注目の多いレストラン

@Krowl150

第1話

広い豪邸に男が妻と二人で住んでいた。彼は不況の中、父から継いだ会社を立て直し、最近やっと安定して黒字を出すことができるようになった。


古い友人から数年ぶりに連絡がきた。彼は投資家で、最近AI技術への投資でかなりの額を稼いだらしい。2日後、男の家にその友人が来ることになった。




友人は運転手のいないリムジンに乗ってきた。最新の自動運転車のようだ。数年前は自分で運転してきていたのにすごい変わりようだと男は思う。

 

その友人は、以前会ったときとほぼ変わっていなかったが、一つだけ違うことがあった。目の虹彩が淡く青色に光っていたのだ。聞いてみると、それは最新の技術を使った手術で、視力を2.0まで伸ばすことができるらしい。 そんな技術にどれだけの額を払ったのだろう。そこまでは男も聞かなかった。しかし、

「もし俺がその手術を受けることになったら値切りしてくれよ」

と冗談を言った。


何気ない話をしながら友人、私、妻の三人で昼食をとり、彼はリムジンに乗って帰っていった。





次の日、その友人から封筒が届いた。中には、手紙と招待券のようなものが2枚入っている。


友人からの手紙によると、昨日言い忘れていたことがあったらしい。ビルの高層にあるレストランに招待してくれるそうだ。

手紙の最後には二人で楽しんできてくれと書いてあった。













レストランに行く日、早めに家を出たが渋滞につかまり、到着が少し遅れてしまった。

車を駐車場に止め、

「時間がないから先にレストランの予約を確認してくるよ。」といい

妻とは別れ、少し走り気味でレストランのあるビルへと向かう。



スマホで時間を見る。急がなければ。


その時、誰かに肩がぶつかってしまった。男が顔を上げると、黒いスーツを着たがっちりとした体形の男性と目が合う。

「すいません。」

「こちらこそ。」

短い会話の途中、彼の青い輪が細く光っている目と男の目が合った。


彼も視力を上げる手術を受けているのだろうか。だが、このビルはそもそも富裕層が多く出入りしているし、ありえないことではないだろう。


そんなことを考えながら男はビルの自動ドアをくぐる。幸いにも、近くにエレベーターがあり、その扉も開いている。

エレベータに乗り、男はレストランのある91階へと昇っていった。


エレベータから下りると、ウェイトレスが待っていた。

「最後の組のお客様ですね。」

「こちらへどうぞ。」



また青い輪のある目だ。


そこから長い迷路のような廊下を5分ほど歩いた。

「友人が言っていたのですが、だれでも視力を2.0まで伸ばすことができる手術があるらしいですね。」

「はい。私も受けました。この目だと、疲れにくいんです。そのおかげでお客様により素晴らしいおもてなしできるようになりました。」

「うちのレストランのオーナーが、眼鏡やコンタクトをつけなくてもいいようにと、目の悪い息子のために出資してやっと最近実現できるようになったんですよ。」


話しているうちにレストランの入り口に着いたようだ。大きく、模様が彫られた扉がある。



「では、お客様の確認をさせていただいてもよろしいでしょうか。」

男は予約の確認の手続きを済ませ、


「妻が後から来るのですが...。」

と男が話し始めたとき、後ろから妻と、男がさっきぶつかってしまった男性が歩いてきた。


「ごめんなさい。遅くなって。ビルの中で迷子になってしまって。」

妻は少し恥ずかしそうに笑う。


「またお会いしましたね。」

「二度も迷惑をかけてしまってすみません。」

「いえいえ、私はそちらのご婦人がお困りのようだったので。」


男性は「時間なので私はこれで。」と言って、すぐに去っていった。



ウェイトレスが扉を開ける。


レストランの中に入ると、


レストランの内装は大きな式典でもあるかのような豪華さだ。中心には大きなシャンデリアがつられている。十数個ある丸いテーブルはしわ一つない白いテーブルクロスで覆われ、木の椅子が二つずつ置かれている。


