こんな世界でも生きる意味をくれた君へ

Koko

第1話 知らない子

この世に神はいない 

これが今の僕の信条だ。

どんな祈りを捧げでも、どこかのサイトにあるまじないを試しても結局何も変わることはないし、人生が報われることもない。

つまり僕は絶望していた。

もういつこの世から消えたっていい。

そう思っていた。


「はい、じゃあ講義始めまーす。」

四月、気づけば僕は大学生になっていた。

なんとも言えないやる気のない空気感のなかこち

らもまた覇気のない教授の声が響いた。


大学なんてそんなもんなのかなと思いながら窓の外をふと見ると桜が舞っているのが見えた。別にあと何回桜を見ることができるんだろうなんてそんな感傷的なことは思わないけど、景色というものは何かを訴えかけてくるものだ。


そんなことを思っているとものすごく熱い視線を感じた。すぐに視線の元を探すとその視線の主は女の子だった。茶髪ロングで、目が大きくて、顔が小さくて、どこか日本人離れしたような。 


これは良くアニメとかであるやつなのだろうか

なんか偶然席とか隣になって話しかけられて仲良くなってみたいな

いやそんなバカな話ほんとにあるわけ

いやまず気まずい。なんでそんな見てくるんだ

まさかなんか顔についてんのか

早く鏡で確認したいんだが

もしかしてあの子僕のこと


「じゃあここまで」

そんなことを考えていると気づけば授業はすっかり終わっていたらしい。

教授の声でハッと我に返った。


みんなのそのそとザワザワと教室を出ていく。

僕も早く出ないと

「ねぇ、君ちょっと」

嫌な予感がした。

僕はみんなの流れに遅れないように後ろから少し小走りで出口へ向かった。

「ねえってば!君だよ!辛気臭さそうな君!」

肩を叩かれた。いや叩かれてしまった。僕は辛気臭いらしい。肩を叩かれてしまったからには振り向かないといけないじゃないか。 


「え、僕ですか?」

一応疑問形で尋ねてみる。やっぱり授業中にこちらをガン見していた女の子だった。

初めてしっかりと顔を見るとやっぱり美人と言われる類に入るであろう顔だった。でも茶色の大きな丸い目を見た瞬間違和感を感じた。

いや、感じたんじゃない確信したのだ。


この子は、もう少しで死んでしまう


分かってしまうのだ昔から。生まれた時からなのか、何かきっかけがあるのかはわからないが人の死期が僕には分かってしまう。この辛気臭さはその性質のせいなのかもしれない。


死期の迫った人間は、目を見ると目の中に薄暗い何かがいる。小さい頃親に聞いてみたが何も見えないと言われたので、きっと僕だけなのだろう。

この性質のせいでどれだけ僕は生きづらいのだろうと考えた日は数えきれないほどある。


「そーだよ。君だよ?え聞いてる?」

でも、どれだけ願ってもこの能力は消えないし、

人は死から逃れられない。


「もしもーし」

皆平等に死は訪れる。どんなに恵まれていたってどんなに惨めな暮らしをしていたって。


「あごめん。聞こえてるよ。なんか用?」

完璧な作り笑顔をして答えた。

悟られないように。

女の子はまじまじと僕の顔を見ていた。少し迷うように視線を迷わせ、意を決したように口を開いた。

「あの、覚えてる?」

正直驚いた。何を言っているんだろう。今あったばかりのはずだ。

「え?」 

「あ、いや、やっぱ人違いかなぁ?」

その子は少し残念そうに、でも分かっていたというように笑った。

「私、ユイ。篠瀬ユイ。あなたの名前も聞いていいかな?」

「あ、うん。僕は尚希。神原尚希だよ。」

僕がそう言うと女の子、ユイは嬉しそうに笑った。

「そっか。尚希かあ。良い名前だね。」

そしてふっとユイは目を伏せて呟くように言った。そしてパッと顔を上げると

「じゃ尚希!これからよろしくね!」

じゃあね〜とユイは元気に走り去っていった。


とても明るくて人懐っこい性格の子だった。

きっとユイはもうすぐ自分が死んでしまうなんてそんなことは夢にも思ってないことだろう。


この能力のようなものと付き合ってもうずいぶん長いが、やっぱり慣れるものではない。


「これからどうすればいいんだよ。」

ポツリと呟いた独り言が教室内を彷徨った。

きっとこのままユイと仲良くしていけば、彼女の死を見届けることになるだろう。それはそれでとても苦しいものだ。

はあ、とため息をつきながら教室を後にした。














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