《祝福循環世界》第一部 境界の学園 ――試練は祝福の形をしている
@Karuma12358
第1話 祝福と紹介状
街の門を入ったところで、一人の青年が立ち尽くしていた。
視線だけが宙を泳ぎ、足が一歩も前に出ていない。
「そこのおにーいさん」
青年が顔を向けると、いたずらっぽい顔でこちらを見ている小柄な少女と目が合った。
「街の案内。一日10Gで請け負うけどどうする?」
「いや、俺は…」
「おにーさん、この街始めてきたでしょ。門から入ってきたときから、途方に暮れたお上りさんの顔をしてるし」
青年は苦笑し、観念したように答えた。
「その通りだ、冒険者になりに来たが、ギルドの位置がわからなくてな。周囲の人や衛兵に聞こうとも思ったが、少し話しかけにくい。」
「まあ、ここは高級住宅と高級商店の区画の隣にある区画の門だからね。おのずとそう言う人たちが多くなるのよ。町の中の中央区までさっさと行けばよかったのに。」
「身分を立てるものがないからな、門兵に呼び止められた。村を出るに際して渡された村長の書面を渡したら通してくれたが、その際に、途中から同道していた商人たちは先に行ってしまってな。道がわからなくなった。」
「だいたい予想通りだわ。だからこそ私みたいのが稼げるんだけど。」
「?」
「こっちの話よ。それで、どうする?町の案内、一日10G、先払いだけど」
「お願いできるか?それで、君は」
「レンよ。おにーさんは?」
「カルマ。冒険者志望だ。」
「了解よ。それじゃあ、ひとまずの案内先は冒険者ギルドの登録所かしらね。」
「ギルドの場所と登録所の場所が分かれているのか?」
「そうよ。ギルド曰く、『登録所の場所を探し出して登録するのが冒険者になるための試験』なんですって。」
「登録所の場所はころころ変わるし、場所はスラム内だからよそ者や一般人には危険だしね。」
「レンさんは大丈夫なのか?」
「さん付け不要よ。私はスラムのすぐ近くにある孤児院に住んでるから大丈夫。」
「スラムの顔役が、孤児院には手を出すなって、スラムの住人に徹底してるって院長が言ってたし。」
「…そういうことか」
「それじゃあ行きましょうか。こっちよ。」
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高級な商店街を抜け、街の中央の広場を通り、さらに進む。
思った以上に大きな都市だ。案内がなかったらと思うと少し冷や汗をかいた。
30分ほど進んだところ、ここはバザーのようだ。露店ごとに食材が山と積まれ、客引きの声が響く。
「にぎわっているな」
「ここで手に入らない食材は高級食材ぐらいって言われてるわね。街の人の台所よ。寄り道してもいいけどどうする?」
「まずは目的を果たそう。案内の続きを頼む。」
「了解よ。」
さらに15分ほど進むと、街のはずれに小さな神殿とそれに併設された建物が見える。
併設された建物の前では子供が数人遊んでおり、元気な声が聞こえる。
神殿のこちら側と向こう側で明らかに雰囲気が違う。
神殿では炊き出しが行われ、それに身なりがボロボロな人たちが並んでいる。
「なるほど、ここが境界線か。」
「ええ、孤児院に手を出すなって顔役が言うのもわかるでしょ?」
カルマは苦笑しながら答える。
「違いない。」
「それじゃ、登録所まで案内するわね。」
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「それでレン嬢の案内でここまで来たわけですか。あなたは本当に運がいいようですな。」
ギルドの登録所では背筋を伸ばし、無駄のない動きの老いた男性が対応していた。
「何かまずかったか?」
「いえいえ、問題ありませんよ。スラムの冒険者ギルド登録所の場所まで逐一把握している案内人など、レン嬢くらいですからな。」
軽い調子で答え、何かの準備を続ける。
「それに、他に知ってる者をスラム外で探し出すのは相当骨ですぞ。だからこそ試験になるのですが。」
男性はカルマに向き直った。
「それでは、やることをまずやってしまいましょう。名前はカルマ殿でよかったですな。この板に手を広げて置いて、ここをのぞき込んださい。個人登録をさせていただいております。」
