未来の日常

空木 架

置き配

「またか……」

 

 京香きょうかは、ベランダに置かれた宅配物を見ながらつぶやいた。


 「もう! まったく。なんでこんな法律作ったんだか……」


 宅配便の再配達の削減を目指して、手渡しでの配達を有料化する政策を施行してから10年。

 施行直後から、『手渡し指定』にしているにも関わらず勝手に『置き配』されるトラブルが相次ぎ、SNSやニュースで度々取り上げられていた。

 

 技術が発達し、ドローンで配達できるようになると、置き配の場所にベランダが追加され、同時に手渡しの配達が廃止された。それでも配達のトラブルは減らなかった。

 ベランダ指定した荷物が玄関に置き配されてしまうといった配送ミスが多かったのだ。


 京香は、以前に置き配された荷物が盗難に遭った事もあり、基本的に全てベランダを指定して買い物をするようにしていた。しかし、何にでも例外はある。

 

 昨日、京香がネット販売大手の『ギアナコーチ』で注文したとき、この荷物は確かに玄関前に指定したのだ。そして、同時に注文した食料品は、いつも通りベランダに指定した。

 

「ということは……玄関前に食料品が届いているということか……」


 いたずらされると困るので、食料品は玄関前に配達されるのは避けたいのだ。しかし、今回ばかりは、こっちの荷物の方が問題だ。


「どうしようこれ……」

 

 京香は、ベランダに無理やり突っ込まれ、手すりに乗り上げて斜めに傾いている新車を見て、途方に暮れるのだった。

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