RIZIN「格闘技小説」

浅野浩二

第1話

RIZIN


2025年の大晦日である。

さいたまスーパーアリーナでRIZIN主催による格闘技の試合が行われた。

始めは、朝倉未来(あさくらみくる)対フロイド・メイウェザーの予定だったが、急遽、メインイベントのカードが変更になった。もっと大物のカードが見つかったのである。

メインイベントは、一般には知られていない、アマチュア小説家の青木航、対、アマチュア小説家の、飼い猫ちゃりりん、となった。

なぜかというと。青木航と飼い猫ちゃりりんの二人は、弱小小説投稿サイトの「作家でごはん」に小説を投稿していたのだが。青木航は「坂東の風」という大長編歴史小説を分割して投稿していた。一方の飼い猫ちゃりりん、は一話完結の小説を投稿していた。青木航の「坂東の風」は分割投稿だったので、わかりにくいと、「作家でごはん」の雑魚どもに嫌われていた。一方の飼い猫ちゃりりんの小説は、同じ小説をちょこちょこと書き換えた小説を何度も何度も投稿していた。しかし二人は、お互いの小説に関して批判することはなかった。

・・・・・・・・・・

しかし2024年から、二人は新型コロナウイルスのワクチンに関して激しく対立するようになったのである。飼い猫ちゃりりん、によると。新型コロナウイルスはビルゲイツによって人工的に作られたウイルスで、その目的は増え過ぎた世界人口を9割削減するためと、ユダヤマフィア(ビルゲイツ財団、ロックフェラー財団、ロスチャイルド財団他、いわゆるDS(ディープステート))が残りの1割の地球上の人間を奴隷・家畜化し、ユダヤマフィアのエリート(700人)が人類を支配するという優生思想のためであり、新型コロナウイルスのために作られたmRNAワクチンは毒である、と主張した。

しかし青木航は、そんなことは一部のSNSで拡散されている子供じみた陰謀論であり、もしそれが本当なら、テレビや新聞が報道するはずだ、バカバカしい、と言って聞かなかった。日本政府がそんな事を認めるわけがなく、もしコロナワクチンが毒ならば、日本の全ての医者は毒を打っているということになる。そんなことはあり得ない、と主張し、コロナワクチンを信じて7回も打っていた。

二人の意見対立は激しくなり、やがてそれは日本中に知れ渡った。

そのため、青木航と飼い猫ちゃりりんは、「それなら2025年の大晦日のRIZINで決着をつけよう」ということになったのである。

「負けた方は今後、二度と相手の意見に誹謗・中傷しない」という条件がつけられた。

RIZINのメインイベントが、無名のアマチュア小説家、二人の対戦では興行が成り立たない、とRIZINの榊原信行CEOは反対していたが、世界の金融資本の半分以上を持つ、ユダヤマフィア(ビルゲイツ財団、ロックフェラー財団、ロスチャイルド財団他、いわゆるDS(ディープステート))が資金を出すと言ったので、この対戦が成り立ったのである。

当然、DS(ディープステート)は大金を出して青木航にボクシングの名トレーナーをつけ、青木航を応援した。青木航も朝のロードワークからパンチングボール、ミット打ち、マススパーリングとボクシングの練習に励んだ。

一方の、飼い猫ちゃりりんも、山谷の涙橋の下にある丹下団平ボクシングジムに通い、ボクシングの練習に励んだ。

やがて時が経ち、2025年の大晦日になった。

RIZINはこんな無名の者二人の対戦では、興行にならないと確信していたが、日本ではコロナワクチンに関しては、ワクチン肯定派とワクチン否定派、がお互い、の意見を主張し、対立していたので、この対戦に興味を示して、チケットは完売された。

前座試合では、朝倉未来(あさくらみくる)対フロイド・メイウェザーのエキシビションマッチが行われた。朝倉未来は、やんちゃ上がりの総合格闘技の選手で、一方のフロイド・メイウェザーは引退したとはいえ、元WBCの五階級を制覇した、50戦して一度も負けを知らない天才ボクサーなので、はなしにならず、朝倉未来は2ラウンドでTKO負けした。

「つまんねーぞ」

と会場から激しいブーイングが起こった。

さて、いよいよメインイベントの、飼い猫ちゃりりん、と、青木航の試合になった。

わーわーと会場は盛り上がった。

やがて時間となり、飼い猫ちゃりりん、と、青木航の二人が登場した。

「青木航がんばれー」

と応援したのは、DS、日本政府、日本医師会、製薬会社、など日本人の9割りを越すワクチン肯定派だった。

一方、飼い猫ちゃりりん、を応援したのは、京都大学医学部名誉教授・福島雅典、名古屋大学医学部名誉教授・小島勢二、東京理科大学名誉教授・村上康文、など一般社団法人ワクチン問題研究会の人たち、と新型コロナワクチン後遺症患者の会、新型コロナワクチン遺族会の人たち、参政党、れいわ新撰組の支持者など、ワクチンを否定する少数派だった。

