恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない
つくばね なごり
第一章
第一話
「……放送部『以外』の思い出、ですか?」
わたしは、いま。
「そうですねぇ……」
インタビューを、受けている。
大好きな『丘の上』の放送室で、いつも読んでいたその雑誌。
高校の頃の、憧れだったその表紙を。
上京して、それなりの女優になったわたしが飾るなんて。
……
「お別れしたって、忘れない」
そう心に決めたときから、ようやくここまでやってきた。
だからきっと、きっと海原君なら。
やさしくほめて……くれるよね?
「あの頃のわたしの生活は、全部『放送部』を中心に回っていたので……」
高校二年生を終えようとしていた当時の、
もし、あの頃のわたしを思い返すとすれば……。
「あっ、そういえば!」
結局、これからお話しする思い出も。
いきつく先は……同じなのだけれど。
「あのとき、『会ってしまった』んですよ……」
わたしは、当時の『その人』を思い出しながら。
「ぜひ、聞いていただけますか?」
少し前のめりになると。
……あの頃に、戻ることにした。
「ねぇっ! ちょっと、聞い・て・よ・っ!」
放送室の扉を開いてわたしが叫ぶと。
中にいたふたりが揃って、こちらを見る。
「な、波野先輩……?」
まずそういって驚いてくれるのは、海原昴君で。
「姫妃、静かにしてもらえないかしら」
安定の無愛想な声なのは、
要するに、わたしたち『放送部』の部長と副部長だ。
「前の授業中に図書室いったら、『女装したおじさん』がいてね・っ!」
ホント、衝撃だよね!
「しかも座って、本読んでたんだよ!」
絶対、ありえないよ・ね・っ!
「は、はぁ……?」
「図書室で読書するのは……当たり前じゃないかしら?」
ちょっと!
いったいな・ん・な・の、このふたり!
「いや先輩、それよりも……」
「あなた。授業中に図書室で、なにをしていたの?」
おまけに……。
気にするポイントが、違わ・な・い?
「それは先生が、スマホとジャムと枕を忘れたから取りにいってあげただけっ!」
普通は、それ自体が『異常』ではあるけれど。
「ああ、なるほど」
「また『あの先生』なのね……」
ふたりはその点は、すぐに納得したらしい。
「でね、その『女装したおじさん』が・ね!」
だったら早く、肝心のことに共感してよと。
「いきなりわたしを見て『あんた、誰?』だよ。ありえなくな・い?」
もう一度わたしが、話しを振ったのに。
「その気持ち……わからなくはないわね」
月子は、失礼なことを平気で口にするし。
「ま、まぁ……」
海原君は、煮え切らない返事をするばかりだ。
「姫妃、そろそろいいかしら……」
月子はそういってから、小さくため息をつくと。
右手で、肩にかかった黒髪をサッと流してわたしを見る。
無駄に美しいその動作に。
わたしは一瞬、見とれてしまいそうになったけれど……。
もしかしていまのって、なにかの合図だったりする?
「……ホント、さっきから失礼な子よね」
するといきなり、割と最近聞いた気のする太い声がして。
「ちょっとあんた、いい加減気づきなさい」
「えっ?」
わたしが、開けたままの扉の裏へと顔を向けると。
あろうことかそこにはなんと。
……あの『女装したおじさん』が、立っていた。
「やや個性的な見た目ですが、腕は本物だそうです」
「あなた以外は、みんな校長から紹介を受けたのよ」
「ま、そういうこと」
海原君と月子、あと『おじさん』の説明によれば。
どうやらこの人の『きょうの職業』は。
まさかの……『学校案内の写真を撮る人』らしい。
ちょうどほかのみんなが、放送室にやってきて。
「これで、全員揃いました」
海原君がその『おじさん』に伝えると。
「よし、カメラテストしたいから並びな」
ショッキングピンクのフレアスカートをはいたその人が。
図々しくみんなに、呼びかける。
「あんた、早く作り笑顔の準備しな」
「えっ?」
「なによ? それくらいなら、あんただってできるでしょ?」
ちょっと。な・ん・な・の、この失礼な人!
ただ……この『おじさん』は。
見た目以外にも、とっても不思議な人だった。
「お澄ましのあんたは、並ばなくていいわよ」
月子が『写る気がない』のを見抜くのはまぁ、簡単だろうけれど。
「もう卒業するからって遠慮してるあんた、中央に入って」
「わたし、ですか?」
「ほかにいないでしょ、ほら
わたしたちを、あんたかフルネームのどちらかで呼んだりする上。
「じゃ。好きな人をイメージして、スマイルしなさい」
「えっ?」
「なによ? すぐそこの男、見たらいいだけじゃない」
わたし以外にも……容赦ない。
「ほら。
「は、はい」
「あんたたちも、女子高生のプライドあるんだったら……」
カメラを軽く構えた、その人が。
「『女装したおっさん』よりかわいいんだって思って、笑いなよ」
いいおえた瞬間に、シャッターを切る。
「よし、完璧」
「えっ、一回だ・け?」
「なによ? 『カメラの』テストっていったでしょ」
「でも……」
「ホント、失礼な子ね」
わたしをジロリと見たその人は。
「三秒数えな」
そういって目の前にずいと、カメラを近づけて。
わたしが数え終えるその直前。
一度だけ音を、響かせる。
「女優に憧れてまーすみたいな軽い女なんて、いっぱい見てるのよ」
「えっ?」
真面目な顔の『女装したおじさん』が。
「あんた、自分がかわいいとしか思ってないでしょ」
わたしの心を、突いてくる。
「でも、あんたは美しいよ」
おまけに、誰からもいわれたことのなかった言葉を。
「そう。かわいいんじゃなくて美しい」
この人は……平気で口にする。
……な・ん・な・の、この人?
「いわなかった? わたしプロだから」
その人は、今度はニヤリと笑うと。
「ほら、自分で確かめな」
撮ったばかりの写真を、手早くタブレットに映し出す。
「えっ……」
画面の中には、わたしがいて。
それは確かに、わたしなのだけれど。
……わたしが見たことのないような、わたしだった。
「ちょっと、海原昴」
「はい」
「このあと、『ひとりだけ』借してもらえない?」
その人が海原君に、話しを向けるあいだに。
「ね、ねぇ。玲香?」
わたしは、小声で。
「誰かわたしが女優志望とか、あの人にいった?」
念のために確かめたものの。
彼女は首を、ゆっくりと横に振る。
「決めたわ」
するとその人が、突然。
「あんたたちの学校も、美しく撮ってあげる」
めちゃくちゃ上から目線で、宣言すると。
それから……わたしのことをはじめて。
「だから波野姫妃。あんた、ちゃんと案内しなさいよ」
……フルネームで、呼んでくれた。
次の更新予定
2026年1月13日 15:00
恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない つくばね なごり @t-nagori
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