第7話

第5章 青


――雪


青い。

放課後の空は、やけに澄んでいた。

体育館を出ると、風が冷たい。

汗の残った首元に、少しだけ刺さる。


「先輩、これ!」


後輩の声に振り向く。

差し出されたタオルを、反射的に受け取った。


「ありがとう」


そう言って、頭を軽く撫でる。

いつものことだ。

後輩は、はち切れるような笑顔で走っていった。

それで、誰かが笑うなら。

そんなふうに考えるより先に、体が動いてしまう。


——俺は、そういう人間だ。


でも、その瞬間。

視界の端に、芽衣子の姿があった。

立ち止まっている。

何か言いたそうで、

でも、何も言わない顔。


——まずい。


胸の奥で、危険信号が鳴る。

それなのに、足は動かなかった。

誰にでも優しくすること。

それは、間違っていないはずだった。


なのに——

一人だけ、置いてきぼりにしている気がする。


俺は、芽衣子に今の光景を見られたくなかった。

どうしてだ?


廊下の向こうで、

芽衣子は友達と話し始める。

笑っている。

けれど、その笑顔は、どこか遠い。

——もし、あの反応が。

俺への気持ちからくるものだったら。

そんな期待が、胸をかすめる。

同時に、

何もできなかった自分の不甲斐なさが、

ずしりと重くのしかかった。


その夜。

イヤホンから、作楪の声が流れる。


「守ろうとして離れるのは、

優しさじゃなくて、

怖さかもしれない」


胸の奥に、冷たいものが広がった。


——俺は、何が怖い?


近づきすぎて、

誰かを傷つけることか。


それとも、

自分が傷つくことか。

青い空は、

どこまでも広がっているのに、

手を伸ばしても、届かない。

芽衣子との距離も、

そんなふうに感じていた。


話しかければいい。

それだけのことなのに。


優しさで埋めてきた空白が、

いつの間にか、

深い青になっていた。

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