飼い猫ちゃりりん、と、青木航の二人がリングに立つと、

「青木航。がんばれー」

「飼い猫ちゃりりん。がんばれー」

の大声援が会場内に轟いた。

リングアナウンサーが両選手を紹介した。

「青コーナー。134ポンド。青木航」

というアナウンスが流れると会場は、わーと沸き立った。

「赤コーナー。132ポンド。飼い猫ちゃりりん」

というアナウンスには、「飼い猫ちゃりりんさん、頑張って下さい」というワクチン否定派の人たちの声援が起こった。

実況中継は古舘伊知郎で、解説者は元THE OUTSIDERプロデューサーの前田日明だった。

リングドクターは時々「作家でごはん」に小説を投稿している浅野浩二氏がつとめることとなり、真剣な眼差しで二人を見つめていた。

「それでは試合前に花束贈呈を行います」

とリングアナウンサーが言った。

サングラスに和装という姿の、ごぼうの党の奥野卓志がリングに上がった。

奥野卓志は花束を持って青木航に近づいた。

青木航が嬉しそうに花束を受けとろうと手を差し出すと、奥野卓志は無造作にポイと花束を投げ捨てた。

「おおー」

という驚きの声が会場に轟いた。

「恥を知れ」

「日本人の恥」

「うせろ」

会場から激しい罵倒が起こった。

「こんなことは前代未聞です。一体どういうことなんでしょう?」

という古舘伊知郎の質問に前田日明は、

「さあ。全くわかりません。奥野卓志さんは青木航くんを嫌っているのかもしれませんね。しかし、どんな理由があるにせよ、こんな事はするべきではありません」

とキッパリと言った。

青木航は花束を拾い、リングサイドのセコンドに渡した。

「両者。リングの中央へ」

レフェリーに言われて、青木航と飼い猫ちゃりりんは、リングの中央に歩み寄った。

「青木。あんたはメディアに洗脳されているよ。目を覚まさせてやる」

と飼い猫ちゃりりんが言うと、

「お前の荒唐無稽な陰謀論こそ叩き潰してやるぜ」

と青木航は言い返した。

二人はにらみ合った。

「グローブはしっかり握って打つように。サミング、ローブロー、ラビットパンチ、キドニーパンチ、バッティング、には、くれぐれも気をつけて。故意とみなしたら減点します。フェアープレーの健闘を祈る」

レフェリーが、ありきたりの試合前の注意をした。

青木航のセコンドには具志堅用高がついた。

一方、飼い猫ちゃりりんのセコンドには、ラピスがついた。

カーン。

試合開始のゴングが鳴った。

「ファイト」

レフェリーが言った。

飼い猫ちゃりりんと青木航の二人は、クラウチングスタイルのファイティングポーズをとって、接近した。

飼い猫ちゃりりんはサウスポーに構え、右ジャブの後で左ボディストレート、さらに右ジャブを放った。

青木航は飼い猫ちゃりりんのパンチを察知しバックステップで距離をあけた。

飼い猫ちゃりりんは左ボディストレートを当て、右ジャブから左ストレートを打ち出した。

青木航はガードを高くして向かい、飼い猫ちゃりりんは左ストレートから右フックへと繋げた。

これをガードした青木航はボディブローを返した。青木航はジャブからボディストレート、右ストレートとパンチを放った。

カーン。

1ラウンドを終了するゴングが鳴った。

レフェリーが、青木航の攻撃を、「ストップ」と言って、やめさせた。

二人は、それぞれのコーナーに戻った。

といっても青木航は、ピンピンしているが、飼い猫ちゃりりんはフラフラである。

飼い猫ちゃりりんのセコンドの、ラピスは、飼い猫ちゃりりんのマウスピースを外し、うがいをさせた。

飼い猫ちゃりりんの口の中は、かなり切れていた。

「よく、1ラウンド頑張ったな」

ラピスが哲也の勇気を讃えた。

(私はワクチン後遺症で苦しんでいる人達のためにも絶対に負けられない)

(これ以上、日本をアメリカとディープステートどもの奴隷国家にしてはいけない)