「これでいいか?」
「少しまぶしいかもしれませんがご容赦ください」
何かが光った。
「はい、終わりです。」
「登録情報はギルドの方にも行っている筈ですので、ギルドカードはそちらでお受け取りください。依頼の斡旋もそちらで行っております。」
「その前に、街の中心付近にある全柱神殿で祝福をもらっていくのが、無駄がないとは思いますがね。」
「祝福か。神に加護として力を授かると同時に、試練も与えられるというやつだな。」
「加護といっても大抵Fランクで、ちょっと冒険に有利になるくらいなのですが、あるとなしでは始めたばかりだと全く違うのですよ。」
「Fランクの加護にはFランクの試練がついてくるのですが、真面目にやれば達成可能ですしな。」
「それに、祝福を受けずに行った者は大抵死んでいるか、スラムの住人になるかのどちらかなのです。」
「祝福を受けずに初戦闘で心を折られて、ギルドの出す公共奉仕の仕事で口に糊をする生活な者も此処には大勢居ります。」
「祝福を受けずに行くことはしないようにお願いします。これ以上スラムの人間が増えるのは勘弁願いたいので。」
「……忠告、感謝する。」
「話は終わった?次は全柱神殿よね?こっちよ。」
「了解だ。」
「頑張ってくださいませ。」
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「ここが全柱神殿ね」
そこには荘厳かつそれでいて無駄のない建築があった。
「でかいな。」
「そりゃ神々との交信の場でもあるもの。立派に作ってあるわよ。私は表の広場のベンチで待っているから、祝福もらってきたら?」
「すまんな。」
「別に、一日案内って話だし。」
「では、行ってくる。」
「はいはい。」
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「こんにちは。全柱神殿に何の御用でしょうか?」
受付だろうか?シスターが対応してくれる。
「冒険者志望だ。祝福を受けに来た。」
「祝福ですか。担当の者に案内させますので、しばらくお待ちください。」
「了解した。」
シスターの歩くコツコツという音はすぐに吸われ、聞こえなくなる。
待っている間に建物を見渡すと、機能美というのだろうか?無駄がなく、洗練された内装だ。ただ、特定の神を表すようなモチーフは排除され、それがかえって神秘性を増しているような気さえする。
「お待たせしました。担当を呼びましたのでこちらにどうぞ。」
「わかった。」
向かった先に立っていたのは男性の神官であった。
「ふむ、君が今回祝福を受けるのでよろしいかな。」
「ああ、お布施のようなものはあるのか?」
「規定で、20Gいただくことになっている。」
財布から取り出し、神官に渡す際にコインがこすれ、ちゃらりと音がなった。
「これでいいか。」
「ふむ、確かに。それでは案内しよう。こちらだ。」
案内された部屋には中央に何かの陣、天井は半円状でレリーフが刻まれていた。
「陣の中央に立って心安らかに祈りをささげたまえ。さすれば祝福は降りる。」
「わかった。」
カルマは陣の中央に進むと片膝をついた後目をつむり。祈りをささげた。
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祈りを捧げた瞬間、体が宙に浮き、驚いて立ち上がろうとして目を開けると、走馬灯のようなものが周りを流れたと感じた直後、意識は祈りの場に戻っていた。祈りの手は握られたまま、片膝もついたままだ。
カルマの表情には困惑が見える。
「ふむ、その表情であるならば、祝福は降りたのではないかな?」
「今のが、そうなのか?」
「それはわからん。人によって感じ方は様々だ。ただ、今までなかった知識などが思い浮かばないかね?」
「…ああ、これか。なるほどな。」
「おそらくではあるが、祝福のランク、加護の内容、試練の内容等が浮かんでくるのではないかね?」
「…その通りだ。」
「それでは、祝福のランクだけ提示していただきたい。偽称はしても意味がないのでやめたまえ。 信/嘘を見破る祝福を持つものが担当をすることになっている。」
