失踪人敦子
@ohiroenpachi8096
失踪人敦子 猫探偵事務所猫野ぶちお
失踪人ー敦子ー
プロローグ
3カ月前、会社員の女(26)、はくさん市在住が大阪からの出張から帰途、足跡が消え行方不明となる
彼女は新大阪駅でサンダーバードに乗り、敦賀駅で下車、その後乗車予定の北陸新幹線には乗らずに敦賀駅を出た。その後消息不明である。彼女の所持品は一力川河川敷にちらばった状態で発見された
「ということだ。よろしく頼む。探偵に依頼するのが相応しい事件だ。はくさん市に届けられたのでウチが管轄だ。それに事件性のない失踪は、警察は積極的には動かない。それはおまえも知っているだろう。」
「その会社員の女を探せと」
「そうだ」
「大阪、敦賀、金沢ですか。わかりました。全力を尽くします」
第1話
「また宮本さんちの草むしりを途中にしておくんですか?また草が生えてきますよ。いいんですか」
「大丈夫だ。宮本さんとは昔からの知り合いだ。よく知っている間柄だから、多めに見てくれる」
「えっ、そうだったんですか!そんなこと教えてくれなかったじゃないですか。こんなにガッパになることなかったということですか。一生懸命にやるんじゃなかった」
「そんなことない。やることは全力でするそれが猫探偵事務所のモットーだ」
・・・矛盾している気が・・。
「まずは、家族をあたるぞ」
第2話
ちょうどよいぬるさの美味しい緑茶をいただき、ほっとひと息させてもらい、両親に話を聞いた。
「まったく心当たりはありません。どうかうちの敦子を探してやってください」
「全力を尽くしますので」
「彼女は敦賀に土地勘があったと思いますか?」
「なかったと思います」
「敦子さんは、いまの会社にはいつからお勤めでしょうか?」
「今年の4月からです。勤め始めて3カ月です」
「なにか仕事関係や他のことで悩んでいたとか、聞いたことはありますか」
「いいえ、聞いておりません。仕事は楽しいとは言っていました。他に悩みごとがあるとも聞いてもおりません」
「仕事は休まずに行っていましたか?」
「はい。でもときどき残業で遅くなることはありました」
「敦賀市で足跡が途絶えています。知人のところにいる可能性はありませんが?」
「知っている友人には、尋ねていますが。誰も・・・」
「たとえば、敦賀に彼氏がいるとか?」
「聞いておりません」
「敦子さんの、趣味は?」
「マラソンとラーメンの食べ歩きです」
「ということは、土日はそれらの活動で忙しい?」
「そうですね、家にいることはほとんどはなかったです。とても楽しんでいましたね」
「最近、電話などで彼女から連絡は?」
「ありません」
「すみません、彼女の写真をいただけますか」
第3話
「なにか、気になることはありましたか?」
「仕事だな。新社会人は一般に勤めて3カ月くらいで辞めることが多い。人は強いストレスに耐えられるのは、3カ月くらいだと言われている」
「趣味はマラソンですか。それらしい体形をしています。ラーメンもですね。敦賀に行って食べたいラーメンでもあったとか」
「かもな。おまえ、ラーメンは詳しいか?」
「見た目に反してラーメンも得意分野ですよ」
見たそのままだろ・・・。
第4話
彼女は金沢市のIT関係の会社に勤めている。ここでエンジニアとして働き、主に関西方面の担当で、依頼主の会社へPCのソフトウェアの管理のために出張したり、新しいソフトの開発をしているそうだ。
担当課長の武蔵氏
「休まずに出社していましたよ。残業ですか?うちは出張以外には、特別なとき以外はないですね」
「会社でなにか大きなトラブルを抱えていたとかそんなふうには見えませんし、聞いたこともないです。彼女、優しいから社員に好かれていましたけど、ただ・・」
「なにか?」
「大きなトラブルではないのですが、優しいので、エンジニアの彼女が、本来する必要のない雑用など面倒なことは、彼女に押しつられることがよくありました」
「よし、彼女の足どりをたどるぞ!敦賀にいくぞ」
第5話
北陸新幹線で敦賀、そしてサンダーバードに乗り換えて大阪までやってきた。いつまでも新幹線に乗っていたいとサンダーバードの乗り心地が違いすぎる。新幹線が快適なので余計サンダーバードは不快に感じる。疲れる。
