楚公伝

猫又大帝

第1話「項烈、挙兵す」

 召安六年に景帝が崩御した。生前に大工事や戦争を頻繁に行っていたので当然といえば当然だが財政が悪くなり、次の皇帝の清帝は民に重税を課した。それに反発した農民が各地で武装蜂起を行い、国土は荒れた。七百年の歴史を誇る甲王朝の歴史が今閉ざされようとしていた。


―――青河以南の楚の地で項烈は生まれた。彼の字は子徳と云った。彼の父である項季はよく烈にこう言った。

「お前が何をしようと構わないし、どんな人間になっても父は何も言わない。ただこれだけは覚えておいて欲しい。

 そのせいか項烈は勧善懲悪を好み、何をするにも大義名分を欲しがった。一方で、彼の幼馴染の孫炎(子明)は手段を選ばない男だった。炎は烈が武芸に勤しむ時、いつでも本を読んでいた。勤勉な勉強家であった一方大義名分よりも実利を重視した。一見相性の悪そうに見える二人だが、関係は非常に良かった。項烈は武、孫炎は文と、互いの足りないところを補い合っていたからだ。

 二人はやがて成長し、項烈は二十四、孫炎は二十三となった。

「この頃物騒であるな、子徳(項烈)」

「ああ、強(如)将軍の率いる鎮圧軍が田賊(田永の蜂起から始まったのでこう呼ばれる)に奇襲を受けて討ち死にしたと聞くぞ」

 烈は炎と庭園を歩きながら語り合う。

「その息子の強辰は激怒して捕えていた捕虜四百人を血祭りに上げて(出陣前の儀式、牛や人の首などを生贄にして兵を鼓舞する)三万の軍を率いて参壬に向かったそうだ」

「参壬は都から遠かろう、何故またそんな辺境の地に?」

「なんでも将軍を討った陳鵜がそこに逃げたんだと」

 烈は大きなため息をついた。

「国は荒れ、民は苦しんでいる。何も将軍だけではない。宮廷でも賄賂が横行し、宦官が皇帝を蔑ろにして自分たちだけが甘い蜜を啜っている。朝廷は最早頼りにできまい」

 そんな烈を見て炎が燃える眼差しで口を開く。

「なあ烈、これは好機だと思わないか?」

「は?」

「今は乱世だ。我々が立身出世する良い機会だと言ってるんだ」

「つまり炎、お前まさか」

「ああ、挙兵して賊を討とう」

 こうして項烈と孫炎は挙兵することとなった。

 

 

 



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