「なるほど、それで祝福の担当というものがあるのか。」
「そういうことだ。」
しばらくの沈黙の後、
「……祝福のランクはExだ。」
神官はスッと表情を一瞬だけ消し、言葉をこぼした
「……了解した。それと、君は冒険者志望であったな。冒険者ギルドへ神殿からの紹介状を発行しよう。冒険者ギルドの受付に渡したまえ」
「紹介状?」
「全柱神殿で祝福を受けたものであることの証明だ。祝福受持者には全員発行している。最低限の身分保障にはなる。」
「ありがたい。身分を立てるものがなくてな。」
「街に出てきた冒険者を志望するものが、神殿で祝福を受ける理由の大半はそれだからな」
言葉を交わしながらも、神官の手元は滑らかに動いている。最後に紹介状は便箋に入れられ、封蝋がなされた。
「これが紹介状だ」
カルマに紹介状が渡される。
「封蝋を開けた場合効力がなくなるから気を付けたまえ」
「了解した」
「さあ、祝福はこれで終わりだ。次のものがいるかもしれないのでね。ここは早めに開けてくれるとありがたいのだが」
「ありがとう。感謝する」
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神殿を出ると、レンがベンチからカルマのそばに寄ってきた。
「無事に祝福は受けられたのかしら?」
「ああ」
「それじゃあ、次はギルドでよかったかしら?」
「それでいいが、宿屋や武具屋の場所はいいのか?」
「宿屋も武具屋も飲食店もギルドカードがあると割引してくれる筈よ。
ダンジョンが近いから、冒険者に対するサービスがいいのよ。」
「そうなのか?」
「その代わり、魔獣の襲撃なんかの有事の際は冒険者が狩りだされるけどね」
「冒険者が頑張って普段から魔獣の数を間引いてくれないと、大規模襲撃になる可能性もあるし」
「それでなくても魔石の民間への供給は、冒険者次第なところがあるし」
「それにしても詳しいな」
「孤児院出たら冒険者やるか娼婦やるかスラムの住人になるかしか生きる選択肢がないのよ」
「娼婦になるのは嫌だし、スラムの住人になるのもいや。それなら、冒険者になるしかないでしょう」
「だからカルマみたいなのの案内をやって、お金を貯めてるの」
「他にも冒険者ギルド併設の飲食店で店の手伝いもやっているわ」
「冒険者やギルド員の話を聞いてれば、これぐらいのことはわからるようになるしね」
「冒険者でお金ためて、学校通って安定した職に就くのが私の目標よ」
カルマは苦笑した。
「しっかりしている」
「生きるためだもの」
しばらく歩いたのち、一つの建物の前でレンが止まった。
「ここがギルドよ、飲食店が受付前ホールを使って併設されているわ。それじゃ入りましょ」
ギルドのドアを開け、受付に向かって歩いていく。周りには冒険者だろうか?ちらほら武装した男たちが見えた。
「こんにちはー、依頼ですか?ってあら、レンちゃん。今日はシフト入ってないはずよね。どうしたの」
「まずこの人にここの説明をお願い」
「おや、レンちゃんにも春が…」
「ひねりつぶすわよバード。案内の依頼を受けただけなんだから、邪推しない。彼氏いない歴=年齢のくせに」
「それを言ったら戦争でしょうが!」
「説明!説明をお願いする!美人の受付さん」
「仕方ないですねー。説明しますよ」
「ここでは、街の皆様から出てきた依頼と、行政からの依頼を冒険者の皆様に斡旋するとともに依頼の過程で手に入れた不用品や魔石の買取などを行っています」
「魔石は魔獣の骨や牙や爪で、マジックアイテムのコアになるでよかったか?」
「ハイ、その理解でおおむね問題ないです」
「魔石の買い取り額は魔石の状態にもよりますが、最もグレードの低いスライムコアで1Gぐらいになります。正確な算出式はいりますか?」
「不要だ」
「了解しました。不用品の買取、と言うのは・・・そうですね。例として、『魔獣の毛皮が欲しいので、毛皮を納品してくれ』と依頼があったら、お肉は不要ですよね?けど、それらに利用価値があるものもありますのでこちらで買取を行っているものもあるんです。ああ、必要素材の剥ぎ取りは有料でこちらも請け負ってますよ。剥ぎ取りが苦手な人もいますから」
「ああ、了解した」