まず出張先から行くとするか。
梅田駅を出ると、大きな看板のその会社はすぐに分かった。「新うめだ商社」とある、何階建てか数えるのがバカらしいくらいのビルの5階らしい。
話を通してあったので、受付はすぐに応対してくれた。
カウンターの花瓶には向日葵が飾られていた。
「おまたせしました。新うめだ商社の営業部阪急と申します」
胡瓜みたいな中年だった。
「わたくし、猫探偵事務所の猫野ぶちおと申します。こちらは助手の目田保(メタヤスシ)です」
例の名刺を出しておいた・・。
「彼女の印象などは?」
担当課長武蔵氏
「彼女はときどきうちに来ていただて仕事をしてもらっています。真面目に仕事をしていただいております。彼女はラーメン食べ歩きが趣味だということで、うちの社員と仕事を終わらせたら、食べにいくことが多いみたいです。わたしも誘われたことがありますよ笑」
まんざらでもないらしい。
「ともかく基本、優しい子なので皆から好かれています。うちの娘とえらい違いですよ」
「こちらにやって来ると仕事は何時から何時までしているのです?」
「始業は他の社員とおなじ9時、終業は17時ですが、たまに彼女には遅くまで残っていただいています」
「彼女はどこを宿にしていたか知っていらっしゃいますか?」
「さぁ、そこまでは」
「この土地に彼女は土地勘がありますか?」
「観光客よりも知っている程度かと思いますが」
「彼女と特別仲が良かった子はいますか?」
「はい、我が課におります。呼びましょか?」
「助かります」
「おまたせしました難波波子です」
「よろしくお願いします。福井敦子さんと仲がよかったということで呼んでいただきました」
「はい。そうですけど。なにか?」
「彼女は、あなたから見てどんな女性でしたか?」
「優しくて愛想がよくて・・・それは少し違いますね。会社では愛想よく振る舞ってても、飲みにいけば、ひとの悪口、仕事のぐち、彼氏とののろけ話。はじめて飲みに行ったときは、驚きました。ても、そういうとこが人間臭くてホントに好きだったんですよ。彼女何処にいるのかな・・・会いたいです。もういないってことはないですよね?」
「全力で探し出します」
「失踪する前後で、彼女になにか変わったことはありませんでしたか?」
「とくに・・。お酒飲んでお腹のそこから笑って、楽しかった」
「彼女、笑いすぎるくらい、わたしの話にウケてくれてね、それがうれしいんですよね」
「出張のとき、彼女はどこに泊まっているか、知ってますか?」
「そこの駅前のアパでした」
「どうも、ありがとう。参考になったよ」
「敦子は、彼女の話にとてもウケてくれる」
「少し会社にいるときとは違う一面を見せる。でも人とは多かれ少なかれ、そんな所があるのでは」
「違メタボ、うまいこと言う。せっかくだ、大阪のラーメンでも食べるか?」
「うい!」
第6話
敦賀は静かなところだ。彼女はここで何を思ったのか。
彼女は、ここでサンダーバードから北陸新幹線に乗り換えしなかった。彼女は改札へ口は向かわずに30分トイレにこもった後、敦賀駅を出た。幸いにも、その日の彼女が映っていた映像が保存してある。カメラの映像は過去1年分が保存することになっているそうだ。敦賀署が彼女のことについて聞きに来たらしい。通常、事件性のない失踪は、圓八警部が言っていたとおり、警察は積極的には捜査しない。だからオレたちに依頼が来たという訳だ。しかし敦賀署は事件性があると判断したか
彼女のスーツケースが、一力川河川敷置かれてあり、中身はバラバラになっていた。免許証や身分証、現金も、スマホもその中にあった。
「彼女は、最終の新幹線に乗り換えするために改札口へ向かった。しかし敦賀駅を後にした」
「気持ちの問題だろうな。心が折れたんではないか。とにかく何かに悩んでいた」
敦賀駅で保存してあったカメラの映像を見せてもらったが、おかしなことは起きていないように思った
「ぶちおさん、べつのカメラに彼女の表情がわかるものがあります。すっきりした顔をしているようですね、悩みが吹っ切れた?
