第一依頼 楽しい遊園地 4話
レストランは想像より小さく古い建物だった。青と黄のストライプの壁紙は塗り直されていないのか所々剥がれている。近くには白く塗られた木製の看板があり、大きく『楽しいレストラン』と書かれていた。
そんな建物から少し離れた茂みの中。隠れるように陸達は身を屈めていた。
「ひとまず客を装って中に入りましたが、着ぐるみは1体しかいませんでしたね」
フェリの言葉を受け、中に入った時のことを思い出す。
古い外装とは打って変わり、レストラン内は綺麗な状態だった。木製のテーブルと椅子や、花を模したランプや飾りなど、森の中のような落ち着いた雰囲気だ。
入り口から真っ直ぐ進んだところにはカウンターがあり、そこに店員らしきウサギの着ぐるみが1体立っていた。入り口のクマとは色合いが違うが同じ格好である。また、カウンターから奥を覗くと左右に扉があるのが見えた。
観察して分かったことはこれだけだったが、得た情報はまだある。
「だな。ただ、着ぐるみ達は1体が得た情報を全体で共有するみたいだし、変なことはできねぇな」
「ええ。僕の破壊行為が伝わっていましたからね。気を付けなければ」
レストランの中に入った時、着ぐるみに「先程は大丈夫でしたか?」と質問をされたのだ。詳しく聞くと、着ぐるみ達には特殊な力があるらしい。その力のせいで、フェリの件は全ての着ぐるみに伝わってしまっているようだ。
「う〜ん、どうやって調べるか……。ウサギの着ぐるみが邪魔なんだよな」
「そうですね……暴力での排除は直ぐに他の着ぐるみにバレますし……そうだ!片方が着ぐるみを外に連れ出し、その間にもう片方が中を調べるというのはどうでしょう?」
「……危ないけどそれしかないか。後はどうやって連れ出すかだな」
「ああ、連れ出す役は僕に任せてください。陸さんは探索をお願いします」
「お、おう。分かった。オレが探索側……だな」
陸は改めてフェリを見た。ペアの相手がフェリと聞いて最初は怯えていたが、今は安心感の方が大きい。
(フェリさんって頼りになるな。怖がっていて申し訳なかったかも……)
そう思い、謝ろうとしたが……
「おや、どうしました?この作戦は不満でしたか?」
「い、いやいや全然!この作戦で行こうぜ!」
(ごめんフェリさん。やっぱりまだちょっと怖いです)
表情の読めないフェリに怯え、誤魔化すことしかできないのだった。
挙動不審な陸をフェリは不思議そうに見てから立ち上がる。そして、茂みから出て陸に告げた。
「探索が終わればまたここで合流しましょう。危ないと思ったら無理せず引き返してください」
「了解。あの、フェリさんも気を付けてな」
「ありがとうございます。では行って来ますね」
そう言ってフェリはレストランへ向かって行く。陸はそのまま身を隠し、もしものためにスマホをマナーモードにする。
数分後、フェリがウサギの着ぐるみと出てきた。何か会話をしているようだ。「道案内ありがとうございます」という声が聞こえる。声は段々と遠ざかり、聞こえなくなっていった。
完全に気配を感じなくなってから陸は立ち上がる。そしてレストランへ向かって走り、音を立てないように入口の扉を開けた。
♢♢♢
着ぐるみがいなくなったことにより、レストランの中はガランとしていた。真っ直ぐにカウンターへ近付いて行く。
卓上にあるレジは埃を被っており、今は使わっていないようだ。着ぐるみが立っていた辺りを特に何も見つからない。他に気になるのは……やはり左右にある部屋だろう。考える時間も惜しいと、まずは左の部屋へ急ぐ。
他の着ぐるみがいる可能性も考え、慎重に扉を開けた。どうやら誰もいないようだ、中に入り安堵の息を吐く。
(……いや、まだ気を抜くな!)