「で、申し訳ないのですが、ギルドに所属するには登録が必要でして」
「登録所でギルドカードはこちらでもらうように言われている」
「あ、先に行って来てたんですね。さすがレンちゃん。お名前、教えていただけますか?」
「カルマだ」
「はい、ちょっと待ってくださいねー」
「お名前は カルマさん。はい、登録情報にありました」
「本人確認のためこの板に手を置いて、ここをのぞき込んでくれますか?」
「こうか?」
「はい、OKです。」
「それと、神殿で紹介状をもらってきたんだが」
「見せていただけますか?」
バードは紹介状の封蝋を慣れた手つきで切り、中身を確認した。
「カルマさん、何点か説明したいことがありますので、個室に来ていただけますか?」
「了解した」
「それではこちらです」
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個室内で小さな机を挟んで向かい合わせのソファーに座ると、バードが切り出した。
「前提として、これからお話しする内容は、 お話しする前に聞いたことを口外しないという魔術契約のギアスを受けてもらうことになっています。 契約違反時の罰則はギルドメンバーからの抹消とギルドカードの剥奪。 それと、国にも報告されます。 どうしますか?聞かないのならばここで席をお立ちください。それでも何も問題はありません。 」
「聞かなかった場合のこちらのメリット、デメリットは?」
「聞いたことによる行動制限がないこと、情報という判断材料を得られないこと、ですかね?」
バードの表情は変わらない。しばらくの沈黙のうち、カルマが答えた。
「聞かせていただこう」
「了解しました。それでは、こちらのギアススクロールに署名と血判をお願いいたします。ペンと針はこちらをお使いください。傷はこちらのガーゼで血をぬぐった後、こちらの軟膏を使えばすぐ治ると思います。」
カルマはするすると署名し、針で親指を傷つけ、血判を押した。
バードはギアススクロールを受け取ると、署名と血判を確認した。
「…確認しました。」
バードが説明を始める。
「まず、このお話をするのは祝福がCランク以上の 15歳~20歳の方 、もしくは祝福ランクがD以下で自力でギルドランクをEまで上げた15歳~20歳の方に限られます。 」
「祝福がCランク以上の方というのは加護自体が強力で、冒険者として大成しやすい。 また、加護がDランク以下でも自力でギルドランクをEにまでなれる方なら実力は十分。 15歳~20歳なのは、ある程度体ができていて、若いということは それだけで成長の余地があるということになります。」
「 そのため、国はそういった若者を集め、教育する学園都市の中に冒険者学園を創立しました。 ギルドはそういった方を見つけたら本人の意思を確認の上、学園への推薦状を発行しています。」
「秘密にしている理由は、主にこの時点で成功する冒険者 の選別がすでに終わっていることを隠すためです。 学園に通わずに到達できるギルドの最高ランクが 基本的にCランクで、 学園を卒業した冒険者に与えられる 最初のランクがDランクの時点でこの差は歴然としています。」
「言葉は悪いですが、冒険者というのは魔石や魔獣素材を供給する生産者であると同時に、 失業者やあぶれ物の受け皿にして棄民でもありますから、見込みが薄い人や見込みはあっても管理下にない人は いなくなってくれたほうが治安や財政に都合がいいんです。」
「街にも冒険者学校があると村で聞いていたが?それは何なんだ?」
「確かに街にも冒険者学校はありますが、あれは、本来の冒険者学園の情報を隠すためのダミーです。 仮にも学校なので、冒険者の基本的なスキルの講習及び実技と、最低限の戦闘訓練はできるようにしてありますけどね。」
「 街の学校は一回の授業ごとに安くないお金を払って技能を学んだり戦闘訓練をしたりするところです。 それに、スキルは初心者、戦闘も初心者の人が対象となっており、スキルを覚えて資格認定うけたらその講習及び実技の参加資格がなくなりますし、 戦闘も3人の教員から1本とれる実力があるとされたら戦闘訓練への参加資格を失います。」