「なにしていたんでしょうかね」
「なにもしなかったんだろう。これからどうしょうか考えていたとか。いろいろ迷っていた」
とにかく彼女は次の新幹線に乗るための行動をしないで、駅を出た
「彼女は一力川の河川敷へ行くんですね」
第7話
この辺りだ。彼女のスーツケースや所持品がバラバラになった状態で、捨てられたような状態で発見された。
「これ以上、調べてもなにも出ないと思いますよ」
敦賀署で嫌味を言われた。
「敦賀駅を出た、その日の夜に彼女が放り投げたんでしょうか?邪魔だったから?」
「にしては・・この写真を見てみると、派手だな。しかも免許証や身分証、現金、スマホなんかも捨てられている。もう思いっきり放り投げた感じですね」
「スマホのデータは?」
「ダメでした。故意に消されていたようです」
「そうか・・まるで、自分とさよならしたかったみたいだな」
第8話
「とりあえず、宿をとるか」
「とってありますよ。HOTELTSURUGA」
「今晩は鯖とラーメンだ」
「うい!」
第9話
敦賀料理「つるが」で焼鯖や鯖寿司、河豚の刺身などを食べたが、炭火で焼いた焼鯖が格別だった。
「おにいさん、焼鯖もう2つね」
「おい、あんまりここで食いすぎるなよ。ラーメンの分、腹を空けとけよ」
鯖寿司を3人前平らげた人間に言ったが「大丈夫です!」と返された。
「いよいよラーメンですね。敦賀ラーメンてどんなラーメンか知ってますか?」
「知らん」
「豚骨しょうゆです。麺は細いストレートでスープはさらりとしてるんです。覚えておいて損はしないですよ。いつかメーテルさんと来るかもしれないじゃないですか。いいなぁ」
「・・・で、どこに行けばいいんだ?店は」
「屋台です!敦賀ラーメンは屋台で食べます!あの大通り沿いに屋台が並んでいます。ほら」
「ほう」
「一番有名な店に並びますか」
「メタボ、オレたちはただ食べに来ただけでないんだ。ここで聞き込みをするぞ。彼女の写真を出せ」
「えーそうなんですが?でも3軒は食べますよね?」
「知らん」
第10話
「なかなかの風景だな。言ってはなんだが、こんな田舎にこれだけの屋台が並んでいる。まぁそこがいいんだろう。敦賀にあるのに、なぜ金沢には屋台がないんだ?」
「それはですね・・・簡単に言うと、条例でダメだと決められているから!」
「ふーん、知らんだ。勉強になるよ、目田保先生」
「で、何処の店から食べる?」
「池田家ゴンちゃんですね。敦賀屋台ラーメンと言えば、ごんちゃんと言われているくらいです」
「さすがにうまかったな。スープが良かった」
「でも、彼女の方は空振りでしたね」
「だな。つぎは・・テキトーだな」
敦賀ラーメンというストレートな店名である
「他と違って、少しスープがどろどろしてるでしょ。これは京都ラーメンの血が流れている証拠ですよ」
「お遊びはおしまいだ。これから食べないで聞き込みだけをするぞ」
「せめてもう1軒!」
「聞き込みが終わったらだな」
「全力で頑張ります!」
第11話
「ダメですね、彼女はあっさりした顔だから、記憶にあんまり残らないかも」
「まあ、そう言うな。地道で全力を尽くすのが、猫探偵事務所のモットーだ」
「いつのまにそんなモットーをつくったんですか?」
「知らん」
30軒近くが並んでいるこの大通りに、彼女に心当たりにある店主や店員は見つからなかった。
「おい、屋台はこの大通りの他にはないのか?」
「ありますよ。少し外れに何件があります」
「そこに行こう。屋台の提灯に目が眩みそうだ」
ラーメンみちづれ
「あ、さっちゃんですよ、さっちゃん。この子はうちのアルバイトだった子です」
「だった?いつまでこちらに?」
「先々月から先月までの1ヶ月間いたんですけと、彼女がなにか?」
「彼女は、じつは家出中なんです。それでわれわれが探しているんです」
「え、そうなの、ラーメン食べ歩きが趣味だから、勉強させてくださいと言って来ましてね。働き者でしたよ。それが先月、突然来なくなってね。気になってたんです」
「そうですか。ありがとうこをざいます。お礼に食べさせて頂きます。わたしは1杯、こいつに2杯やってください」
「ぶちおさん、やりましたね!遠慮なく頂きます!」
ラーメンは、ごんちゃんとも敦賀とも違う醤油が効いたパンチのあるものだった。なんでも敦賀の名店、一力ラーメンの系統だそうだ。これも素朴でうまい。
「おやじさん、彼女はなにか言ってませんでした。覚えていることは何でもかまわんから」
「んーそだな、会社辞めてここに来たと言ってたね。最初に会ったときは、相当疲れているようだったな。それが何日か経ったら、活き活きしだして、それからは短い間だったけと、楽しそうでしたよ」
「彼女、どこに泊まっているか言ってました?」
「そうだなぁ・・・知人のところにやっかいになっているとか言っていたような気がするな」
「ごちそうさん、うまかったよ。ありがとう」
第12話
「拉致ではないみたいですね、単なる家出?」
「家出なら、少なくともスマホと免許証と現金は持って行くもんだ」
「・・・じゃあ、つぎは?」
「そのやっかいになった知人だな、しかしどうすればいい・・」
「行き詰り?」
「・・・」
「彼女の趣味は、ラーメンと、それからマラソンもでしたけど、関係ないですかね」
「そうだな。この敦賀のどこかで彼女は走ってかもしれないな。マラソンは中毒になるそうだからな。そうそうやめられんだろ」
明くる日、市の陸上競技会に電話したところ、3つ程人気のあるコースを教えてもらったが。すべて空振りに終わった。
「どの女性も、まだ9月だから日焼け対策がバッチリで、キャップを深く被っていて顔がまったく見分けが着きません・・」
土、日とランナーに聞き込みをしたが収穫は得られなかった
「行き詰りか」
第13話
「今までが順当だったからな。仕切り直しだ」
「うい」
「彼女はどこにいるのか、知人とはどこの誰か・・・」
そういう状態が1週間続いた。
「メタボ、オレはここで寝てるから、好きに行って来い」
「あ、ヤル気なくしましたね?やることは全力でやる!がモットーでなかったでしたっけ」
「知らん」
第14話
好きにやってもいいか。それだけ信用されてる?
