声の巣
よねり
声の巣
——声は、集まる前よりも、集まったあとで、軽くなる。——
SNS――というものを、私はときどき「声の巣」と呼ぶ。 呼ぶといっても、誰かに向かってそう言うわけではない。自分の頭の中で、そう名づけておくだけだ。名づけておけば、少し距離が取れる気がするからである。
暗い夜、机に向かい、硝子の小さな窓を覗く。そこでは無数の声が鳴いている。鳴いているというより、擦れている、と言った方が近いかもしれない。短く切られ、尖らされ、すぐに誰かの耳に引っかかる形をした声たちだ。
私は、それらに混じって鳴くつもりはない――少なくとも、そう思っていた。 覗いているだけだ。観察しているだけだ。巣の外から、その構造を眺めているだけだ。
声は集まると、奇妙な性質を持ち始める。 一つひとつは取るに足らないのに、集まると、重さを持つ。いや、正確には、重さを持っているように見える。実際には、軽い。あまりにも軽いから、簡単に増えるし、簡単に飛ぶ。
巣の中では、声が声を呼ぶ。 善意が善意を呼び、怒りが怒りを呼び、哀悼が哀悼を呼ぶ。呼び合ううちに、誰が最初に鳴いたのかは、すぐにわからなくなる。 それでも皆、安心するのだ。自分の声が、どこかに繋がったような気がするから。
私は、その様子を、少し冷えた目で見ている自分を信用していた。 私は、まだ「本当の声」を失っていない。 私は、必要なら、硝子を伏せることができる。 そう信じていた。
巣の中で交わされる声は、よく似ている。 言い回しが似ているのではない。呼吸が似ているのだ。 急ぎ、間を置かず、すぐ次へ渡す。そこに、ためらいはない。ためらいは、表示されにくいからだ。
私は、ためらうことができると思っていた。 書く前に、ほんの一瞬、指を止めることができる。 その一瞬こそが、自分の場所だと、思っていた。
声の巣は、親切だ。 黙っていると、硝子がこちらを突く。 「何か言わないのか」 「そこにいるのか」 そう言われているような気がする。
いる、と答えなくても、私はここにいる。 だが、答えない「いる」は、巣の中では存在として数えられないらしい。 数えられない存在は、すぐに忘れられる。 忘れられること自体は、悪いことではない――はずだった。
私は、時々、思う。 声の巣に集まっているのは、本当に声なのだろうか。 それは、誰かの喉を震わせたものだろうか。 それとも、最初から、形だけをした何かなのだろうか。
答えは出ない。 だが、答えが出ないまま、私は今夜も、硝子の前に座っている。
硝子は薄く光り、巣は静かにざわめく。 私はまだ、筆を折っていない。 まだ、声の外に立っているつもりでいる。
――この時点では。
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