第2話 

第1章 鉛色


――芽衣子


イヤホンの向こうで、コントローラーのカチャカチャという軽快な音がした。


「こんばんは、作楪です。今日もまったりやっていこうか」


その声を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけゆるむ。

理由はわからない。ただ、毎日この時間になると、

私はこの配信を探してしまう。

ゲームをしている訳じゃなかったけれど、自称ゲーム配信者と名乗りゲーム自体は目的ではなく仲間作りの手段だ!と熱く語るこのおばちゃん配信者に惚れ込んでいた。

居心地がいいと言うか、姉の様でもあり母の様な不思議な存在だった。

今日もまったりとBGM代わりに聴きながら、過ごすとしようか…


机の上には、開いたままのスケッチブック。

授業中に描きかけたページを、そっと押さえる。

鉛筆は、まだ握ったままだった。

画用紙の上には、窓際の席に座る男の子。

輪郭は薄くて、線は頼りない。

何度も描き直したせいで、少し灰色にくすんでいる。


——声なんて、かけられない。

同じ教室にいるのに、

名前を呼ぶだけの距離が、どうしても遠かった。

だから私は、描く。

話しかける代わりに、鉛筆を動かす。


「焦らなくていいよ。

下書きの線が一番、大事だったりするからさ」


作楪の何気ない一言が、

まるでこのページを見られているみたいで、

思わず鉛筆を止めた。


細くて、自信のない線。

それでも、彼を追う私の目だけは、誤魔化せたりしないよね。

どうしようもなく正直で、いきいきしている。


——消せる線だから。

まだ、間違ってもいい。

私はそう言い聞かせて、

もう一度、鉛筆を走らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る