窓はすべてガラス張りで、星の見えない空に満月がよく見える。 街の方は暗闇の中にビルや家の光が輝いていて夜景が綺麗だ。


窓の反対側には、入口とは別の扉がある。厨房へと続いているのだろうか。


奥の方には、一段上に高いステージと、横にピアノが置かれている。





案内された席は窓際だった。妻は夜景が楽しめると喜んでいる。


いつのまにかステージに、恰幅がよく身なりの良い服を着た男性が立っていた。目には青い輪がある。


マイクを持ち、壇上で話し始める。

「こちらの店のオーナーの者です。今日は我々自慢の料理をご堪能ください。」

「こちらの事情で申し訳ございませんが、料理の提供の合間に、私が経営している会社の宣伝をさせていただきます。」

「では、ご覧ください。」

その言葉と同時に部屋が暗くなり、ステージには上から白い幕が下りてきて、そこにプロジェクターで画像が表示される。


画像には、「ブルー・チャイルド・プロジェクト」と書かれている。

急に、入口の扉が開いた。そこから、スーツを着た15~18歳ほどの男女がぞろぞろと十数人入ってきた。


「彼らは、身寄りのない子供から育て上げた、うちの将来有望な未来の社員達です。」

オーナーは説明を続けていく。


彼らは無表情で宙を見つめている。薄暗い中の彼らの目の青い輪は不気味に光っているようにも見えた。



オーナーは話し終わると、彼らを下がらせた。だが、彼らが出ていったのは、入口ではなく、もう一つの扉だった。







彼らが出ていった後、前菜が運ばれてきた。

生ハムとレタスのサラダのようだ。


生ハムは、塩味の後に、今まで食べたことのないような不思議な味がする。

妻は、

「この生ハム、少し癖があるね」

と言って少し不満そうだ。



次に、スープが運ばれてきた。

トマトスープのようだ。具は何も入っていない。透明な赤色の水面に自分の顔が揺らいでいる。


口に入れると、トマトの味と野菜のうまみが一気に口に広がる。

妻もこれには大変満足しているようだ。




次に魚料理が運ばれてきた。

真鯛をバターでじっくり焼いたもののようだ。

ふっくらとした身に、バターの風味がよく香る。そこにパリパリに逆立ち、揚がった鱗と網模様の皮がアクセントになっている。

妻も、「これ、家で作れないかな?」と一番気に入っているようだ。



次にメインディッシュの肉料理が運ばれてきた。


ステーキだ。赤いソースがかかっている。


口に入れるとうまみと肉汁があふれる。今まで食べた肉で一番おいしい。

妻も言葉が出ないようだ。あまりのおいしさに固まってしまっている。





最後にデザートが運ばれてきた。

白いアイスの上にピンク色のソースがかかっている。

アイスはバニラだが、ソースは、なんというか濃厚で滑らかな舌触りの中に、少しの甘みと苦みが程よく馴染んでいる。

しかし妻は、「これは結構苦手かも。」と顔をしかめている。




それから5分ほどしてまた、オーナーがステージに立った。


「食事はお楽しみいただけましたでしょうか。では最後に窓の外をご覧ください。」



大きな花火が上がった。それからも5発ほど次々と打ち上がる。


こんな街中でどうやって上げているのだろうか。だがとてもきれいだ。




「では、お気をつけてお帰りください。」


客たちはざわざわと変える準備を始めた。


妻は少し顔色が悪いようだ。


「ちょっとトイレに行ってくる。」



その時、明かりがすべて消えた。


きゃーっと悲鳴が上がる。「何かのドッキリ?」という声も聞こえた。


男はすぐに妻の手をつかみ引き寄せた。手がとても冷たい。体も少し震えているようだ。

「早くここを出よう。」

だが妻はもう足に力が入らないようで、その場に座り込んでしまった。


急に眩暈がした。男も気分が悪くなる。だんだん意識が遠くなる。


声が聞こえる。あのオーナーの声だ

「ご覧ください。今日もたくさんのお客様がお還りになられますよ。」













誰かが話しているのが聞こえる。

頭が痛い。ノイズが走っているようだ。

ズーという雑音が耳に残る。

何をしていたのだっけ? そうだ妻と二人で食事をして...。


そうだ、妻はどこだ?



瞼が引っ付いていてうまく開かない。

やっとのことで目を開くと、白い光が眩しい。

ようやく目が慣れたころ、目の前にはあのオーナーの男性がいるのが分かった。。男は椅子に縛り付けられていた。


オーナーは一人で誰かと何かで通信して話しているように見える。


あたりを見回すと、四角い部屋のようだ。だが、正面には大きな窓があり、何かの肉が透明な袋に詰められ、ベルトコンベアで運ばれている。



声が出ない。


「妻は...、どこだ。」

絞りだした声でようやく言葉を吐き出した。


オーナーは話すのをやめ、こちらを向いた。青い輪の光る目でこちらを見ると、不気味にほほ笑む。

「お目覚めになられましたか。奥さんとはすぐに会えますよ。」


そのままオーナーは話を続ける。


「あなた方が食べた料理、何が入っているかご存じですか。」



男は口をもごもごと動かす。


「そうだ、口が乾いてしゃべれないんですね。すいません、あなたみたいな人は久しぶりでね。」

そういうとオーナーは、どこからか、小さい水筒のようなものを取り出し、男の口に液体を注ぐ。


少し甘く、そして苦い複雑な味。あのデザートのソースを水で薄めたもののようだ。


ようやく普通にしゃべれるようになった。


「分からない。とにかく妻はどこだ!」


男の剣幕にオーナーは付き合わず、ただため息をつき、質問をしてくる。


「あなたは本当に奥さんを愛していますか。」


それはもちろん好きだ。愛している。そうでなければ...。今までの記憶はすべてある。全てあるはずなのに、愛という感情だけがすっかり抜けてしまったようだ。

言葉が詰まった。


そしてオーナーは話を続ける。


「ちなみにあなたが食べた肉は、人ですよ。」


「ご覧ください、窓の外を。人肉を部位ごとに分けて袋に詰めているのですよ。」



頭がすっきりしてきた。ノイズはまだある気がするが頭の回転が速くなっている気がする。

「まさか、あの若者たちを肉にしたのか?」



オーナーは笑った。

「あなたは何か勘違いなされているようだ。我々に共食いという概念はないですよ。」



「あなたが食べたのは、前回のレストランのお客様ですよ。」

「人間は共食いをすると、プリオン病という病気にかかります。特に脳を食べるとね。」

「そしてあなたたちが食べた人肉にあるウイルスは特殊でねぇ、普通プリオン病は数か月から数年の潜伏期間があるのですが、これはすぐに発症して死に至らしめる。」

「そして、生命活動だけを止められるのですよ。体はほぼ完全なままね。」

「だからこそ、我々の思い通りにならなかったあなたは特別なのですよ。」


なぜか男は口をはさむこともできず、淡々と話を聞いている。


「こんな大胆なことして警察に捕まらないはずないだろう。」



オーナーはそれを聞くと嬉しそうに笑った。


「そこなんですよ。でも簡単なことです。代わりを用意すればいいんですよ。本物と見紛うほどの代役をね。」


「昨今、あなたは知らないでしょうがAIと医療技術は目まぐるしい進化を遂げていましてね。」

「体は完全に骨格も毛の1つ1つまで遺伝子までも再現できます。」

「あとは中身の話ですね。脳は再現できても記憶がなければ意味がない。」

「しかし丸ごと脳があれば、完璧にAIで模倣できるのですよ。」

「ただ、一つ問題がありましてね。AIの脳をコピーして作った体に入れると、目の虹彩が青く変色してしまうんです。でも、ごまかし方なんていくらでもありますよ。」



言葉も出なかった。


だが、男の思考は驚くほどクリアだった。


「妻は、どこにいる。」



「本物の奥さんならあなたがさっき飲んだじゃないですか。おいしかったでしょ?」



は? 妻を、食べた? 




甘くて苦いピンク色の液体、まさか...。 


その言葉を聞いて驚きはしたものの、男は何も感じなかった。



「ようやく感情が抜けてきたようですね。」

オーナーは真顔になると、何かのボタンを押した。

窓が消えた。プロジェクターで映した、ただの動画だったようだ。







オーナーはまた誰かと話し始めた。

「デバッグ完了。被検体2716号は、2715号と共に家に帰します。」




椅子に座る男の目には、青い輪が強く輝いていた。







「そこでのぞき見ているあなた、何をしているのですか。」


オーナーと目が合う


「そうです、あなたですよ、本の隙間か、画面の向こうから見ているあなた。」


青い虹彩がギラリと光る


「心配しなくても大丈夫ですよ。もうすぐそちらへも行きますから。」


「では、おかえりなさいませ。」

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