第12話 背中が治ったら覚えてろよてめぇ

「ということで琴遥ちゃん、勉強しようぜ」

「頑張りましょう」

「え? あの? え?」


 妙にやる気な一哲と加恋。

 そして何がどうなっているのか戸惑う琴遥。


 勉に暴言を吐かれて凹んでいた様子はもう無いが、その代わりに困惑してしまっていた。


「何がどうしてそうなったのか、全く分からないんだけど」

「だから、実力テストであのファザコン野郎より良い点数をとってざまぁって言ってやるんだよ」

「見下している相手に負けたら恥ずかしくてたまらないでしょうからね」


 加恋は一哲をチラっと見たが、一哲は気付かなかった。


「どうして二人ともいきなりそんなに好戦的なの?」


 琴遥の疑問に二人は声を揃えて答える。


「「ムカつくから」」


 勉の言葉の何処に二人の逆鱗ポイントがあったのかは分からないが、相当ご立腹なのだと琴遥は理解した。


「琴遥ちゃんだってあんなこと言われたら腹立っただろ!」

「…………うん」

「言われたままで良いの?」

「…………いや、だよ」

「なら」

「でも!」


 少しだけ悲し気な表情になりながら琴遥は声をあげて抗議する。


「私なんかじゃ勝てないよ……」


 自信の無さを反映しているのか、抗議の力は段々と尻すぼみになっていった。


「でも音乃葉さん。この学園に入学出来ているということは、あなたも実力はあるのでしょう?」


 輪音学園の偏差値は非常に高い。

 それは優秀な学生を選んでいるからではなく、AIが選ぶ学生がたまたま優秀な学生ばかりだから。バディシステムを有効に働かせるには、一定ラインの水準の学力が必要なのかもしれない。


「そりゃあ受験勉強頑張ったもん。でも受験終わってから勉強してないし、そもそもトップクラスの人達とは差があるし、勝負になんてならないよ」


 今度は一哲がチラっと加恋を見る。

 受験後に勉強を止めるのが普通であり、お前が異常だと言わんばかりの目だ。


 加恋はその視線に気付いたが何も言わない。自分が異端側だということを自覚していたから。


「だからって諦めるなんて言うなよな」

「そうよ。やってみなければ分からないわ」

「二人とも……」


 励まされて少しだけやる気が戻って来たのだろうか。

 目に力が宿り始める。


「(結構単純なんだな)」

「(結構単純ね)」


 大した励ましをしていないのにすぐに元気になった琴遥の様子を見て、ちょろそうだと思ってしまう一哲達。嫌い合っている割に脳内はシンクロしていた。


「無理かもしれないけどやってみる。ただ……」

「「ただ?」」

支暗はぜくら君が協力してくれたら、良い点が取れそうな気がするんだけど」


 支暗はぜくらしずか

 琴遥のバディ。


 自分のバディが暴言でショックを受けていたというのに、全く気にする様子が無く席に座り俯いてブツブツ呟いていた。


「どうしてあいつの協力が必要なんだ?」

「多分だけど、このバディシステムって色々と正反対な人が組むようになってると思うの」


 青春よりも勉強を選ぶ加恋と、勉強よりも青春を選ぶ一哲。

 明るく何事も楽しもうと積極的にクラスメイトに話しかける琴遥と、暗くてじめっとして一人の世界に閉じこもるしずか


 他のクラスメイトも、目に見えて反対の部分がある。


「それって性格だけじゃなくて、勉強もそうじゃないかって思う。だから私が苦手な科目は支暗はぜくら君が得意かもしれないの。だから協力してくれるなら良い点が狙えそうなんだけど……」


 一哲と加恋はお互いに視線を合わせる。


「数学」

「歴史」


 前者は一哲、後者は加恋。

 それぞれの得意科目であり、しかも相手の得意科目は自分の苦手科目だった。


「私達だけじゃなんとも言えないけど、正しいかもしれないわね。お互いが補い合えるのはバディと共に成長するという方針に適っているもの」

「なら簡単な話だ。あいつにも協力してもらえば良い」

「え、ちょっと!」

「一哲君!?支暗君は話しかけられるのが!」


 女性陣の声を無視して、一哲は遠慮なく静に近寄った。


「よう、支倉! 俺は巌流島一哲。よろしくな!」


 それはまさに陰キャに絡む陽キャの図。

 一人にして欲しい静にとって、最悪のアプローチ。


 しかも一哲は初対面だというのに、肩を組んだではないか。


「琴遥ちゃんがバディだなんて超羨ましいなお前。俺のアレと交換してくれよ」

「…………」

「な~んて、そりゃ嫌だよな。安心しろってゴミを押し付けるような真似はしないからさ」

「…………」

「それよりお前、さっきの俺達の話聞いてたか? あのファザコン野郎、ひでぇこと言うよな」

「…………」


 どれだけ親し気に話しかけようと、静は何も返事をしない。

 一哲に顔を合わせることもしない。

 それどころか、物凄い小声でブツブツと『うるさいうるさいうるさいうるさい』と呟いている。ただあまりにも小さすぎて間近の一哲にすら聞こえていないが。


「可哀想だと思わない? 思うよな、思わなきゃ男じゃねーよ」

「…………」


 相変わらず静が無言であることに変わりはない。

 ただし全身の小刻みな震えがピタリと止まった。


「女が泣かされそうになってるんだ。男なら黙ってられないだろ」

「…………」

「おっと分かってる。バディを組まされてるってことは、お前はあいつのことが嫌いなんだろ。あんな可愛い娘が嫌いだなんて贅沢な話だが、それを否定するつもりなんて無い」

「…………」

「だがそれでも男ならやるべきだ。そうすればお前の男らしさに惚れて、あいつとは別の女が仲良くしてくれるかもしれないぜ」

「…………」

「お前だって男だろ。女の子と仲良くしてエロいことしたいはずだ。最初は怖いかもしれないが、勇気を出して行動すればいつかは……」

「…………る」

「え?」


 静が一哲に聞こえる大きさで何かを言おうとしている。

 そのことに気付いた一哲は話をストップさせる。


 説得により、やる気を出してくれたのだろうか。

 やってみる、とか頑張ってみる、と言ってくれるのだろうか。

 そう期待する一哲だったが、現実は残酷だった。


「お前に何が分かる」

「…………」

「女なんか……女なんか!」

「うお!」


 静は一哲を思いっきり突き飛ばし、走って教室から出て行ってしまった。

 突き飛ばされた一哲は背中を・・・床にぶつけるように倒れてしまう。


「ぬおおおおおおおお!いってええええええええ!」


 衝撃により悶絶する一哲。

 ウザ絡みした罰が当たったのか。


「何やってるの」

「だから話しかけたらダメって言ったのに」


 加恋と琴遥が呆れたような顔をして近づいてきた。


「白」


 天井を見ながら一哲が何かを呟き、加恋は慌てて顔を赤くしてスカートを抑えたが、琴遥は全く動揺していなかった。


「その角度からじゃ見えないもんね」


 一哲のブラフであり、反応したら負けだった。

 どうやら今日の加恋の下着は白らしい。


「この変態!」


 激昂する加恋だが、一哲は追加で煽ったりするようなことは無かった。


「変態……か。男なんて皆そんなもんだ。あいつだって本当は……」

「一哲君?」

「うっし、俺ちょっと行ってくる」


 勢い良く起き上がり、一哲は教室を出ようと歩き出す。


「何処に行くの?」

「そんなの決まってるだろ。男同士の話をしに行くのさ。本当は女の子を追いかけたいけれど、これもまた青春だ」


 格好が良いような悪いような微妙なセリフを残して一哲は歩く。


「一哲君、ありがとう。静君のことよろしくね」

「おうよ」


 一哲は振り返ることなく右手をあげて答えた。

 もちろんそれが格好良い姿だと思っているから。


 だがしかし。


「それと、背中すっごい汚れてるから台無しだよ」

「マジで!?」


 教室の床に寝転がってしまったため、かなり汚れが目立ってた。どれだけ格好良い仕草をしても無意味である。


「なら行く前に私が綺麗にしてあげる」


 これはチャンスだと言わんばかりに加恋が一哲に近づいた。


「な!お前まさか!止めろ!」

「遠慮しないで、私の厚意を受け取りなさい!」

「ぎゃああああ!いでええええ!」


 背中の汚れをとるために、加恋は思いっきり背中を叩いた。

 それは当然、一哲に対して大ダメージとなるのであった。


 昨日胸を揉まれたことに対する意趣返しである。

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バディ・ボディ・バディ マノイ @aimon36

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