「 まあ、全講習と戦闘訓練をこなせれば、期待のルーキーと呼べるレベルにはなれますよ。なかなかそういう人はいないんですけどね。」
「話がそれました。それで、話の続きですが、学園は全寮制で2年間。食事、授業料はタダです。授業の一環で行うダンジョンアタックで得た魔石や魔獣素材を学園に一定量提出しなければならないだけなんですけどね。」
「1年の終わりで、同学園都市内にある騎士学校への編入というルートもあります。騎士は一代爵位で騎士学校を卒業すると授与されますが、騎士学校に入るためには、親が騎士を超える爵位を持っているか、冒険者学園からの編入かのルートしかありません。あくまで、平時は、ですが。」
「こちらからの話は以上です。あとは、カルマさんの意思次第で、推薦状を発行させていただきます。学園について疑問点があるならお聞きください。私の答えられる範囲で回答いたします。権限以上の事は私も知らないのですが。」
いくつかの質問の後、カルマはしばし目をつむり、顔を天井に向けた。しばらくしてバードと目線を合わせこういった。
「行かせていただく。」
「了解しました。それでは推薦書を発行させていただきます。暫くお待ちくださいね。」
バードは慣れた手つきで書類を便箋に詰め、封蝋を行った。
「お待たせしました。こちらが推薦状になります。封蝋が開いていると無効になりますので注意してくださいね。冒険者学園で受付にお渡しください。」
カルマは推薦状を受け取り。カバンの中にしまった。
「学園への出発は7日後となります。希望するならば、それまではこちら直営の宿屋に無償で泊まることができます。」
「お願いできるか?」
「了解しました。手配しておきますね。宿屋の名前は撫子亭です。場所ならレンちゃんが知っていますので、案内してもらってください。7日後の朝の出発時には、馬車を宿の前に迎えに行かせます。」
「了解した。それにしても、いたせりつくせりだな。」
「それだけCランク以上の加護をもらう人が少ないんですよ。Eランクで10人に一人、Dランクで100人に一人、Cランクで1000人に一人ぐらいの割合ですし。それ以上のランクになると本当に数が少なくなります。支援も国による囲い込みの一環ですし。」
「それでは部屋を出ましょうか。カルマさんのギルドカードもそろそろ出来上がっているはずです。」
「了解した。」
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部屋を出て受付に戻ると、カルマのギルドカードは出来上がっていた
「こちらがカルマさんのギルドカードになります。ご確認ください。」
ギルドカードは金属製のようで、名前とギルドランクF、そして裏側によくわからない文様が刻まれていた。
「ギルド登録名とギルドランクを刻んであります。文様は気にしないでください。いろいろと意味はあるのですが、カルマさん自身には直接影響しないので。」
「……了解した。」
「続きまして、ギルドランクについての説明をしますがよろしいですか。」
「お願いする。」
「それでは、ギルドランクについて説明いたします。ギルドランクはGから始まってF、E、Dと上がっていって、Aランク、そしてSランクとExランクが存在します。」
「ですが、SランクやExランクは名誉称号的な面が強く、実質的なランクの最高位はAランクです。ランクの上昇は、ギルドから出される依頼の達成率、素行、それと、納入した魔石や魔獣素材の量によって総合的に判断され、ランクアップ用の依頼がギルドから発行されて、それを条件を満たしたうえで達成することによって上昇します。」
「俺が最低ランクのGではなくFランクなのは?」
「Gランクは、ギルド登録完了前の仮ランクなので。」
「…そう言うことか。」
「よろしいですか?」
「…ああ、問題ない。」
「では続けます。このランクアップ用の依頼ですが、本人及びそのパーティーメンバーにその依頼の達成まで、それがランクアップ依頼だと提示されません。その時だけ高価なアイテムなどを使うなどして合格しても、後が続かなければ意味がないので。」
「あと、上に行ける実力がある人が安定を求めてランクの上昇を止めようとするのを防ぐ意味合いもあります。人的資源を遊ばせておくほど余裕はないのです。」