うふ、ふ
(メーテルのつもり)
マラソンはダメ・・とくにキャップを深く被ってみんな同じ顔に見えてたからなぁ
秋になれば、見分けがつくかな。
ラーメンに満足して、マラソンは暑いからやめといた・・・としたら、この敦賀にはもうやることはない?
ちょっと待てよ。彼女はマラソンしようとしても、敦賀にはウェアとか持ってないよな。こんなに暑くても走りたいなら、買うやろ?マラソンは中毒になるらしいから、走りたいやろな・・・うずうずしたかな。
セビロスポーツで聞き込みだ。まだ9月なのにマラソンコーナーは、秋物のグッズが並べてある。僕には縁遠い・・・マラソンするなら、その分のお金で食べ歩きだなぁ。マックが恋しくなってきた、あとで食べよう。領収書はぶちおさんにしとこう!
店長の横走さんが応対してくれた。やさしかったので緊張せずに済んだ。こう見えても人見知りするのだ。
「この彼女が二月くらいの間に、ここに来てウエアなど一式買いませんでした?」
「ちょっと待ってください。店員に聞いて来ますから。でもウエア一式購入する人は珍しくないので、あまり期待しないでくださいよ」
「承知しました」
しばらくして、横走店長が僕よりも若いだろう女性店員を連れてきた。
「この女性ですよね。覚えていますよ。マラソングッズを一式購入なされました。見ていると、ウエアとかシューズ、キャップ、ソックスなどを悩むことなく決めていらっしゃいました。とくにシューズには全く迷わなかったんです。そういうお客様は少ないですから、上級者なんだなと思いました。だから覚えています。あと、レジで金沢なまりでお話をされていたので、印象に残っています。わたしは金沢出身なんです」
なまりか・・。
おし!つぎは、どこで走っているかだ。めぼしいマラソンコースは、こないだ空振りした・・・しな。
どこだ、絶対に市内にあるはず。
マックのZセットを持ち帰りにして、陸上競技場横の公園でポテトをつまみ、ときどきバーガーに食いつきコーラ飲み、さっき陸上競技でもらってきた、いろいろなマラソン大会のチラシを眺めた・・・。
「あれ!?陸上競技場って開放されとるんかな?彼女はこの辺には無案内やから、陸上競技場で走るとか?」
やっぱり一般にも開放されていた。
おし!
受付のおばさんに尋ねてみると。
「まぁ、彼女ならここへ来るとはトラックを何周も走っていますけど」
「いつ来ますから?」
「そうねぇ、でも最近は来てないじゃない?ね?」
となりのおはさんに話を振った。
「最近見ないね」
「いつ頃まで来てました?」
「・・・一月前?それまでは毎日走ってましたけど」
「ありがとうございます!」
第15話
「そうか!すばらしいぞ目田保くん。でもな、マックの領収書やけどな、猫探偵事務所をつけたしてもらえ!という訳でこれは受け付けられん!以上」
「そんなーいいじゃないですか。お手柄だったんですよ?」
「しょうがない。手を出せ」
かさっ
「とっとけ」
「あ、ありがとうございます!!僕、頑張りますから!」
第16話
「というけわけで、彼女はもう敦賀にはいないかと」
「なんほどな」
「で、つぎに彼女はどこに行ったのかです?」
「それともう一つ、資金をどうしていたのかがある」
第17話
時は10月を迎えようとしていた。行き詰まってしまっていたので、一旦家に帰ることにした。
はくさん市はすっかり秋の風だ。赤とんぼが飛んで、秋桜が畑一面に鮮やかに咲いている。そして秋の空気がおいしい。地元に帰ってきたと思う。
「今回の依頼は、長いわね」
「そうだな。でもこうやってキミが家にいると、戻ってきたんだと思うな。リフレッシュしてやり直しだ」
メタボも家に帰ると言っていた。やつは、地元っ子だ。あんまり家に帰らないと親御さんも心配するだろう。
敦子もはくさん市だ。彼女も少しは帰りたいだろうな。いったいどこで、なにをしているのか・・。
誰かから生活資金をもらっているのだろう。もらうとすれば、知人か。彼女の知人か。知人ねぇ。仲の良い人物・・・・・。
「メーテル!悪い。また行く。大阪だ」
「え、そうなの・・・はやく帰ってきてね。帰ってきたら遊んでね」
瞳が憂いの涙で満ちている。
「約束する!それから、無駄遣いはしないように」
「はい」
「メタボのクルマでも借りてドライブでもしようか?気に入っているだろ?」
第18話
圓八警部。
「帰って来たと思ったらもう行くのか。メーテルがかわいそうだな」
「解決したら、しばらく仕事は休みます」
「で、なにかわかったのか?」
「ただの失踪じゃないのか?」
「わかんないです・・・」
「なによ、暇探偵のクセに忙しそうじゃないの」
「たまにはこういう時もあるさ。だからこうやってご機嫌伺いに来てる。ハヤシね」
「ところで。メーテルは、こっちに来てる?」
「楽しくやってるわよ」
控えめに来客をつげる鈴がなる、あいつだ。
「ぶちおさん、お待たせです。なにか?」
「みぃちゃん、ハヤシを追加。こいつに食べさせて」
「これから大阪に行くぞ」
「待ってました!出発しましょう」
「その前に、ハヤシを食べろ」
「うい」
第19話
「難波波子のところに行く」
「おそらく難波波子が敦子に資金を渡している」
「なるほど、で、どうやって連絡を取ってたんです?お金を振り込むと、調べると分かってしまいますよ。まさか敦賀に行っていたとか?それなら、波子をつければわかりますか・・・つけます?でも、時間がかかるかもしれませんよ」
「その点は、大丈夫だろう。連絡はプリペイドスマホなんかを使っていたんだ」
「でもな、もっと基本的な問題があるぞ。おまえ、考えてみたことあるか?そもそも、敦子はなぜ失踪したんだ?オレたちは、あの荷物が派手に散らばった写真を見て思い違いをしてしまった」
「すべてが嫌んなったからでは、なかったんですか?」
「オレもそう思い込んでいた。でも、果たしてそうなのか?あそこまでスーツケースを派手に放り投げて財布や身分証、その他諸々すべて捨てていったんだ。そう考えるわな。でもな、それなら何故、波子を頼る?失踪するんだ、すべてを捨てるんだから人間関係も整理するだろう。仲の良い人物なら尚更だ。オレはそう思う」
「しゃあ、ほかに何か失踪しなければならない事情が?」
第20話
「こんにちは。難波波子さん、お久しぶりですね」
「こんにちは。敦子はまだですか」
「われわれは全力を尽くしてはいるのですが」
「今日はどういうご要件でしょうか」
「単刀直入に言いますね。敦子さんにお金を融通しているのは、あなたです。敦賀で部屋を彼女の代りに契約したのもあなたです」
「わたしは大阪にいますよ」
「あなた、敦賀大阪間を遠距離通勤しています。さきほど秘書課で調べさせてもらいました。敦賀大阪間は電車で90分あれば十分です。お金の問題はあるけれど、通勤時間90分なんて、都会では珍しくない」
「・・・・」
「あなた方は、なにをしたのですか?」
第21話
「情報漏洩です・・。うちの会社の特許に関するデータと顧客リストなどです。敦子にやってもらいました。高値で買い取ってもらえます。3000万になりました」
「なぜ敦子さんを失踪させることにしたのです?」
