九野菊華はプロムの謎を解きたくない
中太賢歩
プロム
中高一貫校である私立レガーメ学園には、大企業の御曹司や政治家の令嬢などが八割程の割合で在籍している。
そんな私立レガーメ学園では、国際系を謳っている為か、様々な外国の文化が取り入れられている。
特に学園を上げて行われるのが、学園一の目玉イベントもである『プロム』だ。
西洋系の名門校でも有名なイベントである。
プロムが近付いているからか、生徒達は浮き足立っていた。
「菊華、お願い!菊華も出てよぉ〜……!!」
「やだ」
プロムは一応自由参加ではあるものの、ほとんどの生徒が参加する。
そんなプロムの参加を拒否する、1人の女子生徒。
彼女こそ、クラスメイトから幼児扱いをされ……可愛がられる生徒の、九野菊華である。
その九野にプロム参加を頼み込むのは、学園一の美女と呼ばれる、明治時代から続く由緒正しい貴族の子孫、冷泉ガラシャだ。
そして、九野の親友でもある。
「美味しい料理も出るよ?ね!?」
「……まあ、それなら…」
九野は食べることこそが生きる幸せ、と考える人間である為、料理という単語にはとても弱かった。
そして、渋々プロムの参加を了承した。
プロム当日。
プロム会場である大講堂は、華やかな衣装に身を包んだ生徒で溢れていた。
「菊華ちゃんだ!」
「むぐ、…伊藤スミレか」
九野に話し掛けたのは、高等部生徒会書記であり、閣僚の一人娘である伊藤スミレ。
「菊華ちゃんが居るの、珍しいね。どうしたの?」
「ガラシャに頼まれてな。料理に罪は無い」
「あ、料理が楽しみだったんだね…」
菊華ちゃんらしい、と微笑む伊藤。
「君こそ、随分と華やかなドレスじゃないか」
「えへへ、どう?可愛い?」
くるりとその場を回る伊藤は、レースがあしらわれた真っ赤なドレスを着ていた。
「すまないが、私にはそういった美的センスが無いため分からない」
「……ふふ、ありがと!」
「?」
伊藤は、九野の言葉で満足したらしく、ペアの元へと戻って行った。
「何だったんだ……?」
はて、と首を傾げる九野。
まあいいや、と、九野はサンドイッチを頬張り始めた。
プロムもそろそろ中盤に差し掛かろうとしていた。
ちょうど希望者によるダンスが行われており、皆楽しそうに過ごしていた。
その間も、九野はパスタに舌鼓を打っていた。
「くふふ、実に美味だ……」
むふふふ、と九野がパスタ(カルボナーラ)に夢中になっていると、ダンスが行われていたステージにて、叫び声が聞こえた。
「ガラシャが居ない!ガラシャ、ガラシャはどこだ!?」
冷泉のペアであり、プロムキング候補である近衛文雪が、そう叫んだのだ。
「おかしい、さっきまで一緒だったのに……!僕が目を離した、たった一瞬で……!!」
プロムクイーン候補である冷泉ガラシャが行方不明になった。
この事実は、華やかな雰囲気であれだけ盛り上がっていた会場を、緊迫した空気に変えるには、充分過ぎる情報だった。
シン……と静まり返る会場。
そして、生徒達による騒めきが、会場に響く。
生徒達のSPはプロムには参加不可である為、生徒達は自由に動くことが出来た。
しかし、まさかそれが裏目に出るとは思わず、生徒達は動揺し始めた。
(……む?)
九野は、1人の男子生徒の不審な挙動が目に入った。
その男子生徒は、田野辺
その田野辺は、きょろきょろと近衛達の居るステージと、会場である大講堂の裏通路をしきりに見ていた。
「……」
九野は、むしゃむしゃと生ハムとメロンのサラダを頬張りながら、じぃっと更にプロム参加者である生徒達を観察した。
けれども、九野はあくまでも傍観者で居よう、と考えている。
(面倒事には関わりたくないな。知らぬ存ぜぬ、の方が世の中上手く生きやすい。それに……)
おじいさまみたいに、要らぬことに関わって死にたくないからな
九野は過去に、祖父がとある事件に巻き込まれた為に亡くしてから、あまり人と関わろうとしなくなった。
だからこそ、今回もただの傍観者でやり過ごしたいのだ。
そう考えた矢先、九野はただの傍観者では居られなくなる事態が発生した。
「そ、そうだ…!菊華、九野菊華はどこだ!確かガラシャの親友だったから、きっと何か知っているに違いない!!」
近衛が、九野の名前を叫んだのだ。
「……は?」
もっもっと一口大のフレンチトーストを頬張っていた九野は、この展開に思わず頭を抱えた。
(……最悪だ…)
九野は学園でも、不思議ちゃんとして多少有名な生徒だった為、一気に生徒達の視線を浴びた。
「なんて日なんだ……」
はぁぁー……と、九野は深い溜息を吐き、美味しい料理と暫く別れることとなった。
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