第1話 卵

「らぶちゃんが産んだんや。オムレツにでもして食うたらええ」


朝っぱらから突然やってきたかと思えば、新島は善意に満ちた満面の笑みで、箱に入った大きな深い緑の卵をローテーブルに乗せた。



わたしは思わず顔をしかめる。


「わたしに、これを食べろと……?」


「まぁ、見た目はアレやけど、俺も食べたことあるし。味は全然普通やで」


高校からの友人である新島は、現在田舎でエミューのらぶちゃんと暮らしている。

エミューというのは、ダチョウに似た大きな鳥だ。

これはその卵であるという。


新島は昔から鳥が好きで、苗字の「新島」の字面が「親鳥」に似ていることを何故か誇りにしていた。


進路選択の時に、『全生物の親鳥でありたい』という謎のテーマを自らの人生に掲げ、そのまま十年、独自の人生を生きている。


ちなみに、わたしに「ハシビロコウ」というあだ名をつけたのもこの男だ。

名前が“橋広 コウ”であるが故である。


お陰で高校時代は何かある度に、ハシビロコウグッズを貰うことになった。

いや、今はそんなことはどうでもいい。


「割ったらヒナが出てくるとかない?」


卵はスーパーで買ったものしか食べたことがない。

都会生まれ都会育ちのわたしにとっては、個人がとった卵を食べるというのは不安が大きい。


「大丈夫、大丈夫。俺んとこ、女の子1羽だけやから無精卵や」

新島は右手をひらひらと左右に振って笑って言った。


「ちなみに、めっちゃ硬いから金槌かなんかで割ってな。俺の動画にも『エミューの卵食べてみた』ってのあるから観たらえぇわ。ほな!」


そう言いおいて、新島は去っていった。

相変わらずせわしない男だ。


現在“エミューと暮らす系配信者”をしている新島は、昼からライブ配信をするとかで忙しいらしい。


そんな日にもかかわらず、わざわざ片道2時間弱かけ、これを持ってきてくれたのだ。

変わったやつだが、なかなかの得がたい友人ではある。


早速新島の動画を再生してみる。


なるほど。

スイカ割りのごとく、金槌を振りかざしてかち割るというわけではなく、コンコンと少し力を入れて衝撃を与えながら割るようだ。


要領はわかった。

昼のご飯に頂くことにしよう。

そう決めて、一旦自分の仕事に戻った。


こうして、エミューの卵はやがてわたしの食卓に巨大オムレツとして登場するはずであった……が。





それから数時間後。

その卵は、金槌を手にしたわたしの目の前で、自ら割れつつあった。

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