「合理的だな。」
「そうですね。受けることのできる依頼はギルドランクと依頼ランクが同じものとランク未設定依頼、それと、指名依頼だけです。」
「これは、高ランクの方が低ランクの依頼を受け無いようにするためです。高ランクの方には高ランクの依頼を受けてもらわないと業務が滞るので。」
「切実なのか?」
「ええ、本当に。最初にこういう説明しておかないと後で文句を言われて困るんですよね。だから、長く生きたければ早いところ冒険者以外に稼ぐ方法を見つけて足ぬけするか、ひたすら貯金して老後まで過ごせるお金を貯めて足ぬけするかをお勧めします。」
「ただ、ギルドランクBランク以上になると、冒険者を引退していたとしても、魔獣の襲撃時に戦力として出ることが義務づけられるので、そうも言っていられなくなりますけどね。」
「説明次項は以上になります。何か質問はありますか?」
「…特に質問はない。」
「説明は終わった?」
レンが声をかけてくる。
「ええ、今終わったわ。レンちゃん、カルマさんを撫子亭まで案内してくれる?」
「わかったわ。じゃあ行きましょうか。」
「…了解だ。少し、休みたい。」
「聞き疲れ?」
「……そのようなものだ。」
「変なの。じゃ、行きましょ。」
***********************************
「ここが撫子亭よ。小さいけど料理がおいしくてベッドも結構いいのを使ってると評判よ。」
「泊ったことがあるのか?」
「孤児院の先輩のお兄ちゃんとその奥さんがやってるの。雇われ店主?とか言ってたわ。」
「お兄ちゃんの料理は孤児院の時からおいしかったし、孤児院出身としては出世頭なのよね。」
「そうなのか。」
「それじゃあ案内はここまでかしらね。本日は町の案内人レンをご利用いただきありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。」
「助かった。ありがとう。」
「フフフ、どういたしまして。また逢う日まで。」
カルマはレンが通りを曲がって見えなくなるまで見送ると、宿屋に向き直った。
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「いらっしゃいませ。本日はお泊りですか?」
若い女性が対応してくれる。この人がレンの言っていたお兄ちゃんの奥さんだろうか?
「冒険者ギルドから連絡が来ていないか?」
「あ、そちらのお客様でしたか。照合しますので、お名前をお願いします。」
「カルマだ。」
「えーと、はい。確認取れました。」
「それでは、部屋は201室になります。鍵はこちらです。」
「宿泊設備についてですが、食堂と浴場は一階です」
「食堂の時間は朝6時~9時、昼11時~14時、夜17時~22時になります。ランチとディナーは一般にも開放しています。」
「浴場は夜19時~23時、男湯女湯が一日毎で入れ替わります」
「何か、当宿で、確認したいことなどありますか?」
「…問題ない」
「では、ご案内します。」
***********************************
部屋に案内された後、気がつけば、薄暗い部屋で、ベッドに背中を預けるように倒れ込んでいた。
きしむ音。
天井の染み。
冷えた空気が肺に入る。
仰向けになったまま、息を整える。
身体は疲れているはずなのに、妙に眠気が来ない。
なんというか、一日でいろいろ環境が変わりすぎて、現実感がない。
それに、大きな流れに流されている感じがする。
その時その時の選択は、自分で行った…はずだ。
だが、餌につられたと言われれば、否定もしきれない。
多分――
祝福のランクが高い冒険者というのは、こうやって国の管理下に置かれていくのだろう。
確かに、魔獣を打倒する個人という武力は、考えてみれば為政者にとっては管理下に置いておきたいものだと推測できる。
自分も最初の話を聞かなければ、街にある冒険者学校で基礎を学びながら、凡百の他の新人冒険者と同じ道に立っていたと思うと、運命の奇妙を感じる。
今日聞いた話を総合すると、加護ランクDランク以下の冒険者は、20歳までにギルドランクがE にならなければそれ以上の栄達は望めないのだ。
