夜の誰もいない路地で、森川は実に森川らしいキスをしてきた。

 静かで丁寧で情熱的な、長い長いキス。

 俺の胸にはこの上なく甘い疼痛が走った。

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