第13話 古代杭
ギルド本部にある図書室は、石積みの壁とアーチの連続で作られた、広大な地下空間だった。蝋燭の灯りは棚の縁だけを淡く照らし、紙と革の匂いが層になって漂っていた。わたしはセオドライトが入った革ケースを抱え、息を整える。この時間に部外者がここまで入れたのは、スレイが幹部権限を使ってくれたからだ。
「スレイって結構偉いのね」
「まあな。優秀な人材はどこでも頼りにされる」
彼は涼しい顔で、入室簿にさらさらと署名した。
「じゃあついてこい。ここで迷うと、一生出られないぞ」
冗談なのか本気なのか分からない。スレイは職員の案内を断り、奥に進んだ。セレナは私の隣で杖を胸に抱え、目をきらきらさせている。
「凛お姉様、全部が本ですわ。城の図書室よりも大きいかもしれません」
セレナは本を読むのが好きだったことを思い出す。
「そうだね。でも、まずは、調べ終わってから」
わたし達の目的は一つ。
――真新しい”古代杭”の正体を突き止めること。
見た目や紋章は太古の意匠そのものなのに、材質は新品。矛盾が喉に刺さった骨のように引っかかっている。
一冊の本を閲覧卓に運ばれてきた。表紙には
『古代杭に関する考察』
とある。迷いなくあるページを開いた。指先の黒ずみが、めったに開かれていない本であることを物語っている。
「これを見てくれ。今は廃れてしまった杭の種類とその紋章が書かれている」
わたしとセレナに見やすい角度に本を回す。
「『引き寄せる』『断つ』『避ける』『割る』……現代の杭は、地脈を“引き寄せる”効果のあるものしか運用していない。だが古代は、様々な杭を使い、地脈を文字通り地面に編み込んでいた、と書かれている」
「編み込む...まるで絨毯みたいですわ」
――この国の地図がタペストリーになっていることと関係があるのだろうか?
スレイは更にページを進める。そして一つの紋章を指差す
「これだ」
間違いない、あの真新しい”古代杭”に掘られた紋章と同じだった。効果の欄を見ると『跳ね返す』とあった。
「地脈をアクシオンから遠ざけることで、『引き寄せる』効果のある杭が傾いてしまったのですね」
地脈を操る初級講習を受けていたセレナは、今回の事件を、そう推測した。あのまま古代杭を放置していたら、地脈に見放されたアクシオンの地下水は枯れ、都市として立ち行かなくなるだろう。
「仮杭は現代のものが使えそうじゃないか。それなら早く抜いちまって、犯人の証拠を確保しちまおう」
ギルが息巻く。
「でも”古代杭”がどんな証拠になるの?」
私が問いかける。科学捜査ができるとは思えない。指紋も無理だろう。現物から製造元がわかる方法があるのだろうか。その疑問に答えたのはスレイだった。
「決定的とは言えないが、状況証拠はある」
といって、ほんの裏表紙を開いた。
そこには”アーヴェル・モルダン 著”とあった。
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