加護ランクがC以上でも面倒を嫌って話を聞かなければ、同じ土俵になる。
街の冒険者学校の授業料は安くないというし、戦闘技能にしても上限が決まっている。
一攫千金を狙う輩ほど初期投資を渋るだろうから、死亡率は跳ね上がる気がする。
なるほど、バードの言っていた棄民という表現は、そう考える人がいてもおかしくないのかもしれない。
「飛躍しているな。」
思考が暴走している。推論が止まらない。
こうなってくると、巷に流れる冒険者の英雄譚や冒険譚の見方も変わる。
流行っている物の傾向を考えると、社会的弱者が冒険者になって栄達するストーリーか、最初のダンジョンアタックで運よく魔石を手にいれて大金を手にする物が圧倒的に多い。
これは民衆の娯楽的な好みもあるだろうが、為政者にとっても都合がよい面があるのかもしれない。
一発逆転を求めて冒険者になる人が増え、志半ばで大半がいなくなってくれる。
そういう仕組みになっていてもおかしくない気がする。
生き残るのは優秀な人だし、福祉も最低限で済みそうだ。
「我ながら考えすぎだ。いくら社会や制度が多数の血の上に成り立っているものだといってもな。」
考えても仕方がないことだとはわかっているが、今日一日でだいぶ社会の裏側を知ってしまった気がする。加護ランクが高い人は、皆こんな思いを抱いているのだろうか。
気持ちを切り替えよう。おいしいと評判の食事でもとれば気分もまぎれるだろう。
起き上がって、食堂にでも行こうか。
***********************************
食堂の席に座り、しばらくすると
「ご注文は?」
ウエイトレスが笑顔で尋ねる。
「おすすめはあるか?」
「それでしたら、日替わりパスタとサラダのセットがおすすめですよ。」
「それで頼む」
「注文承りました。しばらくお待ちくださいね。」
「……元気だな」
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「お待たせしました。 日替わりパスタとサラダのセットです。 本日はミルク系なのでバゲット付きです。ご注文は以上ですね?」
「ああ」
「では、ごゆっくり~」
ウエイトレスが別の客の対応に向かった後、 一口パスタを口に入れる。
「おお、これは。」
少し驚いた表情をして呟いた 。
「……食事がこれか。悪くない。」
皿が空になる頃には、考え事は脇に置かれていた。
***********************************
撫子亭の前に一台の馬車が止まっている。
キャリッジを引くタイプの様ではあるが、華美さはなく、サイズは馬一頭で引けるほど小さなものであった。
「カルマ様であってますかねぇ」
御者が尋ねる。
「ああ、そうだが?」
「それじゃあ、乗り込んでくだせえ」
「了解した。」
乗り込むと、馬車が動き出す。席は1人乗りで、窓は大きくはなく、座った際の頭より上の高さにあった。
ガタゴトと馬車は進んでいく。窓から見えるのは空ばかりだ。
「このままいくのか?」
あえてどこまでとは言わなかった。
「あっしが行くのは転移陣までですわ。そっから先は転移陣の向こうの管轄になるんで。」
「そうか。」
「お客さんは乗ったままで大丈夫ですわ。転移陣についたら馬は外しますんでご容赦を。」
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「今から馬外しますんで、ガタゴト言っても気にせんでください」
どうやら転移陣についたようだ。
少しの衝撃の後、カパカパという蹄が鳴る音が遠ざかっていく。
「しばらくしたら転移陣が起動するんで、内側のカーテン閉めたほうがいいっすよ。転移の瞬間の風景は気持ち悪いって聞くんで」
「ありがとう。」
「仕事ですんで。」
御者の気配が離れていく。
カーテンを閉め、しばらく待つと浮遊感を感じ、すぐに収まった。
その後、馬車のドアが外側から開く。
ドアの外を見ると、1人の大人の姿があった。
「ようこそ。学園へ。」
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