私と精霊が冒険者になった理由
三毛猫
第1話
私の一番古い記憶は、見上げた先にキラキラと光るモノ。星とは違い手に届きそうなソレは、私に話し掛けてくる。
ソレを知ったのは、巡業で立ち寄った町の教会。神官様の説法の一部で精霊の物語を話してくれた。魔法を使えるのは精霊が力を貸してくれるから。だから、魔法を使用する時に祈りの言葉があるのだと。
「火に宿りし聖なる者よ、この剣に力を貸したまえ ファイヤボール!」
少年が剣を振ると火球が飛び出し、魔獣に向かう。火球はスピードも威力も申し分なく、魔法のレベルの高さがうかがえた。少年の仲間たちの加勢もあり、角猪はその場に倒れた。
「おい、お前!こんな場所に一人で来るなんて危ないだろう!」
「そうよ、私たちが来てなければ死んでいたかもしれないわ。感謝しなさい」
少年と少女がギャーギャーと喚く。その後ろから少年たちよりも年上の男が前に出て来た。
「怪我はないか?ここに採取仕事で来るならギルドでパーティーを依頼してからがいいと思うが」
一人で帰れるのか、とその目が言っている。
まあ、角猪くらいなら私一人で討伐は可能だったんだけど、如何にも偉そうな態度をする人たちに余計なお世話などと言っては後々面倒になる。
「ありがとう。でも、一人じゃないから大丈夫だよ。それなりに闘えるから」
私は自分の左肩に触れるとキラキラと光り小さなモノが姿を現す。
「精霊使いか、珍しいな。だが、採取仕事をするようなランクなら、やはりパーティーを組むべきだ」
男は精霊に驚いてはいたが、根が真面目なのだろう。危険だ、帰った方がいいと注意してくる。一方、少年と少女は初めて精霊を目にしたらしく私の肩に釘付けだ。一応、魔獣を倒してくれた礼を言って場を離れようとしたところで、いきなり腕を掴まれた。
「何、痛いんだけど」
「なあ精霊って、どうやって捕まえたんだ?俺も欲しい!」
「私も!ね、その子貰えないかしら。勿論それ相応のお礼はするわ」
「お嬢……何を言って、駄目ですよ」
勝手な事をベラベラと話す若者二人にいきなり突風が吹き、後ろにあった木に激突した。
「若!」
男は慌てて二人に駆け寄った。
「……エシェ、いきなり駄目じゃない。危ないよ」
(だってアイツらムカつく!)
痛みをたえて、うずくまっている二人は此方を睨んでいた。結構な強さでやられたのに意識を保っている事に少なからず称賛した。
「ごめんね、この子が魔法を使っちゃって。でも、あなたたちも勝手な事言わないで?この子はお金とは交換出来ないの。じゃあね」
「すまない。二人には俺が言い聞かせる」
男がそう言うので小さく頷き、森の外へと向かう。まともそうな人が一緒で良かった。
「今日は早く帰りたいから翔んで行こう。エシェ、力を貸して」
エシェは分かったと言うなり、風魔法で私を包み浮遊させると木々をすり抜け森を見下ろせる高さまで高度を上げた。そして、そのまま町へと向かう。歩けば二時間かかる道のりを三十分程で外門近くに着いた。
空から降りてくる私に慣れたように手を上げて挨拶してくれる門番兵たちに軽く頭を下げる。
「ようティナ。随分早かったな。何かあったのか?」
「別に何も。ちょっと人に絡まれただけ」
「ああ……そうか、お疲れさん」
ある程度の事情を知る兵たちは、何を言うでもなく同情めいた視線で見送ってくれた。
「とりあえず、採取した物をギルドに提出しなきゃだね」
体力的には疲れていなかったが、久しぶりに人に絡まれて気分は下降気味だ。さっさと済ませて休みたかった。
仕事終わりの時間としては、まだ早いからかギルド内は冒険者も少なく査定もすぐに終わった。受付けで暇そうにしている職員のマリーに声をかけた。
「今日、森で私と同じくらいの歳の男の子と女の子に絡まれたんだけどね。ここのギルドじゃ見たこと無い子たちだったから。何か知らない?」
「……ああ、今朝に登録した人たちかしら。何て言うか自信満々な少年と気の強そうな女の子と、お付きみたいな年上の男性のパーティー」
少し眉間にシワを寄せて話すマリーに今朝も何事かがあったのだろうと話しを聞けば、
「一応お忍びみたいに振る舞っていましたけど、どう見たってお貴族様でしょう?最初入って来た時なんて、護衛も引き連れていて邪魔くさいったら!」
森には護衛の姿は見えなかったなと思い出す。どうやら護衛は少年によって下げられたようだ。自分の力で魔獣狩りをしたかったのだろう。確かに魔法レベルは高そうな少年だった。
「それにしても、彼らはなんでティナさんに絡んだんですか?」
「最初は私が一人で角猪を討伐してるのを見て、助けに入ったようなんだ。パーティーも組まないで森にいた事を注意してきたから面倒になって、エシェを見せたら買い取るとか言い出してね。エシェが怒って吹き飛ばしたの」
「あらら、もしかしたら逆恨みされたかもって?そういう事ならギルドでも気にして置きますね」
マリーはそう言って書類に書き留めた。
数日でも家に引きこもっていたら会わずに忘れてくれるかもと思い、その事を伝えギルドを出た。
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