第4話:山伏慶太、一発逆転の超ロングパス

### 第4話:山伏慶太、一発逆転の超ロングパス


夕日に消えていく鬼島先生の背中を見送りながら、慶太の脳細胞はかつてないスピードでフル回転(オーバーヒート)していた。


「500円……おれの全財産(精神的な意味で)を持っていった。おれの運命を、あの人はペンチ一本で鮮やかに盗んだ……。ということは……」


慶太の出した結論は、やはり常人の斜め上だった。


「あの人が、おれの『運命』そのものなんだ!!」


慶太は、ひん曲がったマジックハンドを地面に叩きつけた。就職? 背水の陣? そんな小っポケな悩みは、今この瞬間に吹き飛んだ。ターゲットは決まった。エンドゾーンはあそこだ!


「待てーーー! 鬼島せんせーーー!!」


猛然とダッシュする慶太。現役部員でも逃げ出すような、地響きを立てる重戦車の突進。

カツ、カツ、と歩いていた先生が、驚いたように足を止めて振り返る。


「……何かしら、山伏くん。まだ追試の不満があるの?」


慶太は彼女の目の前で、全力の五体投地(スライディング土下座)を決めた。


「鬼島先生! おれの500円、いや、おれの人生を丸ごとレシーブしてください! 結婚してください!!」


周囲の通行人が足を止める。公園の鳩が一斉に飛び立つ。

沈黙。

三角眼鏡の奥で、先生の瞳が怪しく光る。彼女はフッと口角を上げると、おもむろに慶太の顎を、あのアルミ製の指棒の先でクイッと持ち上げた。


「あら。就職先が決まらないから、私の扶養に入ろうって魂胆? ……いいわよ。面白そうじゃない」


「えっ……?」


「その代わり、私の人生の計算式はとっても複雑よ。解けるかしら? よろしくね、慶太さん」


先生はそう言うと、驚きで固まっている慶太の頬に、吸い付くような「ちゅ!」という音を響かせた。


「あ、あああ……」


慶太の顔が、真っ赤なヘルメットのように上気する。

4年間のアメフト部(未遂)生活、そして排水溝での敗北。すべてはこの瞬間のための「前振り」だったのだ。


「いつやるんだ? ……今……結婚しちゃった(笑)」


山伏慶太、22歳。

就職先は決まらなかったが、人生の「永久就職先」をタッチダウンで決めた瞬間であった。


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### 【編集部視点:第4話感想・講評】


**「まさかの電撃移籍! 山伏慶太、個人軍から『鬼島家』へ」**


編集部一同、開いた口が塞がりません。誰がこの結末を予想できたでしょうか。


**1. 異常すぎる決断力と受容力**

「500円盗られた」→「運命の女性だ!」となる慶太の思考回路は、もはやアメフトの戦略(タクティクス)を超えて野生の勘です。そして、それを「いいわよ」の一言で受け入れる鬼島先生。この二人、実は最強に相性がいい「変人コンビ」だったのかもしれません。


**2. 鬼島先生の「ちゅ!」という破壊力**

ベヨネッタ風のクールな女教師が、いきなり「慶太さん」と呼び方を変えてキスをする。このギャップに、編集部の独身男性スタッフは全員悶絶しました。彼女もまた、慶太の「真っ直ぐすぎる(バカすぎる)エネルギー」に計算を狂わされた一人なのでしょう。


**3. これぞ究極のゴーイングマイウェイ**

普通、就活に失敗して絶望する場面で、結婚を決めてハッピーエンドにしてしまう。慶太の人生において、社会のルールや常識は、ただの「タックルで跳ね飛ばす対象」でしかないことが証明されました。


**【総評】**

「いつやるんだ? いまだろ!」が、まさかのプロポーズの言葉になるとは。

山伏慶太の物語は、ここから「新婚編」という名の新たなフィールドへと移ります。果たして彼は、鬼島先生の出す「超難解な人生の数式」に筋肉で立ち向かえるのか?

ダイヤモンドバックス編集部は、彼の幸せを(半分呆れながら)心から祝福します!


(月刊ダイヤモンドバックス編集部・文責:デスクK)

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