第5章「未練の影と絆の深まり」
放課後、未来は大学を出て陸橋を歩いていた。
悠斗の気配がすぐ横にある。周囲の学生には見えない、二人だけの世界。
夕陽が線路に反射し、赤く染まった街並みが静かに広がる。
「未来、少し歩こうか」
悠斗の声はいつもより静かで、少し沈んでいる。
未来は顔を上げ、心配そうに尋ねる。
「どうしたの、悠斗?」
悠斗は一瞬言葉を探すように黙り、やがて口を開く。
「時々、事故の日のことを思い出してしまうんだ」
未来は胸が締め付けられるような感覚を覚える。
――やっぱり、完全に消えたわけじゃないんだ。
「悠斗…無理に隠さなくていいよ」
未来は優しく、でも力強く言った。悠斗は少し驚いたように未来を見つめる。
「君に心配かけたくないだけなんだ。でも…話すと少し楽になる気がする」
二人は陸橋の端に立ち、下を通る車や電車の音に耳を澄ませる。夕陽の光が悠斗の顔に差し込み、淡く影を落とす。
悠斗は小さく息をつき、言葉を選ぶように続けた。
「事故のあの日、僕はただ通学していただけだった。急に車が現れて、避けられなかった」
未来は静かにうなずく。胸の奥で痛みが走る。
「でも、幽霊になった後も、普通に笑ったりして…不思議だね」未来が小さく笑う。
悠斗は少し微笑むが、その瞳にはまだ影が残る。
「笑顔は自分を守るためのもの。未来に心配をかけたくないから」
未来はそっと手を伸ばし、言葉を添える。
「悠斗、あなたがここにいる意味は大きいよ。私にとって、すごく大切な存在なんだから」
悠斗は心でその言葉を受け取り、少しずつ重く沈んでいた心が軽くなるのを感じた。
「ありがとう、未来…君がいてくれて本当に良かった」
その夜、未来は家で夕食の準備をしていた。悠斗も隣にいる。
「今日はパスタにしようか」
「いいね、僕も手伝う」
未来は鍋をかき混ぜながら、心の中で思う。
――幽霊でも、悠斗と一緒にいると、普通の生活みたいだ。
「ねえ、悠斗」未来がふと声をかける。
「うん?」
「私、これからもずっと一緒にいられるよね」
悠斗は微笑み、穏やかな声で答える。
「もちろん。未来がそばにいてくれるなら、どんな時でも大丈夫だ」
夕食後、未来は勉強を始める。悠斗はそっと横で存在を感じさせる。
「ここ、ちょっと間違ってるよ」
「ありがとう、幽霊なのに助かる」
未来は笑い、二人の間に流れる小さな日常の時間を噛みしめる。
些細な出来事が、悠斗の心の重みを少しずつ軽くし、未来の自信と安心を育てていた。
夜、未来は布団に入り、そっとつぶやく。
「悠斗、これからも一緒だよね」
悠斗の気配が優しく未来を包む。
「もちろんだよ、未来」
その夜も、夢の中で二人は陸橋を歩き、話し、笑い合う。
悠斗の過去や事故の影は残るものの、未来の支えと二人の絆によって、暗い影は少しずつ薄れていった。
非日常の中の生活は、未来にとって安心と喜びをもたらす、かけがえのない日常になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます