好きというたび、二人はすれ違う

月神天音

第1話 好きだと決めなかった日

朝の教室。

優里は、窓際の席に座る音葉をちらりと見た。髪の一房が光に透けて、いつもより柔らかく見える。

それだけで胸がきゅっとなるのを、優里は押さえた。

朝の会話は、いつも通り友達同士の雑談で流れる。

けれど、耳に入ってくる音葉の声に、なぜか心が落ち着かない。

声を聞きたくて、でも近づきたくない――そんな気持ちが混ざったまま、優里は机に手を置いた。

放課後、教室を出る音葉を見かける。

廊下で偶然顔が合った瞬間、優里は思わず視線を逸らした。

――返事はまだ出せない。

だけど、音葉は何も言わず、軽く手を振る。その優しさが胸に刺さる。

二人で歩く帰り道。並ぶ距離は、いつもより広い。

音葉は少し不自然に背伸びして空を見上げる。

優里は歩幅を合わせながら、声をかけようか迷った。

(……今日、一緒に帰れたらよかったのに)

心の中で呟く。

でも、口には出せない。

言えば、未来が決まってしまう気がした。

途中で落ち葉を踏む音に、二人の足音が重なる。

ちょっとした沈黙が、妙に長く感じられる。優里は、いつもより少しだけ心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

家の近くに着く。

音葉が振り返って笑う。

その瞬間、言葉にならない感情が胸にあふれる。

好きだと言わなかった日。

選ばなかった日。

その分だけ、明日が少しずつ減っていく気がして、優里は息をつく。

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好きというたび、二人はすれ違う 月神天音 @Yukizora

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