「あの子が、「責任はわたしが負う」と、「波子がそのお金を持っていて」とも、いくら説得しようしても聞かなくて、そのうちに連絡が取れなくなったんです
「いつから?」
「3日前からです」
「彼女が行きそうな場所に心当たりは?」
「わかりません。彼女を見つけてあげてください・・・お願いします」
「全力で探し出します」
第22話
何処だろう、いま彼女はどこにいる。
この店のアイスコーヒーは薄い。彼女の存在も薄くなっている。はやく見つけなければならない。しかし、ここからどちらに動けばいいのだろう。敦賀にまだいるのか?敦賀から西へ向かったのか?故郷のはくさん市で両親に会うのか?それともこの大阪にいるのか・・分からなければ動けない。間違えば取り返しのつかないことになりかねない。・
「なぁ、彼女はどこにいると思う?」
「はくさん市に行ったのであれば、圓八警部に頼めばいいと思いますが。その他のところだと想像がつかないです・・」
「そうだな。彼女にゆかりのある場所はところは・・」
「はくさん市の家ですね」
「はくさん市か、あの辺りで自殺するとしたら、猫月滝だな」
「そうですね。最後に両親に会いたいかもしれない」
「よし、その線で動くか」
「うい」
「圓八警部に連絡しておく」
「おつかれさん。話はわかったぞ。猫月滝に人をやる。家の方はおまえたち、頼む」
「よろしくお願いします。時間がありません」
「メタボ、オレ達も行くぞ!」
第23話
はがゆい思いも乗せて新幹線は朝靄の金沢駅に到着した。
幸い、松任駅方面行の普通電車があったが、駅4つ分が更におそろしくはがゆく感じた。松任駅からは彼女の家までは遠いので、タクシーを利用した。
「もう一度お話を伺いに来ました。この3日間のうちに敦子さんが来ませんでしたか?」
「いいえ。来ませんでした」
ご主人が暗い表情で重い口を開いた。
「いいえ。来ておりません・・・」
「本当ですか?」
「来ておりません・・・」
「本当ですか?」
「来ておりません・・・・・」
「そうですか。残念です」
母親が叫んだ。
「ちょっと!待ってください」
「来ました」
「さっきまでいました。あの子を助けてあげてください。お願いします・・・・・」
待たせてあったタクシーに飛び乗った。
「もしもし、圓八さん、そちらはどうなってますか?」
「まだ猫月滝には現れていない」
「わかりました。オレたちもそちらに向かっています」
もし彼女が綿猫月滝でなくて、他の場所へ行ったとしたら終わりだ。
一か八かの賭けのようなものだ。
ガタン、ドアが閉まった。
綿ヶ滝まで徒歩10分のところでタクシーを止めてもらった。猫月滝に向かっていくと、刑事が3名隠れているのがわかる。そのうち1名は圓八警部だ。
朝靄が晴れてゆくが、オレの気持ちは朝靄のようはいかない。視界が悪い。彼女の姿が見えてこない。
彼女は自分のクルマだ。オレたちよりも早くに家を出たならば、とっくに到着していてもおかしくないはずだ。
・・・・・・・・・・。
なぜだ!
どこで誤った?
第24話
ここじゃなかったのか
じゃあ、どこだ
自殺するつもりはないのか
失踪を続けるつもりなのか・・・・・
彼女は猫月滝には現れなかった。
第25話
「まあ、そう悔やむな。そういうことだってある。昔、俺が腐るほどおまえに言っただろ?そういうことだってあると」
「はい」
第26話
翌日は午前中に聞き込みをして、午後からの早い時間に松任グランドホテルにチェックインし、露天風呂に入って疲れを癒した。オーバーワークだ、オーバーホールしないとな。
「ぶちおさん。さっき名物のあんころを買ってきました。どうです」
「遠慮しておく」
「あんこ嫌いです?スイーツ好きでしょ?」
「和菓子系は食べないことにしている」
「訳ありでしょうか」
「知らん」
第27話
猫月滝から2週間が過ぎた。彼女の行方はいまだわからない。自宅でもんもんした日々をメーテルと過ごした。彼女は心配しているようだった。いつもより瞳に憂いの表情がある。
どうするばよいのか・・・。
彼女が自宅に現れたのは、間違いないし、クルマに乗って猫月滝へ行ったことも間違いない。
クルマか。Nシステムだな。
「警部、Nシステムで彼女のクルマを追跡したいのですが」
「了解した。疲れは取れたか?」
「リフレッシュできました」
その日の夕方、Nシステムにヒットした。
「ありがとうございます」
はくさん署に出向いて、すぐにチェックした。
第28話
「彼女のクルマは名古屋方面に向かったことがわかる。都会に紛れるつもりだろう」
やはり彼女は失踪し続けるつもりだろうか。名古屋の人混みに紛れてしまえば、聞き込みしてもなにも得られないだろうし、見当もつかなくなる
それに彼女には波子から、お金を3000万の中からもらおうとするのか・・・そうか簡単にできるな。新幹線をつかえばいい。
彼女の言った「責任を取る」とは?