口にこそ出さね、飼い猫ちゃりりんの闘志は少しも落ちていなかった。

カーン。

第2ラウンドのゴングが鳴った。

両者はクラウチングスタイルのファイティングポーズをとって接近した。

青木航はプレッシャーを増し飼い猫ちゃりりんに歩を進めた。モーションのない右ストレートが飼い猫ちゃりりんの顔面にヒットした。

飼い猫ちゃりりんは左フックを連続で放つが、青木航はヘッドワークとブロックで当てさせない。青木航は再びノーモーションストレートを見せ、それはヒットした。

青木航は続いてボディにストレートを当て、飼い猫ちゃりりんのジャブは目先でかわしていった。そして右ストレートを再び飼い猫ちゃりりんに当てた。

しかし飼い猫ちゃりりんは左ストレート、右フックと当て、左ストレートで青木航に迫った。被弾があった青木航は笑みを見せ少し下がったが、そこから体を入れ替え逆に飼い猫ちゃりりんをロープを背負わせた。

そこから青木航はまたストレートを当て、右を伸ばしてきた飼い猫ちゃりりんにカウンターの右ストレートを当てた。

飼い猫ちゃりりんがダウンした。

「ニュートラルコーナーへ」

レフェリーに言われて青木航はニュートラルコーナーへ行った。

レフェリーは、倒れている、飼い猫ちゃりりんの、カウントを数えだした。

「1・2・3・4・5・6・・・・・・」

6で何とか飼い猫ちゃりりんは立ち上がったが、視線が定まっておらず、レフェリーがここで試合をストップした。

レフェリーは青木航の手を高々と上げた。

「ふふふ。飼い猫よ。約束だぞ。これでもう荒唐無稽なことは言うなよ」

青木航が勝ち誇って飼い猫に言った。

会場にいたディープステートたちは「しめしめ。これでまた日本人をmRNAで儲けることが出来る」とほくそ笑んだ。

(く、くやしい。これで緊急事態条項が通ってしまう)

飼い猫は涙を流した。

その時である。

青木航がパタリと倒れた。

リングドクターの浅野浩二が急いでリングに上がった。

そして青木航を診察した。

「心臓の辺りが熱い。40度以上もある。血圧も70を切っている。こんなことは初めて見ることだ。救急患者を受け入れてくれる近くの病院は?」

エッシ、エッシと心臓マッサージをしながら浅野浩二が言った。

「東京医科歯科大学の医学部のICUが受け入れてくれるそうです」

すぐに救急車がやって来て、青木航は救急車に乗せられて、東京医科歯科大学に運ばれた。

福島雅典医師はじめ、ワクチン問題研究会の人たちも車で東京医科歯科大学に向かった。

しかし救急車が東京医科歯科大学のICUに着いた時には、もう青木航の対光反射、脈拍、呼吸は無く死亡が確認された。

青木航の死体はすぐに東京医科歯科大学の病理学教室に運ばれ病理解剖が行われた。

人は死ぬと2時間後から死後硬直が起こり始め、体温は急速に下がっていくはずなのに、心臓が40度と高温で、しかも解けてフニャフニャだった。

血中の遊離スパイクタンパク質は33.9pg/mLと有意に高濃度だった。

死亡診断書の原死因は「コロナワクチン接種による心筋炎」と書かれた。

これによって、日本の医学界でも、日本政府も「ワクチン後遺症」「ワクチン死」を認めざるをえなくなった。

こうして日本でもようやくmRNAワクチンの接種が禁止され、ワクチン後遺症に苦しむ人達に対する上限無制限の治療費を支払うこと、ワクチン遺族会の人たちに対する高額の慰謝料が支払うことが法律で決められた。

・・・・・・・・・・・・・

青木航の葬式は築地本願寺で盛大に行われた。

友人代表として「作家でごはん」で青木航をおちょくっていた麻生凪が弔辞を読んだ。

「青木航くんよ」と呼びかけたまま麻生凪は慟哭し、しばらくの間読みつげなかった。

青木航君よ

君が自ら選み自ら決したる死について我等何をか云はんや

たゞ我等は君が死面に平和なる微光の漂へるを見てはなはだ安心したり

友よ安らかに眠れ

君が書きし坂東の風秀なれば後世に残るに違いなく

我等また微力を致して君が眠りのいやが上に安らかならんことに努むべし

たゞ悲しきは君去りて我等が身辺とみに蕭篠たるを如何せん

麻生凪は大泣きに泣きながら弔辞を読んだ。

それは、葬式に来ていた弔問客400人の涙を呼び、満場すすり泣きの声に満ちた。

飼い猫ちゃりりんは、あんまりムキになってケンカせず、もっと穏やかに話し合うべきだったと反省し涙した。



2025年12月25日(木)擱筆

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RIZIN「格闘技小説」 浅野浩二 @daitou8

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