夏の浜辺で愛を叫ぶ
夏の日差しが照り付ける中、私、
遠くから、人の騒ぐ声が聞こえる。見ると、私服の男子高校生らしき人達が楽しそうに話しながら浜辺を歩いていた。
その中に見知った顔を見つけて、私は目を見開く。そして、相手も私に気付いたらしく、友人らしい男子に何か言った後こちらに駆けて来た。
「広瀬さん! 久しぶりだね!」
そう言ってニコッと笑う男の子。私は、微笑んで挨拶を返す。
「久しぶり、
私は、改めて麻宮君を見つめる。白いパーカーと青いジーンズ。ありふれた服装だけど、麻宮君が着るととてもカッコよく見える。
麻宮
「……中学を卒業してから約一年半か。なんだか、広瀬さん大人っぽくなったね」
「……ありがとう、麻宮君」
私は、多分真っ赤になっているだろう顔を隠すようにしてそう言った。
それから、私と麻宮君は二人で浜辺を散歩する事になった。麻宮君は、夏休みを利用して友人と旅行がてら帰省しているらしい。友人を放っておいて私と二人でいていいんだろうか。
「広瀬さん、こっちの高校を卒業したら実家の旅館で仕事をして、いずれは継ぐんでしょう? 将来のビジョンがはっきりしていて凄いね」
私は、首を横に振って答える。
「ううん。麻宮君だって凄いよ。東京の進学校に通っていて、勉強を頑張ってるんだから」
そう。賢くて真面目で優しい麻宮君。そんな麻宮君に、私は恋をした。
実は、私は中学を卒業する時、麻宮君に告白しようとしていた。でも、卒業式が終わった後中学校の裏庭に行った私が見たのは、麻宮君が女の子に告白される場面だった。
「麻宮君、ずっと好きでした!」
そんな風に言う女の子に、麻宮君は笑顔で何かを告げようとする。その答えが聞きたくなくて、私は二人に気付かれない内に裏庭を走り去った。
麻宮君に告白していた女子は、確か隣のクラスの
私は、麻宮君に告白できないまま、上京する麻宮君を見送った。
そんな事を思い出していると、不意に麻宮君が聞いてくる。
「そう言えばさ、広瀬さん。高校でもアレ、やってるの?」
「アレ?」
私が首を傾げると、麻宮君は笑顔で答えた。
「ほら、広瀬さん、毎朝教室の花瓶の水を取り替えてたじゃん。俺、部活で学校に早く来た時、よく広瀬さんの姿を見かけてたんだよね。誰にも褒めてもらえないのに偉いなって思ってた」
私は、胸が熱くなる思いがした。麻宮君が、そんな所まで見てくれてたなんて……。
麻宮君は、自分の腕時計を見て言った。
「あ、俺、そろそろ戻らないと。友達もホテルで待ってるし。……じゃあね、広瀬さん。そうだ、アプリのIDを交換しようよ」
麻宮君と一緒にスマホを操作しながら、私は考えていた。
本当に、このまま麻宮君と別れて良いの? 麻宮君に想いを伝えなくて良いの? 優しい麻宮君。私の良い所を見てくれていた麻宮君。そんな麻宮君が、私は大好きだ。
――私は、後悔したくない!
「麻宮君!!」
いきなり大きな声を出した私を、麻宮君は目を丸くして見つめる。私は、バクバクする心臓を抑えるように胸に手を当てて言った。
「わ、私……麻宮君の事が、好きなの!!」
辺りが静まり返る。波の音だけが私の耳に響いていた。しばらくの沈黙の後、麻宮君は口元を手で覆って呟く。
「……参ったな」
私の顔から血の気が引いた。私に告白されたのが、そんなに迷惑だったのだろうか。
でも、麻宮君は顔を真っ赤にして言葉を続けた。
「好きな女の子に告白されてこんなに舞い上がるなんて、思ってなかったよ」
私は、麻宮君の言葉の意味を理解して、頭がパンクしそうだった。
「え? え? それって……」
麻宮君は、フワリと笑って言った。
「うん……俺も、広瀬さんの事が好きだよ」
「嘘……麻宮君は、大江さんの事が好きなんだとばかり……」
「大江さん?……ああ、確かに告白された事はあるけど、断ったんだよね。広瀬さんの事が好きだったから」
「ええっ!……でも、私は成績も平均くらいで、特技も無くて、麻宮君に釣り合うような女の子じゃなくて……」
麻宮君は、首を横に振って言った。
「俺の方こそ、広瀬さんに釣り合わないよ。俺は将来の選択肢が広がるから勉強しているだけで、将来何をしたいとか全然無くてさ。旅館を継ぐ為にしっかり手伝いをしている広瀬さんが眩しかった。だから、広瀬さんに想いを伝えないまま卒業したんだけど……まさか、広瀬さんに告白してもらえるなんて」
そして、麻宮君は私の方に手を差し出すと、穏やかな笑顔で言った。
「改めて言うよ。……広瀬さん、好きです。俺と付き合って下さい」
私は、嬉し過ぎて震える手で麻宮君の手を握る。そして、涙ぐみながら答えた。
「……はい! よろしくお願いします!」
先程まではギラギラと容赦なく照り付けていた日差しが、心なしか柔らかくなった気がした。
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季節外れの詩(うた) ミクラ レイコ @mikurareiko
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