「自ら命を絶つ」ことだと思っていたが、実際は敦賀、はくさん市、今度は名古屋と移動している
まだ行方をくらますことを選んだのだろうか
「ぶちおさん、こうなったら名古屋に行ってみませんか?とにかく動かないとなにもわからないかと思います」
「そうだな」
スマホの御陣乗太鼓鳴った。圓八警部専用の着メロだ
「もっと詳しい情報がNシステムでわかった。彼女のクルマは名古屋の栄に向かった、そこで情報は途切れている。とにかく栄だ」
「ありがとうございます。よい情報です」
「よし、とりあえず栄に行くぞ!」
「うい!」
第29話
メタボのクルマで栄に向かった。「あいかわらずこのクルマは、刺激的だな」
「屋根をオープンにしたら、完ぺきです!飛ばしますよ!!」
彼の運転は、さらに刺激を与えてくれる。運転が粗い・・・が、テクニックはうますぎる
養老SAで休憩することになったが、案の定メタボはオリエンタルカレーの大盛りをかきこみ、そして肉まん3つを養老サイダーで流し込んだ。
「せめてダイエットコーラにしとけ」
「名古屋はひさしぶりです。ここはラーメンはめぼしいやつがないんですよ。ここは、きしめんとか味噌煮込みうどんです!」
・・・・・。
第30話
とらあえず宿をと思い、ホテルに行ったがどこも満室だった。まわりを見渡すと、外国人が圧倒的に多い。
彼らが原因か・・。
ようやくキープできたが、喫煙室しかなかった。
栄に来たと言っても、探し出すあてがない。
「着きましたがどうしましょ」
「・・・そうだな。彼女は波子と連絡を絶ったので、波子からもう資金をもらうつもりはないだろう、当面のお金がほしいだろうな。おい、コンビニで求人情報を取って来てくれ。彼女も見たかもしれん」
「うい」
「彼女はエンジニアだ。それらしいアルバイトとかはないか?」
「ゲームエンジニア募集というのがあります。エンジニアにはいろいろ種類がありますが、これが一番敦子にとって安全なものかと思います。栄でゲームエンジニアと・・・・・ありましたよ。栄ITサービス。ゲームエンジニアを募集しています。これはアルバイトです」
「わかった。明日行ってみるぞ。他にもないか調べておいてくれ」
「うい」
第31話
「彼女ね。来ましたよ。でもうちはスマホゲームに詳しい人がほしいので」
「あぁ彼女ね。たしかに来ましたよ。でも条件が合わなくて・・・」
「なかなか捕まりませんね。でもこの路線で間違っていないと思います!」
「そうだな。次いくか。のこり2つだな」
「来ていますよ。さすがにもとIT系に勤務していたことはあります、仕事ぶりには満足しています。彼女なら正社員で雇ってもいいくらいです」
名刺には、プログラミング担当課長栄山と書いてある。社名は八丁ITサービスだ。
「彼女はいまどこで仕事をしていますか?」
「えーと、岡崎ですね。本来ならば、こういうことは教えませんが、はくさん市の圓八警部からの捜査協力依頼書がありましたのでお答えしました」
「ありがとうございます。助かりました」
第32話
岡崎市は、栄からクルマで1時間30分で、トヨタ市に隣接しており八丁味噌が生まれたところである
「ごめんください。わたくし猫探偵事務所の猫野ぶちおといいます。こちらは助手の目田保です。わたし達は、はくさん署から特別に調査を依頼されております。これが捜査依頼書になります。この依頼書にある、この福井さんを探しております」
「はい、おりますが」
名刺には、人事課岡崎未来と書かれてあり、氏名にはルビがふってある。名前の呼び方というのは、とくに漢字は難しいものだ。
「こちらに、その福井さんを呼んでいただけますか」
「少々お待ちください」
第33話
「お待たせしました。福井敦子です」
!!??
