第3話
芽衣子の視点 鉛色から黄色の境目
放課後の教室は、昼間より少しだけ静かだった。
窓の外から、バスケットボールの音が遠くに聞こえる。
私はスケッチブックを閉じるタイミングを失って、
机の上に開いたままにしていた。
「芽衣子」
名前を呼ばれて、心臓が跳ねる。
雪君が、教室の入口に立っていた。
「これ、落としてた」
差し出されたのは、消しゴム。
ほんのさっきまで、私の指にあったもの。
「あ、ありがとう……」
それだけで精一杯だった。
声は小さくて、震えていたと思う。
雪は笑った。
誰にでも向ける、あの優しい笑顔。
「なくすなよ、絵描くのに大事だろ!」
それだけ言って、彼は教室を出ていった。
夕焼けに伸びた彼の影が長く伸びた。
私の影はそこに貼り付いて、黄色の光を眩しく見つめるだけだった。
——やっぱり、私だけじゃない。
ふぅと息を吐く。
イヤホンをつけると、作楪の声が流れてきた。
「優しさってね、
相手に届いてなかったら、
ただの音になることもあるんだ」
胸が、きゅっと縮んだ。
彼の優しさは、
私に向いていたはずなのに、
なぜか、遠く感じた。
私は鉛筆を握り直す。
黄色を塗る勇気は、まだなかった。
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