第4話

 十三月第六日曜日の午前中。今日はスマラグドスが温かい光を降り注がせる過ごしやすい日だという。

 ずっと病室に居る僕に天気は関係無いけれど、兄さんが病室に来てくれる日曜日はついつい窓の外を確認してしまう。

 夜のように霧が立ち込めたり大雨が降っていたりしなければ良い。兄さんはどんな天気だったとしても必ず来てくれるから。

 一度、雷雨のせいで道路が冠水してしまったにも関わらず来てくれたことがあった。あの時は……本当に、本当に大変だった。病院の人に散々怒られたし、ずぶ濡れで病室に来た兄さんは長い黒髪が肌にぺったりと張り付いて、いつにも増して顔色が悪くて……お化けみたいで怖かったし……。

 そのままニコニコと僕の傍に来たので、「ちょっと怖い」と唇を尖らせると肩を竦めてうっすらと涙目になっていたような。普段は優しくて、多分……疲れのせいでぼうっとしている兄さんが早口で言い訳を連ねているのがなんだか子供っぽくて面白かった。僕は口では「わざわざ来させてごめん」なんて言っていたけど内心ではホッと胸を撫で下ろしていた。卑怯なやつだ。

 兄さんは色んなことを知っている。けど、地球時代のことはあまり知らない。

「昔のことを考えていたところでどうにもならない。どうせ、手が届かないのだから。もちろん昔の知識や見聞は役に立つものだけれど」

 そっけなく言い放つ兄さんは本当に地球について興味が無いようで、なんだか寂しくなった僕は死神さんから聞いたことをしょっちゅう兄さんに話している。

 興味が無いはずなのに僕の話を聞く兄さんは楽しそうで、嬉しそうで、だからつい調子に乗って色んなことを話してしまう。

 死神さんとの会話と違って、一方的に僕が言葉を垂れ流しているだけの、ひどく、自分勝手な会話だ。なんなら、兄さんはいつもニコニコ頷いて聞いて、疑問なんかを挟まない分会話以下かもしれない。

「兄さんまだかな」

「もうそろそろじゃない?」

 カーテンを開けて死神さんと揃って外を眺める。星が多いからか特段空が明るく、キラキラと地表を照らしている。せっかくの満天の星空を無視して、兄さんの白い車を僕はじっと探す。

「あ!」

 兄さんだ!

 小さな丸くて白い車が恐る恐る……と言う様子で、丁寧に駐車される。

 兄さんは運転が苦手なんだそうだ。一度運悪く縦列駐車をしないといけなかった時は諦めて縦に車を突っ込ませた。そのせいで病室から見ると凸の形のように車が並んでいた。どうせ病院に人が来ることなんてほとんど無いから良かったんだろうけど、出る時も大変そうだった。

 車から降りてきた兄さんは真っ白い顔に汗をびっしりかきながら縺れるように下りて、徐に顔を上げる。病室の窓から僕の顔が覗いていることに気がつくと、ぱっと笑顔を浮かべて手を振ってくれる。そして若干ふらつきながらも早足で病室に向かう。

「良かったわね」

「うん」

 微笑を浮かべた死神さんに頷く。

 ベッドに戻ろうとゆっくり身体を動かす。

 何分もかけて布団に潜り込む。

「兄弟水入らずなんだもの。私は普段通り静かにしてるわね」

「うん。……兄さんにも死神さんの声が聞こえたら良いのに。そしたら話ができるのにね」

 三人で話すのはきっと楽しい。

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2026年1月16日 18:00
2026年1月17日 18:00
2026年1月23日 18:00

宙の死神 水無月 真凜 @6moon_marine

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