「あなたは福井敦子さんなんですか?」
「はい」
「難波波子さんを知っていますか?」
「いえ」
「最近、大阪や敦賀、石川県に行ったことは?」
「ありませんよ」
「あなたはどちらに住んでいて、実家はどちらでしょうか?」
「岡崎市に住んでいます。実家は岐阜ですが長い間帰っていません」
「もう一度お聞きします。あなたの名前は?」
「福井のぶこです」
第34話
「・・・・・おい」
「はぁ・・・のぶこですか」
「とんだ道草を食いましたね」
「いや手間が1つ省けただけだ・・・」
「手間ですか・・・なるほど」
敦子は金沢市でIT会社に勤めていた。出張先の難波波子と仲が良くなった。敦子と波子は波子の勤め先で情報漏洩をして3000万を手に入れた。敦子、スポーツケースなどを河川敷に放り投げ、敦賀で失踪する。波子は生活資金などを情報漏洩で得た3000万から敦子に資金を手渡している。波子は敦賀大阪間を遠距離通勤している。ラーメン屋台とスポーツ店、陸上競技場で写真から本人と確認。敦子はくさん市へ帰る。敦子、名古屋へクルマで向かう。ぶちお達が会ったのは福井敦子(ふくいのぶこ)で、探している福井敦子(あつこ)ではなかった
「ということだな」
「なにも感想はありません。とにかく別人とわかったので、栄に戻って敦子を探しては?」
「・・・・・栄に戻ってどうする?求人情報は調べたぞ」
「・・・・・IT関係とは別種の仕事をしているというのはどうです?ちなみに・・」
「ちなみになんだ?」
「彼女は上級ランナーですから、そのあたり・・あとはまたラーメン関係」
「うむ、求人情報をもう一度コンビニで取ってきてくれ」
「うい」
ぶちおは汗をかいて戻ってきた。その手の袋には、ハンバーガーとポテト、コーラがあった・・・
「うまいか?」
「さすがにマックには及びませんが、緊急避難ということで!」
「せめてダイエットコーラにしとけ」
「マラソン関係の仕事・・・仕事・・これなんかどうですか?名古屋味噌かつマラソン大会の女性コーチ募集(大会日ペースランナーを兼ねる)。資格はフルマラソン完走記録3時間30分以下の方」
「なるほどな」
第35話
「マラソン開催日は来年の1月です。調度いい練習期間ですね」
「よし」
11月になっている。街中はもうすぐに、クリスマス商戦が始まるだろう。オレたちの格好は季節外れに感じる。今回の依頼は長くなった。電話は何回かしているが、メーテルは元気にしているのだろうか?少しは外に出て散歩でもしていてほしいし、白熊で暖まってみいちゃんと仲良くしていてほしい。
とにかく彼女のためにも、いい加減終わらせないとな。
後から電話をかけよう。メタボもいい加減、家に帰さないといけないだろう。
「メタボ、家に帰らなくていいのか」
「大丈夫ですよ。心配ご無用。オレはこれくらい心配ないです。よくあることです。大学も大丈夫ですよ。こう見えてもオレは成績優秀なんですよ笑」
「飛ばしますよ」
岡崎から栄。メタボの運転は更に粗くなってゆく。
さすがに今回は、休憩はない。どちらも文句を言わなかった。
なかば祈りながら、マラソン事務局へ到着した。
「こちらで来年1月の味噌かつマラソンのコーチを女性に募集しているかと思いますが、そのことで」
「名刺を。わたくし味噌かつマラソン準備委員会の長苦走です」
「ながくそうさん・・マラソン担当に相応しいお名前ですね」
「ああ、よく間違えられますが、はしると呼びます笑まあ、どちらにしても走るんですがね笑」
「あ、失礼。名前の呼び方は難しいですね・・・・・・・・笑」
「彼女なら間違いなく、練習会のコーチをしてもらっていますよ。いやー彼女は適任です。実力があるからこちらも安心です」
彼女はここでコーチをしている・・・。
「彼女の住所はわかりますか?」
「教えなくても、今日がその練習会です」
第36 話
「あの・・何度も思いますけれど、何故敦子は失踪し続けるのですかね」
「オレにはよく分からんよ。彼女の口から聞かないとな」
照明がやけに眩しい。こんなにとは思っていなかった。
このトラックには、今、さかえ大学陸上部7名と一般利用者が15名、そして福井敦子の味噌かつマラソン練習会に23 名がいる。
走るには涼しくで調度よい気温なのか、半袖短パン姿で走っている人がほとんどだ。彼女たちは颯爽とトラックのライン外側にいるオレ達の前を通過してゆく。
あれが、福井敦子。
第37話
彼女が振り向いた。
「はい?」
「福井敦子さん。やっと声が聞けました」
エピローグ
「キャー!最高!ぶちおさん、怖いでーーす」
メタボにはかなわないが、オレだって運転は得意だ!
イエローのホンダ製オープンカーはまるでゲームのように、石川と富山を結ぶ紅葉真っ盛りの156号線の峠で、車体を左右に振りながらすいすいとドリフトしてゆく
「メタボくん、クルマありがとう。楽しかった!ほんとにすごいわ、あのクルマ」
「メーテル、クルマは大きいだけじゃないということがわかるだろう?」
「あーやめて。赤くて大きいSUVを思い出すから。意地悪!笑」
「わたしも今度乗せてよ、メタボちゃん」
「みいちゃん、走るのは何処がいいですかね?」
「メタボ、何食べてもいいぞ。もちろんおごる。裏メニューにあるものでも構わん」
「わかりました!」
「じゃあ、白熊さん。ハンバーガーとポテトとコーラ!」
「せめてダイエットコーラにしとけ」
完
失踪人敦子 @ohiroenpachi8096
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