第3話

父は弟の花を咲かせた。

鉄の匂いと花の匂いが混ざる。


父が出ていったあと、

母は玄関に立ったまましばらく動かなかった。

床と同じ色をして、影のようになっていた。


その晩、彼女が久しぶりに私を呼んだ。


床に座り込み、

顔を私の首に埋めて、

しばらく動かなかった。


懐かしい匂いと、

その奥に、別の匂いが混ざっていた。


酸っぱくて、鼻に残る匂い。

私の好きではない匂い。


私が棚の上に逃げ帰ると、

彼女はぐるぐると小さな鳴き声を出した。


次の日からこの家の匂いは分かれなくなった。

朝も昼も夜も、台所も居間も廊下も、

違いがなくなった。


人ではない、獣の匂いだけになった。

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