集中して部屋を見渡す。野菜や果物の入った箱。米が入っていそうな麻袋……間違いない、ここは食材の保管室だ。野菜一つをとっても新鮮で、どれも美味しそうに見える。
ひとまず棚や袋を漁ったが、変わった物はない。他にどこを調べようかと悩んでいると床が気になった。
ただの木目調の古い床。しかし何か違和感を覚える。……よく見ると床の端が一部、少し持ち上がっているようだ。
近付いて板に手をかける。すると、床の一部か持ち上がり、ギィという軋み音とともに地下に続く梯子が出てきた。
(隠し部屋?隠し通路?何で遊園地にこんなものがあるんだよ)
ここが普通の遊園地でないことを改めて実感する。陸は梯子に手をかけ、下りようとして動きを止めた。もう片方の部屋を先に調査するべきか悩んだのだ。梯子の下は暗く、先が見えない。またこの部屋に戻れるとは限らないのだ。
先に向こうの部屋を……そう考えている陸を急かすように足音が聞こえてきた。脳裏に浮かぶのはあの着ぐるみ。もう戻って来たのだろうか?いや、もう片方の部屋にいた?焦っている間にも足音は段々とこちらに近付いて来る。悩んでいる暇はない。隠し通路の中へ入り、床を戻す。
その直後、保管室の扉が開いた。立っていたのはネコの着ぐるみだ。
「……」
中には誰もいない。着ぐるみは首を傾げると、隠し部屋に気付かず部屋を出て行くのだった。
♢♢♢
「思ったより深かったな。ここは……」
梯子を降りた先は巨大な地下水路のような場所だった。陸が立っている場所には細い道がある。ひとまず濡れる心配はないだろう。
(レストラン……というか遊園地の下にこんな空間があるのはおかしいよな。まあ、進むしかないか)
少し薄暗いが懐中電灯は使わなくても歩けそうだ。キョロキョロとよそ見をしながら道沿いに歩く。……それがよくなかったのだろう。真正面か飛んでくる何かに陸は気付けなかった。
「痛っ!え、何!?」
自分に当たった物を見ると小石だった。何でこんな物が?と投げられた方向に目を凝らす。そこには少女が立っていた。
小学生くらいの大人しい印象を受ける子供で、人形のように整った顔立ちをしている。
依頼者の子供ではないが、生存者に会えたのは嬉しい。陸は屈みつつ、怖がらせないように気を付けながら少女に話しかける。
「よっ!オレは八崎陸っていうんだ。お前の名前は?」
「……バタークッキー」
「バタ……え、名前?」
「いえ好きなお菓子です。知らない人に個人情報は教えません、常識です。わたしのことはバタークッキーと呼んでください」
「お、おう……しっかりしてるな。オレはがっつり個人情報教えちゃったよ」
「当然です。わたしは優等生であり、精神的にはもう大人なのです。えっへん」
全然大人しい子ではなかった。よく見たら、いつでも投げれるように小石を沢山持っている。子供の力で投げた物でも当たったら痛い。陸は両手を上げ、降参のポーズを取りながら立ち上がる。
「聞いてくれバタークッキー。オレは怪しいお兄さんじゃないぜ。行方不明の小学生を助けに来た系お兄さんだ」
「え〜本当ですか?」
ジトーっと疑いの目を陸に向ける少女……もといバタークッキー。警戒心がとても強いようだ。
この状況で信用してもらえる方法はないか、陸は一生懸命頭をひねる。
「えっと、お前は田中真ちゃんの友達であってる?」
「……何でその名前を知っているのですか?やっぱり着ぐるみの仲間ですか?」
「違う違う!オレは探偵助手なんだよ。その子の母親から依頼があって、行方不明になった4人を助けに来たんだ。お前がその内の1人だろ?」
「……ええ、そうですね。まあ、彼女達は友達ではなくただのクラスメイトですが」
「なら一緒に出ようぜ!」
陸はそう言って笑い、手を差し出す。その裏表を感じさせない笑みに、バタークッキーは悩んでいるようだ。もう最初程の警戒はなく、むしろ希望のこもった瞳で陸を見ている。
「陸の言うことを信じてもいいですよ」
「マジ?ありが──」
「ただし!」
バタークッキーの大きい声が地下水路中に響く。彼女は陸から目を離さず、試すようにこう言った。
「条件があります。わたしに陸が味方である証拠を見せてください」
「は!?」
そんな物がある訳ない、無茶振りだ。しかし、悩んでいる間にもバタークッキーは小石を握りしめている。早く何かしないと投げてくるだろう。個人情報を教えないという常識があるのならば、人に石を投げないという常識も身に付けてほしい。
「え〜証拠……」
ゴソゴソと服を漁る。すると、上着のポケットに何かが入っていることに気付いた。それはクッキーの入った袋だ。紫色のリボンで可愛くラッピングされている。
(確かこれフェリさんがくれた……)
「!それ!それ証拠になりますよ!くれたらバタークッキーが仲間になります!」
バタークッキーは手に持っていた小石を投げ捨て、一瞬で寄って来た。陸はその勢いに驚きながらもクッキーが入った袋を渡す。
キラキラとした目でリボンを解くバタークッキーに陸は少し呆れる。
「知らない人から食べ物を貰ったら駄目なんじゃねぇの〜?常識的に」
「何を言っているのです?貴方は陸。小学生を助けに来た系の優しいお兄さん。知らない人ではありませんよ」
そんな言い訳をしながらクッキーを頬張っている。将来が心配になってくる姿だ。だが、今はこの単純さに救われた。陸は心の中でフェリに感謝をする。
お腹が空いていたのか、バタークッキーは直ぐに食べ終わり、「ご馳走様でした」と手を合わせた。
「ありがとうございます。冗談ではなく、本気で陸の事を信用しました。わたしで力になれることがあれば何でも言ってください」
「クッキー食べただけで懐き過ぎじゃね?そんなに美味しかったのか……」
「確かにあのクッキーは美味しかったです。後で売っているお店を教えてもらいますが、それはそれ。陸の人となりを試させてもらいました。もしあなたが悪い人なら、わたしを盾にするかもしれないでしょう?なら1人で脱出した方がいいですから」
バタークッキーは陸の手を掴む。信頼を伝えるように、しっかりと。
「ですが、陸は生意気な小学生を無視せず、ちゃんと相手をしてくれて……ふふ、いいお兄さんですね」
「そうか?この状況で無視する奴はいないだろ……でも信用してくれてありがとな。一緒に協力してここから出ようぜ!」
頷くバタークッキー。こうして2人は脱出の為に歩き出したのだった。
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