転生テーラーの裏家業〜異世界で天才仕立て職人に転生した俺が特別な服や下着を作っていたら女性客が迫ってくるようになった件〜

藤白ぺるか

第1話 オフパコに興味はありますか?

「——オフパコに興味はありますか?」


 その一言から始まった今、青年は不本意ではあるが、非道な商売に手を染めていた。


「本当にいいのか……?」

「それが条件だったもの……抵抗はしないわ……」


 両腕を細い糸で拘束された、身なりの整った美しい女性。

 その体には、青年が丹精込めて仕立てた色鮮やかなドレスが優雅に纏わりついていた。


 けれど今、その胸元は彼の手によって露わにされ、美しく整えられたドレスさえも、白くきめ細かな肌を妖艶に際立たせるための一部と化している。

 芸術品のように完成されたその姿は、見る者の視線を否応なく惹きつけてやまなかった。


「このドレス……最高だっから……」

「だろうな。俺が全身全霊を込めて作った」


 女性には、どうしてもそのドレスが必要だった。

 しかもそれは、ただ美しいだけの衣装ではない。社交界で誰の視線も奪う、圧倒的な存在感を放つ一着。


 さらに、背に刻まれた大きな火傷を見せることなく、しかし不自然さも感じさせずに包み隠す――その相反する条件を両立させた特別なドレス。

 それを用意したのが、この青年だった。


 だがこれは条件付きのものだった。

 ドレスを仕立てる代わりに、女性は自分の体を差し出したのだ。

 最初から条件は提示され、彼女はそれを理解したうえで自ら提案していた。

 だからこそ、この行為に迷いはなく、全ては同意のもとで結ばれた取引だった。


「は、早くしなさいよ」

「震えてるぞ」

「う、うるさいわね。はじめてだもの……っ」

「そうか、なら遠慮なく楽しませてもらおう――」


 青年は自分よがりだが、作る衣装に関しては誰よりも真剣だった。

 その手腕だけは別格で、一部からは天才仕立て人テーラーと称されるほどの存在だった。


 そんな青年は、理性を振り切るように女性の胸元へ顔を寄せ、獣めいた衝動のままに深く埋もれていく。


「やっ!? そんなに吸い付かないで!?♡ 引っ張るのダメぇ!?♡」


 青年は女性の突起を舐め尽くし、唾液まみれにしながら唇で強く引っ張り上げる。

 熱を帯びた息と湿り気を残しながら、執拗なまでに繰り返されるその仕草は、ゆっくりと彼女の理性を溶かし、抗えない高揚へと導いていった。


 自ら手を出した悪魔との契約。

 それでも後悔はない。――たとえ身を差し出す代償を払うことになろうとも、彼女にとって得られるものは、それほどまでに大きな価値を持っていた。



 ◇◇◇



「うおおおおおおおお!! 期限! 納期! 締め切り間近!」


 1LDKのとある部屋。

 ベッドルーム以外の空間は、フィギュアやオタクグッズで埋め尽くされている。その中心、机にかじりつくようにして必死に手を動かしているのが、俺――才波零士さいばれいじだ。


 二十四歳。社会人二年目。

 少しずつ仕事にも慣れてきたが、家に帰った俺が向き合っているのは、本業とはまったく関係のない作業だった。


「みゃこりん……お前のために、最高の衣装を作ってやる……! もう少し、もう少しだ、待っとけ……!」


 今、作っているのはコスプレ衣装。

 魔法少女メグルマギアに登場する敵キャラ、露出度の高い衣装が特徴のサキュバギア。


 衣装作りは、高校生の頃からの趣味だった。

 最初はフィギュアの衣装を再現する程度だったが、それをSNSに投稿し始めると、思いがけず反響を呼んだ。


「等身大サイズも作ってみては?」そんな声に背中を押され、実際に好きなキャラの衣装を仕立ててみたところ、フォロワーから大絶賛され、着てみたいというコスプレイヤーから連絡が来た。


 衣装を提供すると、評価はさらに広がった。

 次も作ってほしい、あれもお願いしたい――そう言われるようになったのだ。


 だが、そこからが転落の始まりだった。

 知らない作品、興味のない衣装、異様なまでに細かい指示。

 俺はすべてに応え続け、気づけば衣装作りそのものが苦痛になっていた。


「好きな衣装を作りたいだけなんだよ……」


 作りたくもない衣装を作り続けた結果、俺は一度、針を置いた。


 そんな時、SNSに一通のDMが届いた。


『――私のためじゃなくていい。あなたが好きに作った衣装を、私に着させてくれませんか?』


 大学卒業間近の頃だった。

 それは、今までのどんなオファーとも違う言葉だった。


 俺は最後に一度だけ、とコスプレイヤー『みゃこりん』に衣装を託すことを決めた。


 それから彼女は、俺が好きに作った衣装を着てくれた。

 否定されることは一度もなく、まるで全肯定BOTのように褒めてくれる。

 気づけば俺は衣装作りが好きというの気持ちを取り戻させてもらっていたのだ。


 今では、彼女は人気コスプレイヤー。

 テレビにも出演し、さまざまな衣装を身にまとう存在になっている。


 それでも、時折連絡をくれる。「また、あなたの衣装が着たい」と。


 だから俺は、会社員を続けながら、こうして彼女のために衣装を作り続けている。


 ただし、今回だけは少し事情が違った。


 一週間前。

 制作の途中で、みゃこりんから個人メッセージが届いたのだ。


『――レイジさん。オフパコに興味はありますか?』


 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

 そう思う間もなく、続けてメッセージが送られてくる。


『レイジさんの作る衣装は、今まで着てきたどの衣装よりも一番でした。私……レイジさん自身に興味を持ってしまったんです。もともと気になる存在ではありましたけど、それは仕事仲間としてで……』


 まさか、ここまで真っ直ぐな言葉を向けられるとは思っていなかった。

 驚きよりも先に、胸の奥がじんと熱くなる。純粋に、嬉しかった。


『コミマが終わった日の夜、空いてるんです。私でよければ……』


 ――オフパコぉぉぉぉ!?

 いや待て、オフパコって……オフパコだよな!?


 あの人気コスプレイヤー・みゃこりんが、こんな言葉を送ってくるなんて。

 しかもメッセージとして残るリスクもあるはずなのに……童貞の俺なんかに……。


「いや、今は衣装だ! 何があっても期限までに仕上げて、みゃこりんに渡すんだ!!」


 煩悩を必死に振り払い、俺は再び布と向き合った。

 だが――


「あ……れ……?」


 視界がぐらりと揺れ、天地がひっくり返る。

 気づいた時には、床に倒れ込んでいた。


「力が――」


 ――入らない。

 指一本すら動かせず、立ち上がることもできなかった。


「まさか……過労、か……」


 衣装作りの時は、いつも睡眠時間を削り、限界までクオリティを追い求めてきた。

 今回も同じだ。会社員として働きながら、毎晩深夜まで作業を続け、慢性的な寝不足だった。


 等身大の鏡に映る自分の顔。

 そこには、深い隈を刻んだ、明らかに限界の表情があった。


 こんな生活を続けていれば、体を壊すのも当然か……。


「……クソ……みゃこりん……衣装、完成させられなくてごめん……オフパコも……っ」


 それが衣装を用意できなかった後悔なのか、

 それとも、童貞のまま終わる虚しさなのか……自分でもわからなかった。


 意識が遠のき、思考が白く溶けていく。

 その時だった。


『――あなたに、新たな人生を』


 透き通るような声が、ぼんやりと耳に届いた。









――――――


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